Megastunts: Highwire Over Niagara Falls -- Live!   メガスタンツ: ハイワイヤ・オーヴァー・ナイアガラ・フォールズ -- ライヴ!

放送局: ABC

プレミア放送日: 6/15/2012 (Fri) 21:00-23:00

製作: ABC

製作総指揮: ジョン・グリーン、イーサン・ネルソン

アナウンサー/解説: ハナ・ストーム、ジョシュ・エリオット

フィールド・レポーター: サム・チャンピオン

出演: ニック・ワレンダ、エレンドラ・ワレンダ


内容: 綱渡りアーティストのニック・ワレンダが綱渡りでナイアガラの滝の上を横断する。



Danger By Design   デインジャー・バイ・デザイン

放送局: SCI (サイエンス)

プレミア放送日: 6/18/2012 (Mon) 21:00-22:00-23:00

製作: ロング・ポンド・メディア

製作総指揮: ジェイ・ブラメンフィールド、アレックス・キャンベル、トニー・マーシュ

出演: ニック・ワレンダ、エレンドラ・ワレンダ


内容: 綱渡りアーティスト一家のワレンダ家に密着すると共に、彼らの所業を科学的に解説する。


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Megastunts: Highwire Over Niagara Falls -- Live!  


メガスタンツ: ハイワイヤ・オーヴァー・ナイアガラ・フォールズ -- ライヴ!   ★★

私は基本的にマジックとか一発スタント芸のような出し物が好きで、したがってこれまで、特にABCが中継してきた、デイヴィッド・ブレインのマジック・ショウや、人体の極限に挑む耐久チャレンジとかを欠かさず見ている。


しかし近年、マジシャンというよりは耐久アーティストと呼ぶ方がしっくり来るブレインが、もうネタが尽きたのか新しい試みにチャレンジしなくなり、ここんとここの手のイヴェントにはご無沙汰している。「メガスタンツ」は、そういう状況下で出現した、久々のパフォーマンス・イヴェントだ。


今回ブレインの代わりにABCがタッグを組むのは、綱渡りアーティストのニック・ワレンダだ。綱渡りは英語で言えばHighwire (ハイワイヤ) で、要するに、非常に高いところに綱を張り、命綱を用いず、落ちたら死ぬというイチかバチかの死と隣り合わせの状態で行う曲芸パフォーマンスだ。


1974年、当時世界一高かった世界貿易センター・ビルの両タワーの屋上間に綱を張って、地上百何十階というビルの間を綱渡りで横断したフィリップ・プティをとらえた2008年のアカデミー賞ドキュメンタリー賞受賞作品、「マン・オン・ワイヤー (Man of Wire)」を覚えている者も多いだろう。今回ワレンダが挑むのは、もちろん今はないツイン・タワー間の試みの再現ではなく、ナイアガラの滝の上を、アメリカ側からカナダ側に綱渡りで歩いていくというスタント・パフォーマンスだ。


実はワレンダ家というのは、ハイワイヤ・アーティストしてかなりよく知られている家系だ。最もよく知られているのは、今回のパフォーマンスに挑むニックの祖父カール・ワレンダで、彼はハイワイヤ・アーティストの集団「ザ・フライング・ワレンダス (The Flying Wallendas)」を創設したことでも知られている。


カールの名を不動にしたのが、1978年、73歳という高齢でありながらなおもハイワイヤに挑戦し、失敗して墜落死したプエルト・リコにおけるホテル間のハイワイヤで、ハイワイヤ・アーティストは命がけという印象を世界中に与えた。


こういう血筋はちゃんと子供たちにも受け継がれており、息子のニックもハイワイヤ・アーティストとして知られている。ニックの妻のエレンディラもハイワイヤ・アーティストということだから、今後もこの血統は続いていくんだろう。あるいは、危険なことに命をかけることが好きな家系というのは、いつか血統が途絶えそうな気もする。


いずれにしてもアメリカにおけるワレンダ家の知名度はかなり高く、これまでにも昨年、ディスカバリー・チャンネルが「ライフ・オン・ア・ワイヤ (Life on a Wire)」というワレンダ家に密着するリアリティ・シリーズを放送しているし、今回もサイエンス・チャンネルが、ワレンダ家の所業を科学的に解説するという趣旨の「デインジャー・バイ・デザイン (Danger by Design)」を、「メガスタンツ」に合わせて放送している (「ライフ・オン・ワイヤ」と「デインジャー・バイ・デザイン」は同じ番組を編集を変えただけという話もあるが、確認できなかった。)


さて「メガスタンツ」だが、ナイアガラの滝の上に綱を渡し、その上をアメリカ側からカナダに向かって進む、2国間にまたがる一大所業だ。水面上200フィート (ビル20階分)、距離にして約1,500フィート (約450m) を、降り注ぐ水しぶき、滑るワイヤ、時折のつむじ風の中を進んでいくのは、並み大抵の所業ではないと思われる。


