放送局: ショウタイム

プレミア放送日: 11/18/2005 (Fri) 22:00-23:00

シリーズ・プレミア放送日: 10/28/2005 (Fri) 22:00-23:00

製作: IDTエンタテインメント、ナイス・ガイ・プロダクションズ、インダストリー・エンタテインメント

製作総指揮: スティーヴ・ブラウン、モリス・バーガー、ジョン・ハイド、ミック・ガリス、アンドリュウ・ディーン、キース・アディス

製作: トム・ロウ、リサ・リチャードソン

クリエイター: ミック・ガリス

監督:

第1話「インシデント・オン・アンド・オフ・ア・マウンテン・ロード (Incident on and off a Mountain Road)」ドン・コスカレリ

第2話「ドリームズ・イン・ザ・ウィッチ・ハウス (Dreams in the Witch House)」スチュアート・ゴードン

第3話「ダンス・オブ・ザ・デッド (Dance of the Dead)」トビー・フーパー

第4話「ジェニファー (Jenifer)」ダリオ・アルジェント

第5話「チョコレート (Chocolate)」ミック・ガリス

第6話「ホームカミング (Homecoming)」ジョー・ダンテ

第7話「ディア・ウーマン (Deer Woman)」ジョン・ランディス

第8話「シガレット・バーンズ (Cigarette Burns)」ジョン・カーペンター

第9話「フェア・ヘアード・チャイルド (Fair Haired Child)」ウィリアム・マローン

第10話「ハッケルズ・テイル (Haeckel's Tale)」ジョン・マクノートン

第11話「インプリント (Imprint)」三池崇史

第12話「ピック・ミー・アップ (Pick Me Up)」ラリー・コーエン

第13話「シック・ガール (Sick Girl)」ラッキー・マッキー


物語:

第4話「ジェニファー」

刑事のフランク (スティーヴン・ウェーバー) は中年の男に殺されそうになった女 (キャリー・アン・フレミング) を助ける。女はほとんどしゃべることもできない知恵遅れで、しかも口が裂け、世にも醜い顔ながら、抜群の身体を持っていた。持ち物からジェニファーという名前だけはわかったその女がほとんど満足に世話してもらえない施設に送られるのを見ていて忍びなくなったフランクは、それがどういう結果を導くかも知らずに、彼女を連れてうちに帰る‥‥


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4年前、「ブギーメン: ザ・キラー・コンピレイション (Boogeymen: The Killer Compilation)」という作品がDVDリリースで発売された。古くはヒッチコックの「サイコ」に始まり、「13日の金曜日」、「エルム街の悪夢」、「ハロウィーン」、「悪魔のいけにえ」等、多くの著名なホラー映画から決定的シーンを寄せ集めたクリップ集で、当然のことながらホラー・ファンにアピールした。


これに目をつけたのがペイTVのショウタイムで、その翌年、続編の「ブギーメン2: マスターズ・オブ・ホラー」を放送する。こちらはさらなるクリップだけではなく、それらの作品を撮ったホラー映画作家にもインタヴュウしたドキュメンタリーだった。「マスターズ・オブ・ホラー」という副題はそこから来ている。


そして今、ショウタイムが製作放送するホラー・アンソロジー・シリーズが、この「マスターズ・オブ・ホラー」だ。「ブギーメン2」にも登場する、ホラー映画界を代表する鬼才たちにそれぞれ1時間ずつの短編を撮らせたものだ。


さもありなんというか、あるいは意外というか、これらの著名なホラー映像作家たちは、かなり頻繁に横の連絡をとりあって顔を合わせる機会を持っているらしい。要するにマイナーなホラー作家であるという事実が連帯感を強化しているのだろう。とはいえ、一方では本質的に群れることを嫌う性向というのも当然あり、だからといって集まったみんなで共同で何かをやろうということにはならなかったようだ。それもまたよくわかる。


結局、最終的にABCのミニシリーズ「ザ・スタンド」で知られるミック・ガリスが音頭をとって、それぞれに別個に作品を撮らせてみたらどうなるかという企画を立て、それにショウタイムが乗ってでき上がったのが、今回のこの「マスターズ・オブ・ホラー」だ。1本1時間の作品を、13人の代表的なホラー映像作家がそれぞれ演出し、毎週新作を放送する。


