Mary Poppins Returns


メリー・ポピンズ・リターンズ  (2019年1月)

先週、音楽映画で何を見るかで特に「メリー・ポピンズ・リターンズ」には惹かれないなんて書いていて、結局今週見たのはその「メリー・ポピンズ・リターンズ」だ。実は本当はやはり「メリー・ポピンズ・リターンズ」ではなく、キアヌ・リーヴス主演のSF「レプリカズ (Replicas)」を見に行くつもりでいた。予告編を見た瞬間から、これはトンデモ系だ、絶対こける、公開初週に見ておかないとたぶん来週はもう劇場から消えていると確信したので、そのつもりで出かけた。 

 

そしたら、映画館に着いたら、なんでもオーディオに問題があるとかで、上映してないという。さすがに当日のネットの上映予定ではそんな事情まではわからない。いずれにしても、そんなこと言われても、と慌ててその場で、こうなれば近くで時間の合う他の映画を、と探し、一番ロス時間が少なくて済みそうだったのが、「メリー・ポピンズ・リターンズ」なのだった。 

 

見るつもりはなかった映画なので、特に事前に内容を知っていたわけではない。それで、私は最初、これはてっきりオリジナルの「メリー・ポピンズ」のリメイクだとばかり思っていた。エミリー・ブラントがメリー・ポピンズとなって、ジュリー・アンドリュースのメリー・ポピンズを再現するのだとばかり思っていた。 

 

そしたら、なんか違う。ベン・ウィショーとエミリー・モーティマーが、ブラント演じるメリー・ポピンズを見て、メリー・ポピンズ! と驚いている。知ってたんだ。とすると、ウィショーとモーティマーは、アンドリュースのポピンズが面倒を見てたあの子どもたちの成長した姿か。特にオリジナルでのガキどもが記憶に残っているわけではないので、果たして名前がマイケルとジェインだったのか判然としないが、どうやらそのようだ。かつて幼い時メリー・ポピンズを困らせた悪ガキ姉弟が、大人になって困難に直面し、それを助けるためにまたメリー・ポピンズがやってくる。それにしてもメリー・ポピンズって、贔屓し過ぎじゃないのか。この世にはバンクス姉弟以外にも困っている者たちは大勢いるだろうに。 

 

いずれにしても、今回の作品は成長した姉弟が登場し、「メリー・ポピンズ・リターンズ」というタイトルが示すように、メリー・ポピンズが帰ってくるという前回の続編であって、リメイクではない。なんでもP.L.トラバースの原作は全8作あるそうだから、話はさらに続いていく可能性もある。 

 

それはいいが、ミュージカルとして「メリー・ポピンズ」をシリーズ化するのは、かなり難題と思わざるを得ない。なんとなれば、これはリメイクではなく続編と理解して見ていても、ほとんど無意識のうちに、前作に散りばめられていた曲が頭の中で鳴り始めるからだ。 

 

マイケルの子どもたちが捨てられたカイトで遊んでいるところに、再びメリー・ポピンズが現れる。あるいはエンディングでは、凧上げ、ではなく、風船を空に飛ばす。これらのシーンで、オリジナルを知っていて頭の中で「レッツ・ゴー・フライ・ア・カイト (Let's Go Fly a Kite)」が鳴り出さない者はいないと思う。 

 

あるいは、なぜ子どもたちと一緒に遊ぶシーンで「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス (Supercalifragilisticexpialidocious)」がないのか。なぜ顔を煤で真っ黒にして「チム・チム・チェリー (Chim Chim Cher-ee)」を歌ってくれないのか。たとえ続編だとは知っていても、それでも、これらの曲をまた聴きたいと思っていた者は多いと思う。ただし、まったく使われないわけではなく、「レッツ・ゴー・フライ・ア・カイト」の変奏が流れたりもするが、そういうアレンジや抜粋ではなく、ちゃんと聴かせてくれとよけいに不満が募る。 

 

これらの知られた曲が並ぶオリジナルに較べ、今回は耳に残る曲が少ない。ほぼ例外的に悪くないと思ったのが、主人公のメリー・ポピンズはまったく関係しない、ジャック (リン-マニュエル・ミランダ) の歌う冒頭およびラストをサンドウィッチする「ラヴリー・ロンドン・スカイ (Lovely London Sky)」で、ちょっと哀調のあるこの曲はいいと思った。歌うミランダは、ブロードウェイを席巻したラップ・ミュージカルの「ハミルトン (Hamilton)」クリエイターで、あれだけだと早口のラップのためによくわからないが、実は歌も聴かせる。 

 

それに較べると、今回はブラントのメリー・ポピンズの歌がまったく記憶に残らない。別に下手なのではなく、逆に、へえ、ブラントってこんなに歌もうまかったのかと感心したくらいなのだが、いかんせん曲が耳に残らない。昨年のヒット・ミュージカル「グレイテスト・ショーマン (The Greatest Showman)」で、いったい何曲がビルボードのヒット・チャートの上位に入って耳に馴染んでいたかを考えると、今回はどうしてもイマイチ感は否めない。というか、「グレイテスト・ショーマン」を見て思い出し、楽しい気分にさせた作品こそ「メリー・ポピンズ」に他ならなかった。 

 

しかし、今回、何が物足りなかったかといって、オリジナルのバート役のディック・ヴァン・ダイクが特別出演していながら、メリー・ポピンズを演じたジュリー・アンドリュースがいなかったことが、最大のマイナス・ポイントになろうかと思う。ヴァン・ダイクが出てきた時、心の中で快哉を叫んで、ではアンドリュースは? と思った者は、これまた多いはずなのだ。


アンドリュースが咽喉の手術によって昔のようには歌えないことは、ファンなら重々承知している。しかし、別に歌わなくたって構わない。「リターンズ」が続編として今後も続いていくなら、バトンをしっかりとブラントに渡してもらいたかっただけだ。それは必要なことではないのか。「リターンズ」は、このようなファンの期待を、ことごとく、とは言わないまでも、かなり裏切る。どうしても、ちょっとがっかりしてしまうのだ。 











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大恐慌時代のロンドン。かつてメリー・ポピンズに躾を受けたマイケル・バンクス (ベン・ウィショー) とジェイン (エミリー・モーティマー) の姉弟は、成長し、今でも同じ家に住んでいた。マイケルは妻と死別したばかりで、3人の子がいたが、銀行へのローン返却が滞り、家を立ち退かざるを得ない危機に瀕していた。銀行家のウィルキンズ (コリン・ファース) に相談するが、持ち株を立証する証明書がないと埒が明かず、家を手放さければならない期限が刻一刻と迫っていた。そういう家族の危機には関係なく、子供たちは無邪気に遊び回り、屋根裏部屋で見つかって捨てられたカイトで遊んでいるところにつむじ風が巻き起こり、そしてそこにメリー・ポピンズが風に乗って現れる‥‥ 


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