マイリー・サイラス: バンガーズ・ツアー   Miley Cyrus: Bangerz Tour 

放送局: NBC 

プレミア放送日: 7/6/2014 (Sun) 21:00-23:00 

製作: ダン+ダスティド、レッジ・プロダクションズ 

製作総指揮: マイリー・サイラス、ハーミッシュ・ハミルトン 

監督: ダイアン・マーテル、ラッセル・トーマス 

出演:  マイリー・サイラス 

  

内容:  マイリー・サイラスのバンガーズ・ワールド・ツアー公演を収録。


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Miley Cyrus: Bangerz Tour


マイリー・サイラス: バンガーズ・ツアー  ★★1/2

マイリー・サイラスの近年の変貌振りは、子役タレントの成長の難しさには慣れっこになっているはずのアメリカの視聴者にとっても、かなりの驚きとスキャンダルを提供した。


ディズニー・チャンネルの「ハンナ・モンタナ (Hannah Montana)」によって人気子役となったサイラスは、父親が著名カントリー・シンガーのビリー・レイ・サイラスということもあり、デビュー当時からある程度の才能と成功は約束されていたと言ってもいい。


とはいっても、ディズニー出身の子役は、人気者であればあるほど、かなりの確率で問題児、というかスキャンダル・メイカーになる。ここ10年くらいでは、「ザ・ミッキー・マウス・クラブ (The Mickey Mouse Club)」出身のブリトニー・スピアーズ、「リジー&Lizzie (Lizzie McGuire)」のヒラリー・ダフ、「おとぼけスティーブンス一家 (Even Stevens)」のシャイア・ラブーフ等がすぐに思い浮かぶ。


要するにどんなに才能があっても、というか才能があるために注目されちやほやされた挙げ句、多少とも自惚れたり天狗にならないほど自制できる子供なんてこの世にいない。そのため、どの子役スターも多かれ少なかれ道を踏み外す。これはもうほとんど確実だ。そして子供というのは成長が早く、今度はあっという間に飽きっぽい子供の視聴者から見放される。


このことを最もよく理解しているのがディズニーに他ならない。子供、もしくは子供を持つ親がビジネスの対象であるディズニーは、放送する番組がたとえどんな人気番組であろうとも、3シーズンか、最大でも4シーズン放送した後はすっぱりとキャンセルする。場合によっては今が人気絶頂と思える時でも、ばっさりと切る。そこで欲を出しても、結局すぐ飽きられ、誰にとってもプラスにならないことをよく知っているからだ。


特にまだまだこれからもっと人気が上がるだろうと思えた「リジー&Lizzie」を、契約が少し揉めたくらいであっさり切り捨てたあたりのビジネス判断は、ほとんど非情という感じがした。あれがなくてダフがもう2シーズン「リジー&Lizzie」を続けていたら、スピアーズやサイラスを超えるスーパースターになっていた可能性は高い。


さて、一方サイラスも「ハンナ・モンタナ」が終わると、いかにもいい子的な役柄に飽き飽きしていたようで、殻を破るというか、地を出し始めた。いつ見ても露出過多で言動が派手という印象がついて回るようになり、そして昨年のMTVヴィデオ・ミュージック・アウォーズ (VMA) でのロビン・シックとの共演でついにプッツンしたというか、完全に吹っ切れた。卑猥だとか下種だとかいうよりも、私は一緒にTVを見ていた女房と顔を見合わせ、マイリー、いったいどうしちゃったの? と、唖然としたというのが本当のところだ。何がいったいあんたをここまでにした。


むろんこの時のパフォーマンスはアメリカ全土で話題になって、いったいサイラスに何が起こったのかと皆が噂したわけだが、当の本人は至ってけろりとしたもので、VMA後3か月経ってもいまだに人が話題にしていることを自慢していた。確かにあれだけ人々にインパクトを与えたことだけを考えると大したもので、もしかしたらサイラスってマドンナやレイディ・ガガより大物かと思わせすらした。


そのサイラス、ミュージック・キャリアに焦点を絞ると、今年はバンガーズ (Bangerz)・ツアーを行っている。VMAで世間を騒がせた後のツアーということもあり、注目度は高かった。その世界中で行われたコンサートから抜粋編集してまとめたのが、今回NBCが放送した「バンガーズ・ツアー」だ。


いざ幕が上がると、オープニングは、目玉がぐるぐると動く巨大なサイラスの顔の模型がステージに現れる。と、口が開く、というか顎が外れてサイラス本人が登場する。のっけからポップというか人を食った演出で楽しませてくれる。


それにしても最近のサイラスのステージは常にレオタード姿だが、正直言うとサイラスのプロポーションはとてもいいというわけではない。悪いとは言わないが、しかしサイラス・レヴェルの肢体の持ち主はそれこそ五万とおり、別に特にサイラスのハイ・レグをいつも見たいとは思わない。マドンナやビヨンセにライヴァル意識を持っているのか。 あるいは最近は女性ポップ・シンガーはかなりの確率でハイ・レグ・ファッションで歌うが、しかし、たまにはパンツ穿いてもいいんじゃないの。


こういう露悪趣味はステージでも至るところに現れる。いわゆる小人の女性ダンサーを起用しているのは、それだけならまだしも、彼女らをいかにもセクシュアルな演出で使うセンシティビティはいかがなものか。逆に縫いぐるみを手放さなかったり、あるいは自分が着ぐるみの中に入ったりする女の子趣味的な演出も多い。


一方、そういう趣向のせいで視覚的には楽しめるステージになっているのは確かで、さすがに売れているだけのことはあるなと思わせる。近年は歌そのものよりも巷で物議を醸すその言動の方で話題になるサイラスだが、こうやって見るとさすがプロ・シンガー、当然とはいえ歌もうまい。レイディ・ガガやサイラスは、歌よりも見かけやスキャンダラスな言動の方で話題になることの方が多いのだが、ちゃんと歌を聴くと、やはり本職なんだなと思わせる。


例えばFOXの「アメリカン・アイドル (American Idol)」を筆頭とする素人のシンギング・コンペティションでは、売れているサイラスやガガの歌を歌う参加者はかなり多い。彼らは素人とはいえかなりのレヴェルの歌い手なのだが、それでも、素人が歌うと、それまではどちらかと言うと色物のように思えていたガガやサイラスが、実はとても上手だったんだなということがよくわかる。自分の歌だから歌い込んでいて当然とはいえ、それでもやはりオリジナルを歌っている彼女らの方が断然うまいのだ。


番組に挿入されるコマーシャルの前には、だいたいホテルで寛ぐ素顔のサイラスをとらえたシーンが入る。ほとんどいつも妹のノアが一緒だ。彼女はお姉ちゃんのコンサートに常に同道しているようだ。学校はないのか。というか、アメリカのキッズ・タレントは多くがホーム・スクールだから別に学校のことは考えなくてもいいか。お姉ちゃんと一緒に世界中旅行できて自分は何もしないでもよくて楽しいことばかりなんだろう。以前ブリトニー・スピアーズの妹のジェイミー・リンが、お姉ちゃんと一緒だとなんでも買ってもらえて楽しいと言っていたのを思い出した。とすると、ノアもブリトニーの後を追っかけたジェイミー・リンと同じように、やがてデビューするかもしれない。血筋としては文句ないわけだが、しかしノアはマイリーほどインディペンデントな性格ではなさそうだし、顔もちょっと地味だ。しかしこの辺りの子は1年で驚くほど変わるからな、などと他人の家の内情をちょっと考えてみたりしているのだった。












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