Monk  名探偵モンク

放送局: USA

プレミア放送日: 7/12/2002 (Fri) 21:00-23:00

最終回放送日: 12/4/2009 (Fri) 21:00-22:00

製作: マンデビル・フィルムス、タッチストーンTV

製作総指揮: アンディ・ブレックマン、デイヴィッド・ホーバーマン、ボブ・トンプソン

製作: ジェイン・バーテルミ、トニー・シャロウブ

監督: ディーン・パリソット

脚本: アンディ・ブレックマン

撮影: ジャージー・ジーリンスキ

音楽: ジェフ・ビール

編集: ジョー・ドーガスティン

美術: トニー・デベニ

出演: トニー・シャルーブ (エイドリアン・モンク)、トレイラー・ハワード (ナタリー・ティーガー、第4-8シーズン)、ビティ・シュラム (シャローナ・フレミング、第1-3シーズン)、テッド・レヴァイン (リーランド・ストットルメイヤー警部)、ジェイソン・グレイ-スタンフォード (ランドール・ディッシャー警部補)


物語: 体調のすぐれなかったモンクが倒れ、誰かがモンクを毒殺しようとしていることが発覚する。モンクは殺された妻トゥルーディの形見として、開けずに何年もとっていたクリスマス・プレゼントを開ける決心をする。その中から出てきたのはヴィデオテープだった。その中でトゥルーディは、モンクと逢う前に彼女が当時教授だったリックオーヴァーと不倫の関係にあり、子を身ごもったことを明かす。しかしその子は死産だった。そして何年ぶりかにそのリックオーヴァーがトゥルーディに連絡をとってきたのと機を同じくして、トゥルーディの子をとり上げた助産婦が謎の失踪を遂げる。不安になったトゥルーディは、もし自分に何かあった時のための保険として、すべてを告白したテープをモンクに残していたのだ。モンクはそれも知らず、証拠の詰まった箱の封を切らないまま後生大事に十年以上も大事に保管していたのだった‥‥


_______________________________________________________________


現在アメリカのベイシック・ケーブルTV界にあって、最も人気があるのはUSAチャンネルだ。つい最近まではTNTと人気を二分していたという印象があるが、近年の「サイク (Psych)」、「バーン・ノーティス (Burn Notice)」、「イン・プレイン・サイト (In Plain Sight)」といった人気番組に続いて、今年に入ってからだけでも「ロイヤル・ペインズ (Royal Pains)」、「ホワイト・カラー (White Collar)」とヒット番組をつるべ打ちし、ケーブル界ナンバー・ワンの地位を確立してしまった。


そしてUSAの現在の躍進を顧みる場合、忘れてならないのがその牽引番組として長らくチャンネルを引っ張ってきた「名探偵モンク」の存在だ。強迫神経症に悩まされ、異常に潔癖主義でありながら頭脳明晰な名探偵という主人公モンクを描く「モンク」のヒットは、軽いアクション・ドラマとして現在のUSAのオリジナル・ドラマの傾向を決定づけた。 端的に言って、「モンク」の存在がなければ今のUSAの躍進もなかったと言っていい。それくらい「モンク」の影響は大きかった。


なんせ「モンク」以前のUSAのオリジナル番組といえば、現実に起こった事件を脚色したドキュドラマやホラーなどのチープなB級TV映画か、シリーズものではSF系の番組と相場が決まっていた。前者で言うと「ザ・メアリ・ケイ・ルトーノー・ストーリー (The Mary Kay Letourneau Story)」「ヒッチト (Hitched)」のような番組、シリーズものでは「4400」や「ザ・デッド・ゾーン (The Dead Zone)」という番組がラインアップに連なっていた。そういう傾向をほとんど一人でひっくり返したのが、「モンク」だった。「モンク」以前と「モンク」以降では、USAはまったく別チャンネルだ。


その「モンク」も2009年には第8シーズンを迎え、番組は最終回を迎えることが発表になった。「モンク」以降の新番組が育っているし、まだ人気のあるうちに勇退を決意した番組の意向は間違っていないと思う。今年最終回を迎えたNBCの長寿人気番組「ER」が、惜しまれつつ最終回を迎えるというよりも、マスコミや視聴者の論調が、もう数年早く最終回を迎えていれば‥‥とか、まだやっていたのとかいう、番組としてのピークを過ぎてもまだ放送されていたことに対する失望の声が主調だったことを考えると、まだまだ人気のあるうちに辞めようと決意した「モンク」は潔い。


