放送局: ディスカバリー

プレミア放送日: 6/2/2003 (Mon) 20:00-21:00

製作: オリジナル・プロダクションズ、ディスカバリー・チャンネル

製作総指揮: トム・ビアース

共同製作総指揮: スコット・ハロック、ケヴィン・ヒーリー

ホスト: スティーヴ・ワトソン


内容: 住人の好みに合わせ、住居を大改造する様をとらえる。


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近年、ドキュメンタリー専門チャンネルというよりは、リアリティ・ショウ系の番組の比重が飛躍的に高まったディスカバリー・チャンネルは、昨年、「モンスター・ガレージ」というなかなか奇抜でユニークな番組を生み出した。水陸両用ビートルだとか、芝刈り機となって時速60kmで走るフォード・ムスタングだとか、エンジン熱でホット・ドッグを焼くホット・ロッド・レーサーだとか、スノウ・モービルと化したミニクーパーだとか、要するに、市販の車を改造する様をとらえた番組である。よくもまあこんなことにこれだけの情熱をかけられるよなあというくらい、無目的的で、バカらしく、痛快な番組だ。私のような隠れ番組ファンもかなりいるようで、なかなか人気番組になっている。


それに味を占めたか、この度ディスカバリーが製作したのが、この「モンスター・ハウス」だ。同じ「モンスター」を頭に冠していることからでもわかるように、番組の基本的な構成は「モンスター・ガレージ」とほとんど同一で、今回は、ただ車の代わりに普通の家を、持ち主の意図に合わせて改造してしまおうというものである。


そのプレミアの回は、カー・マニアで毎週サーキットに出るという家の主の趣味に合わせ、住居をそれらしく改築してしまう。なんせ家の改造だから、工事中は住民は家には住めない。ということで不安な住人を一週間トレイラー・ハウスに送り込んだ後は、まずはちょっとはったりを利かせた演出で、改装担当集団がスレッジ・ハンマーで玄関をぶち壊して侵入する。いったん中で手順を決めた後は、銘々好き放題に壁をぶち破ったり天井をくり抜いたり収納をぶち壊したりしている。そこに住んでいる住人ならこういうシーンは見たかあるまい。


で、各部屋のそれぞれで、車をテーマとした改装が行われる。ベッド・ルームのベッドは空気圧で上下する仕掛けになっており、ベッドというよりは修理工場のジャッキに感覚が近い。なんでも4段階変速で振動するスピードを変えられるそうで、それって‥‥いったい何のために? 頭の方のボードにとりつけられたHi-Fiのスイッチは、他でもないカー・ステレオのものだ。リヴィングのカウチはホンダのデル・ソル (日本でもこの名称で売ってただろうか) の後ろ半分で、ハッチ・バックのドアを取り外して、後部トランクをカウチにしてしまった。ここでもTVの音声は車の中のカー・ステレオから聞こえてくる。


キッチンの床は白黒のチェッカーフラッグ模様のタイル張りになっている他、壁に車のボンネットが取り付けられ、電動でそれが倒れてきて、テーブル代わりになる。カウンターのストゥールはタイヤのアルミ・ホイールを利用しており、座る部分にはまだアキュラのロゴがしっかりとついたままだ。どっかの廃品屋から手に入れたものだろう。しかしあれって、どう見ても座り心地がよさそうには見えないが。


しかし 私が最も受けたのは、サーキットでチームが車のタイヤを取り換える時に使う、パワー化したナット回しで、今回、なんとそれがキッチンの頭上に設置されている。違うのは、先っぽにナット回しではなく、泡立て器がとりつけられていることで、つまり、タイヤのボルトのナットを回すのと同じ感覚で、泡立て器をぐぉーっと回転させてしまおうという発想がすごい。


