Men in Black II

メン・イン・ブラック2  (2002年7月)

まだシリーズ第2弾目というのに、「メン・イン・ブラック (MIB)」は既に独立記念日の恒例になったような気がする。このシリーズだけじゃなく、「インデペンデンス・デイ」等、独立記念日に公開されるハリウッド大型作品の常連であるウィル・スミスが主演しているということが大きいだろう。「MIB」シリーズの2本と「インデペンデンス・デイ」を合わせ、スミスは独立記念日に公開されて興行成績トップを獲得した3本の作品に主演するという独立記念日三冠王を達成している。「MIB2」はまだ公開中だが、この3本だけで既に興行成績の総額は6億ドルは下るまい。うーむ、あやかりたいものだ。


今回の「MIB2」は、ララ・フリン・ボイル扮する悩殺型エイリアンのサリーナにMIBの本拠を占拠されたスミス扮するJが、前回の「MIB」の最後で引退を宣言して記憶を消され、今では地方郵便局の職員として働くK (トミー・リー・ジョーンズ) を再スカウトして地球に平和を取り戻そうと活躍する様を描く。前回も人を食ったどたばたSFコメディだったが、今回は前回からさらにスケール・アップしている。こういう作品はどうせ批評家からは抹殺されるに決まっているから、どうせやるならせめてこのくらいどどーんと大風呂敷を敷いて、批評家から何と言われるかなんかは気にせず、我々観客を楽しませることに徹してもらいたい。


その点、今回は冒頭のニューヨークのサブウェイにおけるスミスの大活躍活劇から、あっと意表をつくマイケル・ジャクソンのカメオ出演等、サーヴィス精神旺盛で、結構楽しめる。ジョーンズはさすがに歳をとってアクションは難しくなってきたという感じはしないでもないが、あと1本くらいはいけるのではないか。マイケルは、「MIB」に出ると聞いて、これはてっきりエイリアン役だと信じて疑わなかったのに、MIB側の人間で、これはがっかりした。ノー・メイクで完璧なエイリアン役ができる稀な人材なのに、それができなかったというのは、やはり製作サイドがマイケルに対して、あんたはエイリアン役の方が向いていると強く推せなかったためだろう。しかしなあ、自分のミュージック・ヴィデオでは何度もゴーストやらゾンビやらに扮しているではないか。ここは思い切ってエイリアンをやったら、マイケルも冗談がわかるではないかと、また人気復活のきっかけとなったかもしれないのに。


話が飛ぶが、マイケルは先ほど、契約しているレーベルのソニーが自分を含め黒人を搾取しており、大きな陰謀を企んでいると、ソニーを弾劾する声明を発表した。翌週の「レイト・ショウ」で、ホストのデイヴィッド・レターマンが即座にそのことをネタにジョークを飛ばしていたが、レターマンが、「マイケル・ジャクソンがソニーが陰謀を企んでいると文句をつけた」と言っただけでギャグになり、場内爆笑になっていた。マイケルって、やっぱり人々にフリークスとしか思われてないようだ。


今イチ惜しいのが、前半結構観客の笑いをとるくせに、後半になって活躍の場が減る犬のフランク。映画が後半ちょっと失速した感があるのは、フランクがサリーナに捕らわれの身となり、出番が大幅に減ってしまうことが大きい。はっきり言って今回笑いをとる大半はフランク絡みなので、彼がいなくなってしまう後半はまず笑えない。しかし、グランド・セントラル・ステーションのコイン・ロッカーの中にエイリアンの世界が広がっていたり、普通の家の壁の向こう側にMIBの最先端の武器庫が広がっているというあたりのイメージは素晴らしく、その辺だけでも一見の価値がある (因みに本当はグランド・セントラル・ステーションにはコイン・ロッカーはない)。


今回のマドンナ役? は、アメリカではABCが放送している「ザ・プラクティス」で知られているララ・フリン・ボイル。少しどことなく顔のバランスが崩れているような印象を受けるところが、逆に濃厚なセックス・アピールを発散している。一流モデルとかの顔をじっと見ていると、実はまるで美人じゃないと思うことがよくあるが、まさしくそういうタイプの女優がボイルであり、その意味で彼女がエイリアンとなる今回の配役は、まさにどんぴしゃりという感じがする。


スミスがかすかに恋心を抱く、本当の意味でのマドンナ役のローラに扮するのがロザリオ・ドーソン。まったく見た記憶はないなと思っていたら、ラリー・クラークの「キッズ」に出ていた女の子の一人だった。「キッズ」ではクロイ・セヴィニーだけが圧倒的に印象に残っていたから、その他の女の子なんてまるっきり忘れていた。「キッズ」では頽廃していたそのドーソンが、ここでは実に健康的な色気を発散させる女の子としてキャスティングされている。「プッシーキャッツ」の女の子の一人としても出演しているところを見ると、本当のドーソンは活発な女の子であるようだ。


