Men in Black 3


メン・イン・ブラック3  (2012年6月)

かつてK (トミー・リー・ジョーンズ) が捕らえたボリス・ジ・アニマル (ジェマイン・クレメント) が月の凶悪犯罪者専門の刑務所から脱走する。Kに復讐を誓うボリスは時間を遡り、Kをなき者にしようと画策する。試みは成功し、ある時MIB本部に出所したJ (ウィル・スミス) は、誰もKのことを知っていないことに愕然とする。O (エマ・トンプソン) はJに、Kは40年前に死亡したことを知らされる。ボリスが過去に溯って歴史を書き換えたことを確信したJは、同様に40年前の、Kが死ぬことになっていた日の前日に飛ぶ。そこにはまだ若いK (ジョシュ・ブローリン) がいた。JはKを説得し、特殊な力で未来を感知するグリフィン (マイケル・スタールバーグ) と共に、ボリスを再度捕らえようとする‥‥


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既に前回の「メン・イン・ブラック2 (MIB2)」から10年、「MIB2」の時はウィル・スミスの前に敵なしという感じで、「MIB」は、例えば隔年で製作される夏の恒例の大作になるんだろうと思っていた。そしたら「MIB2」以降続編は製作されず、たまさか、あれ、今年の夏は「MIB」はないの? と思い出すことすら稀になっていた今年、やっと3作目の公開だ。


だいたいこの手のシリーズ的大作は、近年では3部作がセットになっている。「スパイダー-マン (Spider-Man)」「バットマン (Batman)」、だいたいみんなそうだ。「トワイライト (Twilight)」や「ハリー・ポッター (Harry Potter)」のように、前後編という作品もないこともないが、「トワイライト」、「ハリー・ポッター」、共にそれを含んださらに大きなシリーズの中の一編が前後編ということで、3部作どころかもっと長い話だったりする。まあ一般的に、ハリウッド・アクション大作は3部作が基本、と言っても差し支えあるまい。


とはいえ、前作との間に10年もの間が空いてしまった「MIB」の場合、最初から3部作として構想されていたわけでもなさそうだ。3作とも演出したバリー・ソネンフェルドのインタヴュウを読むと、今回「MIB3」が製作にこぎつけた最大の理由は、これまで同様ニューヨークで製作したかったこと、そして現市長のマイケル・ブルーンバーグが、ニューヨークに金を落とすためにハリウッドの映画製作を誘致しようと施行した 映画製作の税金優遇措置の期限切れが迫っており、製作費を浮かすためには今製作を始めるしかなかったからということだった。


しかしほとんど見切り発車でスタートしたこの撮影はスムースには行かず、撮影途中でシナリオ書き直しを余儀なくされ、一時撮影中止になった。結局ニューヨークの税金優遇措置も廃止されなかったため、撮影を始めたのが吉と出たのか凶と出たのか、よくわからない。


実際、昨年、ニューヨークで撮影があった時にも、あまり好ましくない理由でかなりニューズ・ネタになっていた。こういう大掛かりな撮影があると、主要な俳優は路上に大型のトレイラーを停めてその中で休んだり待機したりするが、大物スターのスミスの場合、2階建てバスみたいな専用の大型トレイラーを住宅密集地に停めていたため、住宅前にトレイラーを停められた住人が、一と月間、窓を開けると目の前にずっとトレイラーがあるんだと、憤慨していた。


さらに撮影に当たって、クイーンズボロ・ブリッジを週末ずっと閉鎖することが発表になると、ニューヨーカーは怒った。マンハッタンとクイーンズを結ぶクイーンズボロ・ブリッジは、クイーンズ住民の要の橋だ。この橋を使えないと、北のトライボロ・ブリッジかあるいは南のミッドタウン・トンネルを利用するしかないが、これらは有料だ。金を払うのが嫌ならさらに南のウィリアムズバーグ・ブリッジまで下がらずを得ず、そうするとブルックリン経由で、かなりの遠回りを強いられる。


ニューヨーカーは、自分に関係のないことだとかなり鷹揚で、なんでもわりと大目に見る。しかし何か自分に影響することだと、手の平を返したように食って掛かってくる者が多いのも事実だ。今回、週末にブリッジが閉鎖されると影響を受ける者が多数出たであろうということは間違いなく、そういう者たちは一斉に「MIB」に文句を言い募った。TVでインタヴュウを受けていた者は、私が見る限りすべて頭に来て、もう「MIB」は金輪際見ないと断言していた。