だいたい、あれ、秒速何回転するのかは知らないが、F1なんかで使っているのを見ると1秒でナット外しているし、結構ものすごいパワーとスピードで回っているに違いない。それを一般住宅の泡立て器に転用するか、普通。ケーキ作るために卵の白身を泡立てるのなんて、あれだったら3秒で終わってしまうんじゃないか。しかも実は泡立てるのって、やり過ぎると分子の繋がりを切ってしまって、逆にケーキは膨らまなくなるんだぞ。過ぎたるは及ばざるがごとしってことわざ知ってるか (知ってるわけないか)。とはいえ、見た瞬間にはあれは爆笑してしまった。奥さんがこれまた嬉しそうにその泡立て器を見て喜んでいるんだが、やはりそれ、どう見ても実用的には見えんぞ。


とどめは究極の自堕落リクライニング・チェアで、なんとなんでもかんでも電動化してタイヤをとりつけないと気が済まない今回のリフォーム・チームは、そのチェアを電動の車椅子化させてしまう。時速30mph (約50km) で走るリクライニング・チェア‥‥これまたいったいそういう必要があるのか。家の主人はその電動チェアに乗って、気の向くままにこちらでTVを見、あるいは家の外にまでチェアに乗ったまま出てしまう。番組の最後は、そのチェアに乗った主人が、ブオーッとストリートを走っていき、それとすれ違ったリフォーム・チームがその後ろ姿を見送って幕、という変な演出になっており、ちょっと、どっちも恥ずかしいぞと思ってしまった。


今後の番組の改装テーマとしては、南国の楽園、70年代、中世のお城、ハロウィーン・ハウス、禅ハウス等が挙がっており、本当に住むならば、日本人としてはやはり禅ハウスが一番落ち着きそうだ。それ以外では、やはりタダでもこういう家には住みたかないなあと思う家ばかりである。だって、毎日、その家で寝て暮らさなければならないのだ。そういう場所に変な小細工すると、神経おかしくなってしまいそうだ。車を好きなように改造するのとはわけが違う。特にハロウィーン・ハウスなんて絶対パスなんですけど。


「モンスター・ハウス」が「モンスター・ガレージ」と同系統の番組に見えて決定的に違う点が、「ハウス」には、「ガレージ」に見られなかった目的性が見えることだ。もちろん「ガレージ」だって、こういう車を作ろう、ああいう車を作ろうという目的があって作業に取り組んでいるのだが、しかし、でき上がった車は、では何かの役に立つかというと、ほとんどがそんなことはなく、ただ作りたいから作ったという、だからなんなんだ的な無目的な金と力と時間の無駄遣いが、MTVの「ジャックアス」にも繋がる、一種感動的な魅力を醸し出していた。


しかし「ハウス」は、最終的には、その改装がそこに住む住人の満足を得るという、所期の大前提を実現しなければならない。そのため、そこにはギヴ&テイク的な、民主的というか、あるいは自分のためではなく、人のためにやるための妥協みたいな点が生まれてくる。すべての作業は自分のためではなく、他人のためにやるのであり、従って、どうしてもそこに相手のことを考えて手加減する、というような局面が生まれてくるのだ。


あるいは車よりもっと金のかかる改装工事に従事しているための、予算的な問題もある。本当に家の改装に取り組むんだったら、金はいくらあっても足りないだろう。しかし、ネットワークに較べればまだまだ弱小の一ケーブル・チャンネルが製作するTV番組に、例えば、ネットワークが1時間ドラマ1本の製作費として計上する100万ドルという金額は、とても出せまい。逆に言えば、その金があれば、別に家を改装する必要などなく、最初から豪邸が建てられる。それを限られた予算でアイディアを絞って改装することが「ハウス」のテーマなのだが、でも、それだったら、やはり限られた予算で一部屋だけをアイディア一発勝負で改装する「トレイディング・スペイシズ」のオリジナリティの方が、(たとえ番組自体が英国版の焼き直しでも) まだ的を得ているというような気がする。







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Monster House

モンスター・ハウス   ★★1/2

 
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