Meek's Cutoff


ミークズ・カットオフ  (2011年6月)

1845年オレゴン。開拓者の一行が西を目指していたが、いつの間にやら本来とるべき道を外れ、迷ってしまう。それでも案内役のミーク (ブルース・グリーンウッド) は傲岸な態度を崩さないが、一行の疲労は蓄積し、飲み水もままならなくなる。このままでは全滅だと思い始めた時、エミリー (ミシェル・ウィリアムズ) の前に一人のインディアン (ロッド・ロンドー) が姿を現す。インディアンは一時的に一行の前から姿を消すが、つかず離れずで一行を監視しながら行動を共にしているようだった。ミークやソロモン (ウィル・パットン) はインディアンを追い、捕らえる。彼なら水のあり場所を知っているに違いなかった。しかし彼には英語が通じない。身振り手振りで水が必要であることを知らせ、先頭に立たせて案内させるが、しかし彼が本当に水のありかに案内してくれるかはわからず、死なばもろともと思っている可能性もあった。今や一行の生死は、インディアンの思惑如何にかかっていた‥‥


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夏のハリウッド大作シーズンが幕開けし、毎週のように大型作品が新規公開している。特にこの時期はスーパーヒーローものが定番だが、しかし、近年はそのスーパーヒーローも在庫の底をついてきたようで、過去の作品のパート2やパート3、スピンオフや焼き直し、二番煎じに前日譚といった、あの手この手で既にあるものを再利用しようというものばかりが目につく。


「マイティ・ソー (Thor)」なんかは、アメコミ・ファン以外はまず知らない程度の知名度しかなく、3年前なら誰も映像化しようとは考えなかったろう。そしてついに「グリーン・ランタン (Green Lantern)」だ。ランタン、あー、ランタンって、あの、提灯みたいな灯かりのことですか。で、それが緑色をしていると。


予告編を見ると、そのエイリアンのグリーン・ランタンの元締めみたいなやつが地球に落ちてきて、死に際に主人公にスーパーパワーを持つリングを手渡し、宇宙の平和を託す。しかもそのエイリアン、どう見ても魚にしか見えない。魚が空を飛んで英語を話している。こいつはギャグか? えら呼吸してる? 予告編だけ見ても、「マイティ・ソー」にも増して不可思議で腑に落ちない状況設定、さすがにこれでは見る気にならない。


というわけで今週は、では、インディ作品だなと思って出かけたのだが、実は、劇場に着くまで何を見るかは決めてなかった。同じ劇場で「ミークズ・カットオフ」とウディ・アレンの新作「ミッドナイト・イン・パリス (Midnight in Paris)」を上映しており、アレン作品は結構好評で誉める者が多く、一方「ミークズ・カットオフ」の方は、これまで評価どころか作品名すらまったく聞いたことがなく、そのため、逆にどんな作品だろうかと気になった。結局「ミークズ・カットオフ」にしたのは、こちらの方が5分先に上映が始まり、時間をムダにしたくなかったという非常にいい加減な理由からである。「パリス」はまた来週にでも見れるだろう。


最初「ミークズ・カットオフ」というタイトルを見た時、頭に浮かんだのはミークという主人公がカットオフ・ジーンズをはいているというもので、要するにイメージしたのは現代の家庭ドラマだ。しかしポスターを見ると、主人公の女性がショットガンを構えるどう見ても西部劇、あ、そうか、カットオフというのはカットオフ・ライフルのことかと気がついた。


その「ミークズ・カットオフ」、どうやら西部を目指す一行が川越えをするシーンから始まる。いきなりそこで観客はこれぞインディ映画という洗礼を受けるのだが、このシーン、長い。本当に長い1シーン1ショットで、しかもゆっくりとカメラがパンするだけ、ほとんどフィックスのショットかと見紛うような撮影、それもロングのショットだから、1シーン1ショットに特有の緊張感ともほぼ無縁。しかもほとんどセリフなし。もちろんナレーションもなし、音楽もなし、状況説明一切なし。この不親切さにほとんど感動する。


一行の一人が枯れ木に「Lost」と切り込みを掘るので、やっと、ああ、この一行は西部を目指す開拓者一行で、本来とるべき道を外れて迷ったのだなと合点がいく。この一行はどうやら複数の家族が一緒に行動を共にしているようで、その指揮をとっているのがどうやらミークと呼ばれている、たぶん雇われの道案内だ。しかしそういう者がいても、迷う時は迷う。GPSなぞ誰も持っていない時代の話だ。


だんだん食料が減ってくるが、とりあえず最も大切なのは水だ。水がなければ人間も、馬も生きていけない。最初に川越えをした時に眼の前を流れていた水が、まるで大昔のことのように思える。だんだん二進も三進も行かなくなり始めた時、一行の一人エミリーの前に一人のインディアンが現れる。どうやら彼はエミリーに興味を持ったらしい。その後もつかず離れずで遠くから一行を見ている。


