Me and You and Everyone We Know   君とボクの虹色の世界  (2005年7月)

芽の出ないアーティストのクリスティーヌ (ミランダ・ジュライ) は、マイ・カーを高齢者専門のカー・サーヴィスに利用してなんとか糊口をしのいでいる。彼女はある日、客と一緒に立ち寄ったデパートの靴売り場で、店員のリチャード (ジョン・ホウクス) に一目惚れしてしまう。リチャードはちょうど妻と別居するあたふたの真っ最中で、二人の息子がいた。クリスティーヌはリチャードの関心を買おうと色々画策するが、リチャードはいっこうになびかない‥‥


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「君とボクの虹色の世界 (ミー・アンド・ユー・アンド・エヴリワン・ウイ・ノウ)」はいかにもインディインディした作品であるが、今春のサンダンスで審査員特別賞、カンヌでもインディ映画を対象とした賞でいくつも受賞しており、既にアメリカ映画としてはそのカンヌで審査員賞を受賞したジム・ジャームッシュの「ブロークン・フラワーズ (Broken Flowers)」並みの露出度や注目度があったと言える。


主人公のクリスティーヌは芽の出ないアーティストで、地元の美術館で開催されるアート展に自作のヴィデオ・アートを出品しようとするが、彼女の作品が選ばれる可能性はあまりありそうもない。そういうクリスティーヌが、副業としてやっている高齢者専門のカー・サーヴィスの常連の付き添いで靴を買いに行くが、そこでくるぶしが低いためいつも怪我状態になっているクリスティーヌの足を見た店員のリチャードは、そんな仕打ちを受けていい足はないと、クリスティーヌにも靴を勧める。サーヴィス・トークだったかどうかは知らないが、クリスティーヌはその一言でころりとリチャードに参ってしまう。


一方、リチャードはちょうど妻と別居するごたごたの真っ最中で、そういうクリスティーヌの果敢なアタックに戸惑うばかりだった。さらに思春期を迎え始めたリチャードの長男ピーター (マイルズ・トンプソン) は、近くのセックスに興味を持ち始めた女の子二人組の実験対象にされてしまい、まだ7、8歳の次男はインターネット・チャット・サイトで身も知らぬ相手とセックス・トークに興味を見出す。


インディ映画のいいところは、(私にとっては) それがたとえ恋愛ものとジャンル分けされるような作品でも、まず恋愛そのものだけに焦点が当たることには絶対ならずに、その他の様々なニュアンスによって作品が成り立つところにあるが、こういったサイド・ストーリーも面白いため、一応クリスティーヌとリチャードの恋愛模様が話の主軸ではあるが、飽きさせずに最後まで見せる。ハリウッド映画の恋愛ものを見ようという気には金輪際ならないんだが。


しかし、よく考えるとクリスティーヌのとる行動は、はっきり言ってほとんどストーカーだ。もし私がデパートの店員として、職場で遠くから自分を見ているだけの女性が始終出没したりなんかしたら、頼むから勘弁してくれと思うだろう。まだほとんどよく知らない男の車に自分から率先して乗り込まれたりしたら、リチャードじゃないが、思わず降りてくれ、と言ってしまいそうだ。もしかしたらこういうほとんど偏執狂的な思い込みこそが恋愛の醍醐味という見方もできるかもしれないが、リチャードは女房と別居話が進んで傷心中で、家に帰れば難しい年頃の男の子が二人もいるとなれば、どう考えても新しい恋愛に興味を持ってなぞいられまい。それにしても、普通子供の養育権は母親の方が持っていそうなものだが、リチャードのところに二人共残った理由はなんだったんだろう。


リチャードは白人なのだが、妻は黒人という設定がさも普通に当然のごとく設定されているのもインディ映画ならでは。おかげで子供二人はやや肌の色が薄い黒人的な外観を持っており、長男のピーターを演じるマイルズ・トンプソンは、コミック・ストリップの「ザ・ブーンドックス (The Boondocks)」の主人公ヒューイそっくりだ。「ブーンドックス」はTVアニメ化が決まっているらしいが、もし実写映像化されれば、トンプソンほどの適役はまずいないだろう。


リチャードを演じるホウクスは、目がぎょろっとして癖のある顔をしており、スティーヴ・ブシェミ辺りが得意としているような役がはまりそうだ。ほとんど見た記憶はないなと思っていたが、先日、TVサーフをしていたら、TNTかどこかで再放送中の「X-ファイルズ」にいきなり出ていたのを見つけた時にはびっくりした。モルダーが追う犯罪者という役どころで、たまたまエレヴェイタの中で一緒になったスカリーをねめつけるようにじろじろと眺める、なんてシチュエイションがいかにもこの人らしいという感じだった。なかなか使い勝手のあるバイ・プレイヤーとして重宝しそうだ。


演出、主演のジュライは、見かけの上で最も印象的なのが、そのどうにも誉めようがない服のセンスで、こういうずれたところを意識して出しているとすれば大したもの。まず地だとは思うが。また、ころころとよく響く声も印象的。これが初監督作だそうだが、ウェイン・ワンの「赤い部屋の恋人 (The Center of the World)」の原案は彼女だそうだ。癖のある恋愛ものというのが最も得意とする分野らしい。


「君とボクの虹色の世界」は基本的に恋愛ものとはいえ、冒頭近くの金魚を入れたプラスティック・バッグをめぐるカー・アクション・シークエンス? のハラハラドキドキもなかなかのもので、CGまったくなし、スピード感ほとんどなしで思わず手に汗握らせ、無常観まで感じさせる。ハリウッド大作のすかっとさわやか派手派手アクションとはまるで異質であるが、だからこそ印象に残る。ジュライにはハリウッドには目もくれずに、今後もずっとインディで頑張っていてもらいたい。






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