放送局: CNBC

プレミア放送日: 7/7/2004 (Wed) 22:00-23:00

製作: CNBC

製作総指揮: ダグラス・ウォーショウ

ホスト: ジョン・マッケンロー


内容: 元テニス・スターのジョン・マッケンローがホストのトーク・ショウ。


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かれこれ20年以上も前、天才的センスを持つ花形テニス・プレイヤーでありながら、審判に食ってかかる態度や暴言でアメリカの恥とまで言われたジョン・マッケンローは、近年、ニューヨークで開催されるUSオープンの解説として、年一回TVでお目にかかる存在となっている。もちろん、他にもデイヴィス・カップやその他のテニス・トーナメントの解説とかも受け持っていたりするのだが、普通のテニス・ファンやスポーツ・ファンがマッケンローを目にする機会があるのは、たぶんUSオープンだけだろう。


テニスの解説以外では、マッケンローは、記憶に新しいところでは、ABCが放送してすぐにキャンセルされたゲーム番組の「チェア (Chair)」のホストも務めるなど、色々とテニス解説以外のキャリアを築こうと奮闘していたりもしていたが、ほとんど成功していない。いずれにしても、誰彼かまわず見境いなく食ってかかっていた悪童という昔の印象が強烈に記憶に残っている身としては、最近のマッケンローの丸くなり方を見ると、人間というのは成長するもんだなあというのが正直な感想だ。


ところでUSオープンには、名高いナイト・ゲームというのがある。残暑がまだ厳しいニューヨークで、デイ・ゲームの代わりに涼しい夜に試合を組んでプレイヤーをいたわる一方で、マンハッタンに勤めるビジネスマンが仕事が終わった後でテニス観戦を楽しめるという、プレイヤーと観客の両方にとって都合のいいシステムだ。とはいえいいことばかりでもなく、下手するとプレイヤーは時には日付けが変わるほど夜遅くまで熱戦を繰り広げた挙げ句、勝ったら次の試合は翌日のデイ・ゲームというのもよくある話で、これじゃ疲労は完全には抜けまい。つまり、このシステム、はっきり言ってプレイヤーにとってはどこまで有効か疑問な点も多い。


で、なんでこんな話をしているかというと、このナイト・ゲームは、ケーブル・チャンネルのUSAが毎年独占中継しているのだが、そのメインの解説がマッケンローなのだ。元々悪口で知られるマッケンローだけに、とにかくよく喋るし、むしろ喋りすぎてポイントが絞りきれてないという嫌いもないではないが、元が世界のトップであった人間の発言であるだけに、確かに時々なるほどと思わせたりするコメントもあるなど、よくも悪くも、今ではテニスの解説といえば誰でもすぐマッケンローを思い起こすほど定着している。実は、簡潔で的を得たコメントといえば、私はマッケンローの弟のパトリック・マッケンローの方に軍配が上がると思っているのだが、やはり兄のジョンの押しの強さは、少なくともここでも視聴者に印象を残すという方向で作用している。


ナイト・ゲームは、夜、観客がビール片手にリラックスした気分で観戦するというのが基本だ。そのため、ゲームが一方的になったり、あるいはよく知られてないプレイヤー同士の対決になったりして大味になると、観客はすぐに飽き始める。こういう気分は、コート・サイドで中継している実況や解説にも伝染する。そのため、USAのナイト・ゲーム中継では、時々脱線して、ほとんど試合の解説はほったらかして、マッケンローと、これまたお馴染みの実況のテッド・ロビンソンが雑談に終始することがよくある。一度なんか、マッケンローがいきなり放送席のブースの中で逆立ちを始めたことがあり、カメラはテニスの試合は見せずにその様子をやたらと長い間映していた。


9月現在、既に今年のUSオープンは始まっているのだが、昨日ちらちらとナイト・ゲームの中継を見ていたら、なんとマッケンローが両腕にタトゥーを施しているのを自慢気に見せており、それをまたトレイシー・オースティンがすごいすごいと言って囃し立てていた。もちろん誰かの試合中である。要するに、現在のジョン・マッケンローとは、そういう、角はとれて多少は丸くなったかもしれないが、ちょっと意外な言動に走りやすい、やはり、普通の解説者とは一風異なる存在であるということを言いたかったのであった。そして今回、そのマッケンローのキャラクターを起用して製作した新しいトーク・ショウが、この「マッケンロー」だ。