実際、そのずらりと並んだその監督の名前を見ると、かなり壮観である。本来ならデイヴィッド・クローネンバーグやサム・レイミ、ウェス・クレイヴンらにも参加してもらいたかったという気がするが、しょうがあるまい。とはいえクローネンバーグは、このマスターズ・オブ・ホラーの集まりにも顔を出したことがあるということだ。いずれにしても、これだけの面々を一堂に会させたことだけでも、なかなかの企画であると言えるだろう。


この中で私が最も興味を惹かれたのが、第4話「ジェニファー」を撮るダリオ・アルジェントだ。ホラーは美学がなければ撮れない、あるいは、美学を持ってないやつには撮ってもらいたくないと思っている私のような映画ファンにとっては、「サスペリア」、「シャドー」のアルジェントという名前はかなり強い磁力を発揮する。さらに日本から参加の三池崇史という名もかなり気になる。これはいったいどういう伝手で参加が決まったのだろうか。もちろんカーペンター、フーバー、ダンテなんてヴェテランの名前も見過ごすわけには行かない。


とはいえ私はホラーというジャンルが特に好きというわけでもないため、毎週末にわざわざTVの前に座って毎回見るという気にはやはりなれなかった。そのため、まずは一応最も気になる「ジェニファー」まで待って見てみたのだが、実際、かなり期待を裏切らないできに仕上がっている。主人公のジェニファーは、世にもグロテスクな顔を持つ白痴の女だが、身体は文句のつけようがない。殺されそうになったところを助けた刑事のフランクが情をかけて自宅に連れ帰るのだが、本能だけで生きるジェニファーはフランクを求める。こういう、世にも不細工、というか、完全に畸形の女にセックスをさせるアルジェントのセンスには感嘆してしまう。ジェニファーがブロンドで抜群のプロポーションを持っているだけに、なおさら裂けた口の不気味な顔とのアンバランスが効いていてぞくぞくさせる。


最初ジェニファーは、殺されそうなところをフランクに助けられるのだが、その時はまだ彼女の顔は見せない。髪が顔を覆っており、ただ黒目で空ろな目を見せるだけで、その時点では、逆にこの女は、汚らしい格好はしているが、実はこの世のものとも思えないほど絶世の美女なんじゃないかと期待させる。当然誰もがそう考える。なんてったってアルジェント作品の主人公は美しくなければ始まらないのであり、それをどういたぶり苛めるかがポイントなのだ。やはりここでも「サスペリア」のジェシカ・ハーパーか「フェノミナ」のジェニファー・コネリー級の苛め甲斐のある美女を期待してしまう。そしたら、あっと驚く口裂け女だった。そしてそういう女に求められてしまうフランクの戸惑いと、だからこそのそれに代わる強烈な快感。いや、さすがアルジェント、この倒錯感はなまじの監督では真似できまい。


さらにとにかく血を流すことが一時のトレード・マークであった感のあるアルジェント、今回はジェニファーが実は生肉を食っていて、近くのネコや子供や果ては少年たちを餌食にしてはその内蔵をかっ食らうというシーンがちゃんと何度も現れる。あるいは冷蔵庫を開けると、不細工に詰め込まれた死体が現れるというショッカーももちろんあるが、これらはどちらかというと単なる視覚的な観客サーヴィスで、やはり興味の焦点はフランクとジェニファーの爛れた関係にあると言えよう。いずれにしても、アルジェントにとってはエログロという言葉はいまだに死語ではない。


惜しむらくはフランクを演じるスティーヴン・ウェーバーが、彼ってこんなに下手だったっけという大味な演技をしていることだが、どちらかというとこれはアルジェントがそういうことには気を回していないせいなのかもしれない。それにしても、よりにもよってジェニファー役を引き受けてしまったキャリー・アン・フレミングのことをちょっと調べてみたら、やはり絶世のとは言えないまでも、なかなかの美人だった。アルジェントは彼女を世にも不気味な女にメイクするたびに快感を感じていたんだろうなあ、さすが筋金入りの変態と、痛く感じ入ったのであった。