それにしてもなんで今回に限り橋を閉鎖しなければならなかったのか。かつてクイーンズボロ・ブリッジが映画に登場したのは数え切れないほどあるが、週末ずっと閉鎖していたなんて話は聞いたことがない。それともその時は私がただそういうニューズを見逃していただけか。近年でもアンジェリーナ・ジョリー主演の「ソルト (Salt)」は、それこそこのクイーンズボロ・ブリッジで大掛かりなカー・アクションをしていたし、公開間近の「ダークナイト・ライジング (The Dark Knight Rises)」の予告編では、橋が爆破されて落下する。「スパイダー-マン」でもこの橋は登場したし、「サブウェイ123 激突 (The Taking of Pelham 123)」でもクライマックスでの重要な舞台になっていた。


ニューヨークを舞台とするアクション映画で、かなりの頻度で登場するのがクイーンズボロ・ブリッジなのだが、撮影に当たってこれだけ問題になっていたという記憶はない。たぶん主として遠景を利用したり、事前に綿密に計画を立てて撮影時間を短時間に抑えていたり、似たようなセットを組んで、アクション・シーンは他所で撮影していたりするためだろう。しかし「MIB3」は、週末完全封鎖するとしたために、付近住民が怒ったのだ。


しかもこれだけ物議を醸したのに、でき上がった作品には、そのクイーンズボロ・ブリッジはほとんど映っていなかった。これだけ住民を怒らしてまで作った本編で、クイーンズ近辺のカー・アクションは大したことはなく、橋自体が映るのもほんの一瞬だ。とんだ肩透かしだ。要するにこれは、その後のシナリオの書き直しが影響していると思われる。たぶん撮ったはいいが、その後の段階で切られたのだ。


「MIB」は私にとってはご当地映画の楽しみが大きく、例えば「1」では、クライマックスはフラッシング・メドウのユニスフィアだ。数年前まで私はその近くに住んでおり、そのことが親近感を大いに高めたのは言うまでもない。むろんクイーンズボロ・ブリッジは、マンタッタンにクルマで出る時は最も頻繁に利用した橋だ。それが今回、クライマックスはニューヨークではなく、はるか彼方のケイプ・カナヴェラルにまで行ってしまった。ユニスフィアではなく、宇宙ロケットの発射台がその舞台だ。


規模はでかくなったけれども、何が残念かって、ご当地映画でなくなってしまったそのことが最も残念。ただし前半は、ちゃんとクライスラー・ビルからの飛び降りみたいなサーヴィス・シーンもある。スミスは実は「MIB」シリーズや「アイ・アム・レジェンド (I Am Legend)」等、結構ニューヨークの観光名所案内人的なところがある。あるいは観光名所破壊者か。


というそういう個人的な思い入れを抜きにすると、実は「MIB3」は、「MIB」3部作で最もよくできていると思う。コミックSFという点では、笑いでは前作前々作に一歩譲るかもしれない。しかし、若い頃のKを演じたジョシュ・ブローリンがトミー・リー・ジョーンズの声でしゃべるという、ほとんど楽屋落ち的で、彼らを知らないと面白くもなんともないだろうシーンだけでも、私には大いに受けた。あれだけでも思い出し笑いできる。それにタイム・トラヴェルものとしてもなかなかよくできており、私は大いに楽しんだ。


見ている間中気になっていたのがグリフィンで、この顔、絶対知っているがどこで見たか思い出せない、いったいどこで? と思っていた。劇場から帰ってきてから調べてみると、コーエン兄弟の「シリアスマン (A Serious Man)」の主人公を演じたマイケル・スタールバーグだった。そういえばスタールバーグは、現在、HBOでマーティン・スコセッシが製作している禁酒法時代ドラマ「ボードウォーク・エンパイア (Boardwalk Empire)」にも出ているし、たぶんその縁でだろう、「ヒューゴの不思議な発明 (Hugo)」にも出ている。


時々ハリウッド映画は、製作時に問題があればあるほどでき上がったものはなかなかまとまっているということがあるが、「MIB3」もその一例であるように思う。あの終わり方を見るに、やはり「MIB」は3部作として一応これで完結ということになるのだろうが、別に、また次があってもいい。









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