しかし、元世界のトップ・プロとして、テニスには一家言あるであろうマッケンローとはいえ、彼が話題が世間一般の些事にわたるトーク・ショウのホストとしてやっていけるかどうかは、また別問題だ。元々マッケンローのテニス解説は、喋りのプロの技術を学んだものではなく、元天才プレイヤーらしい発想や着眼点が、普通の解説者では真似ができないというところにポイントがあった。そういう視点を、通常のトーク・ショウのホストとしても発揮できるかというと、これはひたすら疑わしいと言わざるを得ない。マッケンローはテニスのプロであって、喋りのプロというわけではないのだ。


案の定、番組が始まると、マッケンローはすぐにぼろを出す。以前に「チェア」のホストをやったことがあるとはいえ、基本的にそれは単なる番組進行案内であって、マッケンロー自身の話術がそれほど求められるものではなかった。しかし、今回は、彼が喋らなければすべてが始まらない。なのにこのぎこちなさはなんだ。まあ、本当の初めての自分の番組のプレミア・エピソードなんだから、そりゃ、いくら厚顔無恥の悪童と呼ばれたマッケンローといえども、少しは緊張するのはわかる。しかし、これではいくらなんでもただのド素人だ。


実際の話、トーク・ショウというものは、喋りだけで1時間は持たしにくい。だからこそ通常、ゲストとのお喋りだけでなく、ギャグ・スキットやその他の特集コーナーを設けて、観客や視聴者を飽きさせないように工夫している。プロの中のプロ、デイヴィッド・レターマンやジェイ・レノの番組ですらそうなのだ。なのに、ほとんど素人のマッケンローの番組のプレミアが、本当にゲストを会場に呼んでの喋りだけで1時間を使い切ったのには驚いた。一応最後にはマッケンローの現夫人のカントリー・シンガーのパティ・スマイスの歌が入るのだが、そこに飛び入りしてギターを弾くマッケンローがまた、緊張してんのか下手くそで、バンドに合わせきれない。スマイスもそれが気になるようで歌の音程までぶれるという、ちょっと、どころか大いにこれからが不安な番組の第一回であった。


因みにこの回のゲストはウィル・フェレルとスティングで、まあまあプレミア・エピソードに相応しい大物とは言えるだろう。フェレルは新作の「アンカーマン (Anchorman)」の宣伝、スティングの方は新アルバムではなく、自叙伝の出版に併せてのプロモーションを兼ねてのゲスト出演だ。また、いくらなんでもマッケンロー一人だけでは間は持たせきれないだろうという読みは製作者も持ち合わせており、タレントのジョン・フューゲルサングをマッケンローと向かい合ったカウチに座らせ、合いの手を入れたりお喋りに興じたりする共同ホスト的な役割を受け持たせている。


レターマンの「レイト・ショウ」やレノの「トゥナイト」も、本質的に一人ホストの番組とはいえ、レターマンに対してはポール・シェイファー、レノのケヴィン・ユーバンクスという風に、バンド・マスターがそれぞれホストのお喋りに相槌を打ったり、簡単な会話をするなどして、番組が単調になるのを防いでいる。この路線を推し進めたのがコナン・オブライエンがホストの「レイト・ナイト」で、ほとんどホストに対して相槌を打つためだけのために、わざわざもう一人 (アンディ・リクター) を調達してホストの隣りに座らせ、共同ホストと銘打っていた (現在ではリクターは共同ホストを辞めている。) 「マッケンロー」も同様の体裁をとっているわけで、実際の話フューゲルサングは、ほとんど素人のマッケンローを補佐するという、単に飾りに過ぎなかった「レイト・ナイト」のリクターなんかより、よほど重い責任を背負っていると言える。