「マスターズ・オブ・ホラー」でたぶん私が最も面白く感じるだろうと思えるのは、この「ジェニファー」だったのだが、これはもしかしたら他の作品も面白いかもしれない。そう思って番組評なんかをチェックしていたら、実際、かなり好評だ。業界紙のハリウッド・レポーターでも誉められていたし、エンタテインメント・ウィークリーでもA-評価がついていた。シリーズ第1話の「インシデント・オン・アンド・オフ・ア・マウンテン・ロード」なんか、いかにも正統派のホラーという感じで面白いらしい。これはもしかしたら、あとカーペンターと三池くらいが見れればいいかなと思っていたのだが、他の作品にも目を通した方がいいかもしれない。


ハロウィーンに時宜を合わせて始まったこのシリーズ、既に年の瀬も迫りつつあるのだが、ここへ来てやっと大詰めを迎えている。結局、ホラー・ファンには感謝祭もクリスマスも年度末も関係ないのだった。計算してみると、年が変わって最初の回が三池作品ということになるのだが、うーん、新年早々ホラーか。しかし、結局ホラー好きは新年早々、ホラー、見るんだろうなあ。



追記 (2006年1月)

期待して待っていた三池の「インプリント」であるが、年が明けてもなかなか放送されない。おかしいなと思ってショウタイムのサイトにアクセスしても、放送予定に組まれていない。なぜ?? と思っていたら、1月19日付けのニューヨーク・タイムズにその辺の事情が載っていた。


実は、「インプリント」はあまりにも描写がやばすぎて、ショウタイムがしり込みして放送を見合わせてしまったのだ。なんだ、それは。放送コードがなく、裸だろうが暴力だろうが規制なく放送できるのがショウタイムやHBOのようなペイTVの強みだったんじゃないのか。それを自主規制してしまったりなんかしてもいいのか。


NYタイムズによると「インプリント」は、簡単に言って「地獄ヴァージョンの『SAYURI』」のような話であるそうだ。19世紀の遊郭が舞台なのだそうだが、まず女性側の主人公に扮する工藤夕貴の顔が見るも無残に崩れており、その上、特に彼女が母親と共に身重の女性に人工中絶を施す、という点が引っかかったらしい (「インプリント」は岩井志麻子の「ぼっけえ、きょうてえ」の映像化ということを聞いたのだが、この作品は読んでいるのだが、そういう話だったかどうか全然思い出せない。)


フリー・セックスの国アメリカと思われがちだが、根底でこの国を支えているのは、カソリックを主体とする保守的な人々で、いまだに理由は何であれ中絶は神の意思に反するから絶対反対とする者は多い。中絶は殺人であるとして、いまだに裁判が続いている州もあるのだ。それなのに、そういうのを血みどろホラーで描くのは、アメリカの最も敏感な部分を逆撫でするようなものなのだ。確かに、これは番組プロデューサーがしり込みしたのも無理はなかろうと思う。


ホラーというものは、時代の不安感や、世界に対して声高には叫べない不満や鬱屈とかいうものを、恐怖というメタファーによって提出することができるジャンルであり、その根本的なところに、体制に対する反抗精神があったりする。だからこそ通常ホラー作家は徒党を組まず、独立独歩で孤高を守る者が多い。これをやったらダメと言われたら、まずやってみるのが正しいホラー作家のあり方だ。


それでも、彼らとてアメリカで教育を受けた者として、やはりできないものがある。それが中絶に関するタブーだ。もちろん、それをグロテスクにではなく、示唆したり想像力に訴えかけるなどしたりして描くような方法はとれるだろうが、たぶん三池は、そのものずばりをエログロの限りを尽くして描いただろうということは想像に難くない。きっとでき上がったものを見たプロデューサーは血の気が引いただろう。


というわけで三池の「インプリント」を見るためには、放送がすべて終わった後での「マスターズ・オブ・ホラー」シリーズのDVD化を待たなければならなくなった。こうなると視聴者心理としてはますます見たくなる。アメリカ人ほど中絶問題に敏感じゃない日本人の目から見れば、きっとこちらの人が考えているほど怖ろしいものじゃないんじゃないかと思うが、きっと発売されたら買っちゃうだろう。これがもしDVDを売るための新手のマーケティングだとしたら、ほとんど悪魔的手腕と感心さえしてしまう。






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マスターズ・オブ・ホラー   ★★★

ジェニファー

 
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