ミークとソロモンは馬に乗って出かけ、インディアンをだ捕して帰ってくる。当時、白人の意識からするとインディアンは信用に値する生き物ではなく、ほとんど虫けら同然で、殺してもよかったのだが、こいつなら水のありかを知っているだろうと連れて帰ってきたのだ。しかしなんとか水のある場所に案内させようとしても、英語を解さないインディアンには、こちらの意図がちゃんと通じているかも怪しい。彼の案内で移動するのは逆に自分で自分の首を絞めることにはならないか。しかし、とはいっても他に方法がない。いっこうは疑心暗鬼ながらもインディアンを先頭に立て、その後をついていくが‥‥


作品タイトルは「ミークズ・カットオフ」で、実際ミークは重要な位置づけではあるが、現実の主人公は、殺されそうになったインディアンを擁護し、信用しようとするエミリーだ。彼女はインディアンというそのことだけで信用できないと一蹴され、殺しても問題ないとする男どもの考え方が気に入らない。インディアンを信用しようとするのだが、しかし、その彼女の考え方が正しいとは限らない。インディアンは、死なばもろともで自爆しようと考えているかもしれないのだ。


エミリーに扮するのがミシェル・ウィリアムズで、近年、「ブロークバック・マウンテン (Brokeback Mountain)」以降、というか、夫のヒース・レッジャーの死以降、自立している、あるいは夫がいても一人で生きている、みたいな役ばかりやっているような気がする。ここではそういう印象が際立つのでそう感じるのかもしれないが、しかし凛とした表情をさせると本当にいい顔をする。


ミークに扮するのがブルース・グリーンウッドで、こちらは今までとはかなり印象の違う我の強い男という設定。ソロモンに扮するウィル・パットンは先頃TNTで放送の始まったSF「フォーリング・スカイズ (Falling Skies)」で、エイリアンと戦う人類軍の指揮官みたいな役を演じており、どちらもサヴァイヴァルに苦労している。あっと思ったのが一行の一人に扮しているポール・ダノ。相変わらず癖のある作品に出ているのが、いかにも彼らしい。


水を求めて荒野を原住民に先導させてとぼとぼと歩くという展開で思い出すのは、視覚的にはニコラス・ローグの「美しき冒険旅行 (Walkabout)」なのだが、「ミークズ・カットオフ」の場合は、近年のタフな女性を主人公とする、インディ女性監督ものの延長線上に位置づけられる。ここ数年、「フローズン・リヴァー (Frozen River)」のコートニー・ハントや「ウィンターズ・ボーン (Winter’s Bone)」のデブラ・グラニック等、こういうリアリスティックなインディ作品を撮るのはだいたい女性監督と相場が決まっており、「ミークズ・カットオフ」のケリー・ライカートもそうだ。生か死かという状況に追い込まれても、諦めて死ぬのを潔いと誉め称えるのではなく、生きてこそなんぼと自身の力を最大限に発揮して生き延びようとし、筋を通そうとする強く真っ当なハードボイルドの女性を描く。上記作品は皆そうだ。


例えば西に向かって移動する時、女性だからといって馬車に乗せてはもらえない。男たちと一緒に馬車のそばを歩く。馬はいざという時の最後の命綱であり、過度の負荷をかけて弱らせるわけにはいかないからだ。家畜を荷台に乗せても人は乗せてはもらえない。それなのに朝は、まだ日も明けないうちから起き出して食事の準備をしないといけない。男たちだって見張り番や力仕事などやることはあるが、女たちだって男たち以上に働いている。馬に乗っているのはミークやソロモンたちだけだ。


作品はそういう登場人物たちの生活や行程をじっくりと描くため、そのペースは快活とは言い難く、たるいと感じる者も多いかもしれない。実際、私がこの作品を見た時、観客は20人くらいしかいなかったのだが、実はその半分の10人くらいが途中で席を立って出て行った。作品がインディアンの登場により、果たして彼らが水を見つけることができるかというドラマティックな筋立てが多少なりとも絡んで来るのは、中盤以降になってからだ。


しかも本当に最後まで観客に媚びず、というか、短気な客なら怒り出してしまいそうな唐突な幕切れは、確かに見る人を選ぶと思われる。さすがにアメリカ以外で劇場公開の可能性はまず皆無と思えるが、だからこそもしこの作品をスクリーンで見るチャンスがあったとしたら、たぶんそのチャンスは一生に二度と廻ってくることはまずないだろうから、話のタネとしてだけでも見ておくのも悪くないんじゃないかと、ひとまず推薦しておこう。









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