とはいえ、それでも「マッケンロー」が単調に陥るのを免れているかといえば、それは成功しているとは到底言い難い。なんてったってねえ、喋りのプロじゃない人間にほとんど1時間喋りを任せようというのは、とにかく無理がある。フェレルやスティングらがゲストとして登場して、彼らが喋ることでなんとか間が持っているという感じで、特に、プロのコメディアンであるフェレルがいなかったら、マッケンローは二度と失敗の痛手から立ち直れなかったに違いない。マッケンローはプレミア・エピソード放送後しばらくしてから「レイト・ショウ」にゲスト出演して、そこでホストのレターマンがいかに難しい仕事を軽々とこなしているかということを初めて知ったとして思い切りよいしょしていたが、半分以上は本音だったろう。


また、スティングをゲストに招いておきながら、歌わせるわけではないという怠慢は責められてしかるべきだ。いったいなんのためにわざわざスティングを呼んでいるわけ? そもそも観客や視聴者の誰がスティングの歌ではなく本の方に興味を示すと思っているのか。しかもついでにわざわざ紹介するアルバムは去年発売のもので、それを聴かせるわけでもスティングに歌わせるわけでもない。これでは番組が手抜きと言われてもしょうがあるまい。一応スティングは最後にはスマイスの曲に飛び入りで少しは歌ったが、しかし、ねえ。


「マッケンロー」は、実は、番組としての最大の話題性、面白さは、番組外、それも番組が始まる前にあった。「マッケンロー」を放送するCNBCは、NBC系列のニューズ専門チャンネルだ。ビルの中には当然「マッケンロー」を収録するスタジオ以外にも、他のニューズ系番組のスタジオが並んでいる。ウィル・フェレルは、「マッケンロー」収録前に控え室でメイクをしていたのだが、突然いきり立って、お昼からの「パワー・ランチ (Power Lunch)」を生放送中のスタジオになだれ込んだ。マッケンローは、何をしでかすかわからないフェレルを慌てて引き止めようとするが、フェレルは「パワー・ランチ」ホストのビル・グリフェスとスー・ヘレラにちょっかい出した挙げ句、ヘレラと熱いキスを交わして退場した。


もちろんこれは打ち合わせ済みのやらせであって、「マッケンロー」とフェレルの「アンカーマン」の両方の宣伝を兼ねている。ただし、グリフェスとヘレラは、番組プロデューサーから、もしかしたら収録中にフェレルが顔を出すかもしれないと聞いていただけだそうで、あんな派手な現れ方をするとは予想もしていなかったそうだ。いずれにしても真面目なビジネス関係ニューズの解説をしている時に、いきなりフェレルが現れ、GE (NBCの親会社だ) は倒産しました、と、いきなりアンカーもどきで発言したのだから、何も知らないで見ていた視聴者がびっくりしたのは想像に難くない。「パワー・ランチ」を見ているのは、ほとんどが中高齢以上の、真面目なビジネスマンなのだ。こういったプラクティカル・ジョークを受け付けない体質の視聴者も多いのではないかと思われる。グリフェスだって、ほとんど本気で怒っていた。まあ、その後GEの株価が変動したなんて話も聞かないから、別に大した問題にはならなかったのだろうが、それにしてもフェレルはマッケンローよりはるかにやばい。


「マッケンロー」で今までのところ、最も面白く、話題を提供したのは、この、番組外のアクシデントに尽きる。番組自体よりこちらの方がよほど面白かった。もちろんそう思っているのは私だけではなく、「マッケンロー」は現時点ではそれほど視聴者を獲得できていない。たぶんプロデューサーも、マッケンロー一人では荷が重過ぎると感じたんだろう、現在、番組は梃入れを図り、近く再出発すると発表されている。私としては、最も手っ取り早く番組を改革するために、まず (1) ゲストや話題をスポーツ関係に絞り、(2) 手軽な、ゲストや観客を交えたギャグ・コーナーを設け、(3) 音楽ゲストを招く、の三つの案を手始めに提案したいと思うが、正直言って、マッケンローが今後も番組ホストとしてやっていけるかは、はなはだ微妙だと思う。





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マッケンロー   ★★

 
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