その最終回は前後編で、主人公エイドリアン・モンクが刑事を辞めるきっかけとなった、最愛の妻トゥルーディの死の謎が解かれ、話は大団円を迎える。



(注) 以下、最終回の展開について触れています。



モンクはトゥルーディの残したヴィデオテープから、妻が過去、師事していたリックオーヴァー教授 (クレイグ・T・ネルソン) と関係を持って身ごもるが、その子を死産したことを知る。その関係はそれきりになるが、トゥルーディがモンクと一緒になって何年も経ってから、リックオーヴァーが突然トゥルーディに連絡をとってくる。時を同じくしてトゥルーディが出産した時の助産婦が謎の失踪を遂げる。リックオーヴァーに裏の顔があることをうすうす感づいていたトゥルーディはおそれおののくが、しかしモンクに面と向かって過去を告白する勇気は持てなかった。だからこそすべてをヴィデオにすべてを告白して、万が一の保険としたのだ。しかしモンクは形見となってしまったそのヴィデオテープが収められたプレゼントの箱を開ける気にならず、十年以上も手付かずのまま大事にとっていたのだった。


妻の死にリックオーヴァーが関係していることは火を見るより明らかだったが、既に10年以上も昔の話で、今では裁判官という立場のリックオーヴァーの有罪を立証するのは困難が予想された。しかしモンクは毒を盛られた身体に鞭打ってリックオーヴァーにまとわりつく。そして彼が出世しても昔の家から引っ越さないこと、庭の陽の当たらない木陰に日時計があることから、そこに何かが埋められていることに気づく。モンクはリックオーヴァーに拳銃を突きつけてそこを掘らせる。そして案の定、そこからは人骨が現れる‥‥


モンクが日時計の場所からそこに何か埋められていると気づくという展開は悪くないが、しかし最終回ということもあるのだろう、多少急ぎ過ぎという印象を与えるのも否めない。モンクがハンカチに染み込ませた毒を吸っていたと気づくきっかけになる、リックオーヴァーがモンクの落としたハンカチをペンの先に引っ掛けて拾ってやるという演出は、まずかなり無理がある。そういう鬼野郎で、しかもそのハンカチに毒が染み込んでいると知っているなら、ここは無視するというのが最もありそうな展開だ。わざわざペンに引っ掛けてハンカチを拾うのがよけい疑惑を招くということに頭が回らない犯罪者じゃないだろう。


さらに納得しかねるのが、庭から人骨が発掘されて、逃れられないと知ったにせよ、そういう人物がいきなり目の前で銃で自殺してしまうことだ。それまでの傍若無人な態度や性格づけを見ていると、これまたまったくあり得なさそうな展開で、唐突という印象を禁じ得ない。ちょっと飛躍があり過ぎる。確かにリックオーヴァーがなんらかの犯罪にかかわっていたことはほぼ明らかになっただろうが、それでもこういう人間が逃げられないと見たとたん自殺するかというと、むしろ何が何でも言い逃れやこじつけに走る方があり得そうだという気がする。絶対に自分の非を認めまい。あるいは、銃を手にしたのなら、モンクや警官に銃を向けても自分自身には向けないだろう。とにかく、こういう計画型の生まれながらの犯罪者が発作的に自殺するというのが信じられない。かなり違和感があるのだ。


しかもリックオーヴァーは、自殺する間際に、モンクに彼女をよろしくという謎の言葉を残して発砲する。実はトゥルーディが死産と思っていた娘は生きていて、娘は必要ないと思っていたリックオーヴァーが裏で手を回して、死産と偽って養子に出していたのだ。モンクはトゥルーディは失ったかもしれないが成長した娘を手に入れる。彼女は新聞で映画の批評コラムを書いていた。少しでも娘と一緒にいたいモンクは、彼女と一緒に映画館に行く約束すらするのだった。


という形ですべては丸く収まる。最後、少し詰めが甘かったような気がするところを除けば、満足の行く形で終われてよかったのではなかろうか。モンクだけでなく、長らく一緒だったディッシャーも栄転が決まる。しかしなんでわざわざニュージャージーなんかに? というと、彼は晴れて彼の地でシャローナと一緒になるのだった。むろんだからといってモンクの生活が一朝一夕に変わるわけではない。やはり今日もモンクに事件現場に出場が要請される。


最後、番組中でありながら過去の番組からのシーンがコラージュされ、番組主題歌を歌うランディ・ニューマンの曲が被さり、ジ・エンド。ニューマンは番組最終回のためだけにわざわざエンディングに被さる曲を提供したそうだ。近年、子供向けアニメーションの歌を歌うことが多いが、それでも根本に永遠の不良少年の姿が見え隠れするニューマン、もちろん不良中年の気持ちを代弁させても右に出る者がない。「モンク」にもよく合う。


番組最終回は940万人が視聴、USAどころか、ベイシック・ケーブル・チャンネルのドラマとしては視聴率記録を打ち立てた。全ケーブル・チャンネルを見渡しても、私の記憶している限りではこれより高い記録は全盛期のHBOの「ザ・ソプラノズ (The Sopranos)」くらいしか思い浮かばない。惜しまれながら最終回を迎えた「モンク」は、有終の美を飾ったと言えるだろう。








< previous                                    HOME

 

Monk


名探偵モンク   ★★1/2

 
inserted by FC2 system