Mission Impossible 2

ミッション・インポッシブル2  (2000年5月)

「ミッション・インポッシブル2 (MI2)」である。先週、インディ映画の佳品「ルール・オブ・デス」を見て、あまり日の当たらないとことで頑張っている映画人をサポートするためにも、もう一度「ルール・オブ・デス」を見にいこうかと思っていたのだが、今週に入ってこれでもかとばかりの「MI2」のTVでの宣伝攻勢の前に、あえなく前言撤回していそいそと劇場に足を運ぶ。だって、無茶苦茶格好よさそうだし。


とにかくジョン・ウーとトム・クルーズが組んだアクションがそのすべてである「MI2」のストーリーを説明してもあまり意味はないから詳述は省くが、要するに奪われた秘密研究を取り返すのが、イーサン・ハント=トム・クルーズの今回の仕事だ。結局、ウーの映画はストーリーは二の次で、あくまでもどれだけ格好いいアクションを撮ることができるかという目的だけを追及している。


もちろん優れたドラマ部分があって初めてカタルシスを味わわせることのできるアクションが生きてくるわけだが、でも、ウー作品を見て後で覚えているのってアクション・シーンしかないわけだから、どれだけストーリーが練られているかなんて要求してもしょうがないだろう。アメリカに来てからの「ブロークン・アロウ」でも「フェイス/オフ」でもやはり同じだった。特に「フェイス/オフ」での顔面入れ替えなんて、リアリティの面から言えばこれっぽっちもなかったし。


ところで、その顔面入れ替え、ウーはどうしようもなく好きみたいだ。今回も同様の変装シーンがあるのだが、最近の変装はCG技術の進歩も相俟って実に上手に撮られている。もちろん脚本家は別にいるわけだが、これだけウー作品に変装シーンが出てくると、どうもウーの好みが反映しているのは間違いないと思う。ウー作品では必ず最後は主人公の1対1での戦闘シーンになる。まあ、アクション映画はまずほとんどすべてそうなのだが、ウー作品は主人公同士が執拗なまでにやりあうという点で異色だ。それは今回も変わらないわけだが、この、主人公同士が徹底的にアクションを交換するのと、主人公同士がお互いに相手になりきるアイデンティティの交換というのは、根が同一なような気がする。ちょっとフロイトめくが、エロティシズムの面から心理学的になんか説明できるのではないだろうか。ウーを読み解く鍵のような気がしてしょうがない。


作品に目を転ずると、ヴァケイションをとってロック・クライミングをしているトム・クルーズをとらえる冒頭のシーンから、もうウー色満載だ。クライミングの途中、膝を岩の隙間に引っかけてちょっと一息つくのだが、上半身の重心は完全に山肌からはずれ、谷側に傾いており、もし万が一膝が隙間から外れたりしたら谷底へ真っ逆様、というシーンで、私はケツの辺りがむずむずしてしょうがなかった。


その後ももちろん、常識やリアリティをほとんど無視し、スロウ・モーションを駆使したウー・アクションが続く。特に見せ場の連続のクルーズの扱い方なぞは、はっきりいって見栄たっぷりの歌舞伎の世界だ。燃え上がる火の中、スロウ・モーションで待ってましたとばかりに登場するクルーズ、いよう、千両役者、○○屋!なんて声をかけたくなる。しかしなりきっちゃうクルーズも、それはそれで様になっているというのが、なんか笑ってしまう。バカにしているわけじゃない。もちろん格好いいのだ。これだけきざったらしい役で、それでもちゃんと観客に待ってました、と思わせるキャラクターを造型するのは、観客がすれている現代では至難の業だ。


それでも、クライマックスになって敵のボスがたった一人なぜだかリムジンじゃなくオートバイに乗って出撃したり、それを相手にするやはりオートバイに乗ったクルーズと共にウィリーになっての一騎打ちなんて、思い返してみるとやはり可笑しい。その上二人がそのウィリーをしたバイクから互いにジャンプしてもつれあって転げ落ち、素手での格闘に至るところなんかは、作劇術の点から言えばそういう風になる必要性はわかるのだが、そうなるまでの経緯に無理があり過ぎる。


だいたい、緊張感が最高に盛り上がるシーンでいきなり、相手を倒す上では邪魔になるとしか思えないウィリーなんかするかよ、それよりも二人とも銃を持っているんだから、なんでわざわざバイクからジャンプして飛びかかる必要があるんだと、つい思ってしまう。もちろん、ウー作品ではこうならなきゃいけないことは最初からわかりきっているから、ここで疑問を挟むなんてことは野暮の極みだと重々わかってはいるのだが、しかし、思い返すとやっぱ、笑ってしまう。でも、何度も言うようだが決してバカにしているわけじゃない。こういうふうに、笑っちゃうけどすっげえ面白かったなんて言える作品を撮れるのはやはりウーしかいない。「MI3」もやっぱりウーに監督してもらいたい。