しかし、イヴェントとしての最大のネックは、ワレンダが命綱をつけているという事実にあるのは論を俟たない。落ちれば生死にかかわるのは間違いないこととて、これまでナイアガラでこの種のスタントには当局の許可は下りなかった。当然だろう。今回パフォーマンスを許可する唯一の条件が、万一の場合に備えて命綱を装着しなければならないというものだったため、ワレンダもこれを呑むしかなかった。


しかし、残念ながらそのことが、やはり命をかけたぎりぎりのスタントという所業から、何割かのエキサイトメント、緊張感を削ぐことになったのは否めない。ハイワイヤというスタントの本質、そのエキサイトメントが、命綱をつけずに高所で行うことにある以上、命綱をしてしまっては元も子もないのだ。


例えばこれが空中ブランコの場合、下にセイフティ・ネットがあっても観客は誰も気にしないし、あったからといって興味やエキサイトメントが減殺されるわけでもない。かなりの確率で失敗のある空中ブランコの場合、ネットがないと死者が続出になってしまい、パフォーマンスとして機能しないだろう。そこが命綱をしないことが前提条件であるハイワイヤと大きく異なる。


いざ綱の上を歩き始めたワレンダが非常に難しいことをしているであろうことはわかるが、だからといって、ではそれが見ていてエキサイティングかと訊かれると、絵になることは確かだが、ちょっと退屈に感じてしまうのはどうしようもない。失敗して落ちても、カール爺さんの時と違って、別に死ぬわけじゃないんでしょ。約30分かけて無事滝を渡り終えたワレンダを待っていたのが、家族だけじゃなくてそこにはカナダの入国管理官もおり、パスポートの提示を求められたりしたのは面白かったが、しかし、正直言ってアンチ・クライマックスという印象は如何ともし難い。


カール爺さんにせよ、イーヴル・クニーヴルにせよ、この種の危険なスタントで特に知られているパフォーマーは、そのせいで命を落とすことになっても、皆命綱や大仰なセイフティ・ネットなど用意せずにパフォーマンスを行ってきた。だからこそ彼らは人々の注目と畏敬の念を集めたのだ。正直言って今回、命綱をつけることが絶対条件だったのなら、そんなスタント、しなくたって全然かまわなかったというのが偽らざる実感だ。やる者にとっては同じことだろうが、見る者にとってはそれはまったく別種のパフォーマンスでしかない。


実は「メガスタンツ」生中継に先立ち、ABCは過去にこれまでのこの種の危険なスタントに挑戦してきた者たちをカウントダウンする特番、「カウントダウン・トゥ・ナイアガラ: ザ・グレイテスト・メガスタンツ・オブ・オール・タイム (Countdown to Niagara: The Greatest Megastunts of All Time)」を放送したのだが、こちらの方が本編よりずっと面白かった。そういえば、こんな話、聞いたことがある、こんなのもあったという危険でヤバいスタントに挑戦した者たちのカウントダウンで、当然皆命綱なし、失敗は即大怪我か死を意味しているというものばかりだ。その内容は下記の通り。



20. イーヴル・クニーヴルのラスヴェガスでのオートバイ・ジャンプ・スタント (1968)

19. 映画「ジャックアス (Jackass)」におけるスティーヴ・Oのサメへの人間生き餌 (2006)

18. ガレット・マクナマラによる高さ78フィート (23m) の波に乗るサーフィン (2011)

17. トラヴィス・パストラナのオートバイでのダブル・フリップ・ジャンプ (2006)

16. イヴ・ロッシによる人間ジェット・マンのジェット機とのタンデム飛行 (2011)

15. カール・ワレンダによるタルラ峡谷のハイワイヤ横断 (1970)

14. フーディニの中国水責牢からの脱出

13. デイヴィッド・ブレインによる氷の中に63時間滞在 (2000)

12. ボブ・ブラウンの火だるまになって20階下への転落スタント (2002)

11. 「カジノ・ロワイヤル (Casino Royale)」でのクレーン上での追跡シークエンス (2006)

10. アラン・ロベールによるバージ・カリファの素手での外壁登頂 (2011)

9. アレックス・オノルドによるヨセミテのハーフ・ドームの素手でのフリー・ソロ登頂 (2008)

8. フレッド・シヴェルソンのアルプスでの350フィートのスキー落下 (2008)

7. タイラー・ブラットのパルース滝の190フィートのカヤック落下 (2011)

6. フェリックス・バウムガートナーによるクロアチアのマメット・ケイヴでのフリー・フォール (2004)

5. ハーバート・ニッチュによる800フィートのフリー・アンダーウォーター・ダイヴィング (2012)

4. 三浦雄一郎のエヴェレストのスキー滑降 (1970)

3. ロビー・マディソンによるオートバイでのラスヴェガスのホテルの上への垂直ジャンプ (2008)

2. フィリップ・プティによるツイン・タワー間のハイワイヤ (1974)

1. ジェブ・コーリスによる中国でのウィング・スーツ・フライング (2011)










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