Money Monster


マネーモンスター  (2016年5月)

「マネー・モンスター」はジョディ・フォスターがジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツを迎えて撮る、自身としては4作目になる演出作ということだ。TV局での籠城ものという話そのものよりも、そのことに興味を覚える。


だいたい、キャリアの長い俳優、それも幼い頃から現場を経験している者は、演出する方に回ってもツボを外さない。ロン・ハワードなんかはその代表だ。同様に物心つくかつかないかという時期からこの業界で働いているフォスターだって、映画製作のイロハは身体に染み込んでいるに違いない。


「マネー・モンスター」はつまるところ、「狼たちの午後 (Dog Day Afternoon)」の放送局版だ。「狼たちの午後」では、銀行に押し入った強盗が籠城する羽目になって、TVカメラが銀行を取り巻き、世間の注目を集めて強盗が期せずしてスター化していった。今回は最初から舞台は放送局であり、しかも犯人は放送を止めるなと命令する。犯人の行動、要求は逐一ライヴで中継され、アメリカ中の人間が目にする。


一方「狼たちの午後」では、籠城した犯人たちはヒーロー視され、銀行の周りを群衆が取り囲み舞台はお祭り化するが、「マネー・モンスター」では、事件はそもそもの発端からTV中継されているのに、当事者と外部の人間がコミュニケイトすることはそれほどなく、密室状態で事件は進行する。外部との連絡はやはりTVカメラを通して、あるいはSNSを通してであり、何百万単位で視聴者がいるはずなのにもかかわらず、外部とのコミュニケイトは限られたものだ。要するに放送とはマスに対する通達であり、コミュニケイトするものではなく、連絡は一方通行に近い。事件が本当に開かれたものになるためには、当事者がステュディオの外に出る必要がある。もちろんそれが事件のクライマックスだ。


番組ホストのリーに扮するジョージ・クルーニーとプロデューサーのパティに扮するジュリア・ロバーツのペアは、「オーシャンズ・イレヴン (Ocean's Eleven)」シリーズの印象が最も強いが、そちらでのパーフェクト・カップルとは異なり、今回のクルーニーはやや日和見。クルーニーは先頃のコーエン兄弟の「ヘイル・シーザー (Hail, Caesar!)」のようなコメディにもよく出るから、常にオーシャンのようなボス・キャラばかりでもない。


一方のロバーツも、魔女になったり、「シークレット・アイズ (Secret in Their Eyes)」のようなシリアスな作品にも挑戦している。しかしやはり本領はライト・タッチのドラマという気がする。今回のクルーニー-ロバーツは、悪くはないが、「オーシャンズ・イレヴン」と較べると一歩譲ると思う。リーの口車に乗せられ全財産を失い、やけになって放送局に押し入るカイルを演じているのは、「アンブロークン (Unbroken)」のジャック・オコンネルだ。


個人的にはクルーニー -- ロバーツの表の絡みだけではなく、企業トップのドミニク・ウエストと広報担当のカトリーナ・バルフの裏の絡みも気になるところ。ウエストはショウタイムの「ジ・アフェア (The Affair)」、バルフはスターズの「アウトランダー (Outlander)」というアメリカのペイTVの人気ドラマに主演中だ。ペイTVとしては最も名の知れているHBOではなく、二番手扱いのショウタイム、スターズという、HBOほどメイジャーじゃないブランドというのがポイントで、「アフェア」も「アウトランダー」もカルト的人気がある。その二人がここでは愛人同士。しかもウエストはやはり「アフェア」同様隠し事があり、バルフはいかにも「アウトランダー」的真っ当なヒロインという感じ。「アウトランダー」でも綺麗な人だなとは思っていたが、やはりとても美人。モデル出身というのも納得。


と気になる人材を揃えており、そこそこ楽しませてくれる割りには「マネー・モンスター」が「狼たちの午後」に較べるとあと一歩と思わせるのは、登場人物に100%感情移入できない点にあると思われる。


金を扱う割りにはおちゃらけたリーのアドヴァイスを本気で聞く気にはならず、そのリーの言うことを鵜呑みにしてなけなしの金をなくしてしまったカイルには、このバカとは思ってもあまり同情しようという気になれない。ガールフレンドから三下り半突きつけられても当然と思う。パティはもう少し出番があって活躍の機会があればそれなりに応援し甲斐が出てくると思うが、そこまで行ってない。


要するにそれ以上はあまりキャラクターを掘り下げずにさらっと流しているからで、おかげでコンパクトにまとまったエンタテインメントになったとは言える。むろんそれはそれでまったく異存はないが、フォスターも普通にエンタテインメントを撮ってみようと思ったんだな。











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リー・ゲイツ (ジョージ・クルーニー) はファイナンシャル・アドヴァイザーとして、自身がホストのTV番組「マネー・モンスター」で視聴者に資金運用のアドヴァイスを与えていた。ある時、生放送中のステュディオに部外者が入り込む。番組プロデューサーのパティ (ジュリア・ロバーツ) が気づくも、その男カイル (ジャック・オコンネル) は拳銃を発砲してリーを確保、人質にとる。カイルは放送の継続を要求、自分がリーのアドヴァイスを聞いて全財産を棒に振ったことを明かす。ちょうどその時、リーが買いを勧めたもののその後株価が暴落し、カイルが全財産をする原因となった企業の広報担当のダイアン (カトリーナ・バルフ) がゲストとしてヴィデオ出演することになっていた‥‥


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