存分に楽しんだ今回の「MI2」だったが、不満が一つだけある。それはクルーズが走るシーンがなかったということ。アメリカ人にしては小柄な方のクルーズは、歩幅を回転数で稼ごうとしているのか、彼が走るとえらく一生懸命全力で走っているように見える。彼が走り出すといきなり画面がエキサイティングになるのだ。いかにも全力疾走という言葉がしっくりするクルーズの走法は、実際に無茶苦茶速いわけではないだろうが、見てると100m10秒フラットくらいでは走っていそうな印象を受ける。こういう人材に走らせない法はないと思うのだ。


映画としてはそれなりのスリルとサスペンスを醸し出してはいたが、スロウな展開という印象を拭えなかった「ザ・ファーム」で、後半、駅でクルーズが走り出してから俄然画面が緊張して面白くなったことを思い出してもらいたい。ブライアン・デ・パルマが監督したオリジナルの「ミッション・インポッシブル」でも、砕け散った巨大な水槽を後ろに控え、クルーズが画面前方に向かって全力で走ってきた。このシーンなどは別にクルーズが全力で走る必要などないシーンに見えたし、実際、画面のこちら側、たぶんクレーンの上に据えられているカメラの下に向かって走ってくるクルーズは、ただデ・パルマがクルーズを走らせるというそのためだけに走らせている印象を受けた。少なくとも勉強家のデ・パルマは、クルーズは走らせれば映えるということは知っていた。


ところが、アクションの大家であり、自分よりうまくアクションを撮れる監督などこの世にいないと思っているウーは、確かに私もほとんどその通りだとは思うが、いちいちクルーズの過去の作品を見て研究なぞしなかったに違いない。だから自分の考え出したアクションの鋳型にクルーズをはめ込むことに精一杯で、クルーズを走らせようとは考えなかった。走らせなくてもクルーズの魅力全開だったことは認めなければいけないが、しかし、走るカメラを車に乗せ、そのカメラに向かって全力で走ってくるクルーズを正面からとらえるというようなシーンを夢想していた私にとって、そういうシーンがなかったことだけが唯一の心残りだった。でも、まあいいか。「MI3」がある。


しかしクルーズは本当に世界のスーパースターになった。私は昔、物凄く話題になった「トップガン」を見て失望した口だったので、その時はクルーズがここまでメイジャー・スターになるとは全然思ってもみなかった。「トップガン」で面白いのは、最初の実際の海軍の稼働シーンを撮った実写シーンくらいで、人間のキャラクターが出るや否や面白くなくなった。こんなのより軍のドキュメンタリーを見てた方がよっぽどましだと思っていた。クルーズを見ても木偶の坊にしか見えなかったし、その他の役者陣も、ヴァル・キルマーなんてヒーローのライヴァルがこんなうすのろだから作品が盛り上がらないんだよと思い、その他メグ・ライアンもアンソニー・エドワーズもまるでいいと思わなかった。そしたら皆スターになっちまったじゃないか。そして、人気が出るに連れ、皆それ相応の雰囲気というか、オーラを身につける。まったく、人気というのは不思議なものだ。


今回のヒロインに扮するサンディ・ニュートンは、昨年のベルナルド・ベルトリッチが監督した「シャンドライの恋」からがらりとうって変わった役柄。あれもよかったけど、今回も悪くない。運動神経なんか全然よさそうに見えないのに、反射神経が必要とされる窃盗のスペシャリストという設定も、ジョン・ウー作品なんだと思うと気にならない。しかし、アンソニー・ホプキンスは、たったあれだけの出番のためにわざわざキャスティングする必要があったか。彼の出演シーンは一日で撮り終えたんじゃないの? 敵方のボス、ショーンに扮するダグレイ・スコットはこの間ABCでやっていたミニ・シリーズ「アラビアン・ナイト」で見たばかりだったのだが、最初から彼だって知っていなければ到底わからなかった。アラブの王様に扮するスコットも悪くなかったよ。


ところで、実は誰が見てもこの週末に見る映画のファースト・チョイスであろう「MI2」に対抗して、なんとジャッキー・チェンの新作「シャンハイ・ヌーン」が当て馬として公開された。なんで? と私は思ったのだが。だって、「MI2」に対抗するには、普通、多分それを見に行きそうもない人たちが見そうな映画--恋愛ものだとか、インディ系の小品を当ててきそうなものだ。同じアクションではどうあがいても「MI2」に勝てる公算はない。それなのに同じアクション系の作品を公開しちゃうわけ? 血迷ったかディズニー (タッチストーン)。


ジャッキーもせっかくアメリカで人気が定着してきたところなのに、わざわざそんなもったいないことを‥‥と思っていたら、「MI2」の上映が始まる前、マルチプレックスの前に立っていたら、結構人が私の立っている前を通り過ぎて別の映画をやっている方に流れていく。え、なんでなんで、あなたたち「MI2」見ないの? と思ってその後を目で追うと、彼らは皆「シャンハイ・ヌーン」を上映しているところに入っていくじゃないか。どうやら同じアクションでもコメディ満載の「シャンハイ・ヌーン」は、結構家族連れにアピールしていたらしい。このマルチプレックスがフラッシングというチャイニーズ系が多い街から近いことも関係があっただろうが (なんだか見てるとほとんど観客はアジア系だったし)、ふうん、もしかしたら「シャンハイ・ヌーン」善戦するかも、と思い直した。週明けに発表になるボックス・オフィス (興行成績) が楽しみだ。






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