映画の中で、ドーソンがエイリアンたちと一緒にツイスターという、大きな敷物の上で様々なポーズをとるゲームをするシーンがあるが、実は、こないだTVを見ていたら、TBS (東京放送のことではありません) というケーブル・チャンネルが放送したTV映画の「アトミック・ツイスター (Atomic Twister)」という奇想天外なパニック・アクション番組で、やはり登場人物がこのツイスターをしており、リヴァイヴァル・ブームにでもなっているのかと思ってしまった。このゲームが流行ったのは確か20年くらいは前のはずだが、アメリカではどこの家にでもこのゲームが一式揃っているようである。


前回ヴィンセント・ドノフリオが怪演したエイリアンと似たような、狂言回し的エイリアン役を担当しているのが、MTVの「ジャックアス」で名が知られるようになったジョニー・ノックスヴィル。気負いすぎてか、「ジャックアス」の様な自発的なフリークス加減がちょっと弱く、演技しているという感じが逆にマイナスになっているように感じた。「ジャックアス」はこのほど映画の撮影が終了したそうで、TVと映画では何が違うかについて、ノックスヴィルは、映画ではとにかく男の裸が多いことに特色があると言っている。他にトニー・シャロウブが今回も質屋のジーヴスに扮し、またまた頭を吹き飛ばされる。シャロウブはこちらもケーブルのUSAチャンネルが編成した「モンク (Monk)」という探偵アクション・ドラマに主演している。


こうやって見ると、「MIB2」に出演している面々は、主演のスミスとジョーンズ、それにドーソンを除き、ほとんどがTV番組にレギュラー出演していることがわかる。スミス、ジョーンズ・レヴェルになって初めて映画出演だけで食っていけるのであり、スミスだって元々は「フレッシュ・プリンス・オブ・ベル-エア (The Fresh Prince of Bel-Air)」という、NBCが放送していたシットコムに6年間も出演していたことで人気の出た俳優だ。ジョーンズだって80年に「歌え! ロレッタ 愛のために」で注目されるまでは、70年代前半に、ABCの現在でもまだやっているソープの「ワン・ライフ・トゥ・リヴ (One Life to Live)」に5年間出演していた。アメリカTV界は、ハリウッドのためにもなくてはならないものである。(それにしても「歌え! ロレッタ 愛のために」というタイトルって、書くだけで恥ずかしい。原題の「Coal Miner's Daughter」の直訳の「炭坑夫の娘」の方が一万倍はマシだ。日本配給のCICのセンスは最悪。)


「MIB2」ではメルセデス・ベンツが協賛しており、リモート・コントロールで自動的に走る車として、映画の中でも大々的に活躍する。先週見た「マイノリティ・リポート」では、トヨタのレクサス協賛による未来カーが、やはりところ狭しと走り回っていた。一見レクサスだとは気づかない未来型のコンセプト・カーなので、エンブレムを見落とすとこれがレクサスだということに気づかないし、多分女性だとまるで気にもしないと思うが、メルセデスの場合は、今現在の型のメルセデスが何度もスクリーン上に登場する。あまりにも頻繁にスクリーン上に現れるので、私は車自体よりも、いったいメルセデスは車を提供しているだけではなく、いくら製作サイドに金を払っているのかと訝ってしまった。しかし、黒いスーツを着たMIBの面々と黒塗りのメルセデスというのは、確かにマッチする。ここはBMWでもジャグアでもなく、やはりメルセデスと思わせるところがポイントだ。うまい宣伝だと言える。


ところで、「MIB2」の上映時間は88分と、1時間半にも満たない。延々と続くエンディングのクレジットを抜きにすれば、正味82分に過ぎないそうだ。子供も見に来る映画であることを考えればちょうどいいくらいの長さであると思えるのだが、ちょっと短すぎると思ったのか、多分配給のソニーが、「MIB2」の上映前に5分くらいの短編アニメーションを上映した。最初、長い予告編だなあと思っていたのだが、ちゃんとストーリーがあるし、いくらなんでも予告編としては長過ぎる。変だなと思っているうちに話は大団円を迎え、めでたしめでたしという、やはりエイリアンものの子供向けアニメーションだったのだが、アイドルのコンサートじゃあるまいし、映画で前座なんてものを久し振りに見た。そういえば昔、映画館に行くと、必ず予告編以外にもニュースやらの本編以外のものを上映していたよなあと思い出した。もしかしたらソニーは来年あたり、あの前座のキャラクターを利用したフィーチャー・フィルムの製作を考えているのかもしれない。







< previous                                      HOME

 
inserted by FC2 system