放送局: ホールマーク

プレミア放送日: 5/23/2007 (Wed) 20:00-23:00

製作: ライトワークス・プロデューシング・グループ

製作: スティーヴ・ロウレンス、デイル・リール、リンダ・サファイア

監督: マイケル・アプテッド


内容: アメリカの9組の夫婦に密着するドキュメンタリー・シリーズ第2弾。


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「メアリード・バイ・アメリカ」ではない、「メアリード・イン・アメリカ」である。4年前にFOXが放送したリアリティ・ショウ「メアリード・バイ・アメリカ」は、視聴者投票によってこれと思う参加者同士を結婚させてみようという試みだった。結局、自分の意志を持つ参加者は視聴者の意のままには動かず、この試みは失敗し、番組自体も大した成績を上げることはできなかった。


一方「メアリード・イン・アメリカ」は、第1回が2002年に放送されているまじめなドキュメンタリーだ。その年にアメリカで結婚した9組の新婚夫婦が、その後どういう風に人生を進んでいくのかを定期的に追っていくもので、5年後に製作された今回が第2回となる。前回はただの登場人物紹介に過ぎないようなところがあったはずだから、それからなんらかの進展があったに違いない今回からが、番組としては本番というところだろう。


この、数年毎に同じところに戻ってきて対象を定点観測するという番組の作り方で人が思い出すのは、何はともあれマイケル・アプテッドの「アップ」シリーズに違いない。7年毎に十数人の英国人男女を記録するという気の長いこのドキュメンタリー・シリーズは、40年以上にわたって撮り継がれ、最初、まだ幼い子供として作品に登場してきた人物は、現在では立派な中年男女である。この方法を模倣し、対象を世界中の就学児童たちに絞った「バック・トゥ・スクール」という番組も製作されている。


「メアリード・イン・アメリカ」は、そのアプテッドが、今度はアメリカの婚姻システムに注目し、結婚したばかりの夫婦9組のその後の足取りを追うドキュメンタリーだ。別にアメリカ版だって「アップ」シリーズと同じように、子供の頃から7年毎に撮ってもいいような気もしないではない。そのうちに自然に子供たちも歳を重ねて結婚し、意図しようとしなかろうと、結婚というシステムが視野の中に入ってこざるを得なくなるだろう。とはいえもちろんアメリカのことである、何人かはまず間違いなく未婚の母、父になるだろうが、アプテッドはそれを嫌ったということもあり得る。あるいはアプテッド自身も歳をとって、これ以上対象をガキの頃から追うには時間がかかりすぎると判断したのかもしれない。また、アメリカ人はすぐ別れるからなとでも思ったか、「メアリード」ではその観測期間が5年毎に設定されている。「アップ」の7年と較べると2年短いこの番組製作スパンが、番組の内容にいったいどういう風に影響してくるのか。


「メアリード」はその第1回もアメリカではちゃんとTV放映されている。2002年に放送された第1回は、今回のホールマーク・チャンネルではなく、A&Eで放送された。その時は私はこれが「アップ」シリーズと同じ定点観測ものとなることを知らなくて、ただアメリカの新婚カップル何組かを追ったドキュメンタリーだとばかり思い込んでいたので、別にそんなの見てもなと思って見逃していた。とはいえ、第2回中にかなりその当時の映像をまた挟むので、必ずしも第1回を見ていなくても特に鑑賞の妨げになるわけではない。


それにしても、A&Eだってベイシックのケーブル・チャンネルにおいて特に大手というわけでもないが、ホールマークは近年できたばかりの、A&Eに輪をかけてマイナーなチャンネルだ。だいたい、人がホールマークと聞いてすぐ連想するのは、アメリカ人なら100%間違いなく時季の折々に書く手紙/カード類の最大手であるホールマークだろう。あるいは少し歳とっている者なら、CBSが定期的に放送する心暖まるTV映画シリーズ「ホールマーク・ホール・オブ・フェイム」シリーズを思い浮かべる者も多いかもしれない。実際ホールマーク・チャンネルは、そのホールマークが経営するチャンネルである。当然の如く、そのような心暖まる、つまり、若者ならまず見そうもない番組が軒を連ねている。こないだ読んだ業界誌によると、ホールマーク・チャンネルはアメリカで最も視聴者の平均年齢が高いチャンネルだそうだ。さもありなん。たぶん今回の「メアリード」が多くの視聴者を集める可能性はほとんどないだろう。


だいたい、いくらアメリカと英国という場所の違いがあるとはいえ、基本的には同じ構造を持つ番組を作る必要があるのかという疑問は当然ある。結局大同小異の番組をあちらとこちらで作っているだけじゃないのか。5年前に結婚した夫婦なら今頃子供ができていてもおかしくない。今回はその子育ての難しさが強調されそうだが、だったら、別にこの番組を見なくても我々には既に「スーパーナニー」と「ナニー911」という子育て矯正番組が二つもある。別にそれを見ていれば済むことではないか。あるいは既に別れていたとしたら、なおさらそんなの見る気になんかなれない。好きにやってくれればいい。


なんて実は結構ネガティヴな先入観を持って見始めたのであるが、そしたら、実はこの番組、結構面白い。考えたら人種の坩堝アメリカでは、多種多様の人種間の組み合わせがある。基本的にアメリカン・インディアンを除き、皆、移民としてこの国に入ってきた者を先祖として持つわけだから、当然背負っている歴史が違う。さらに東海岸と西海岸ではまったく別の国のような気候や住環境だったりするし、住んでいる人間のものの考え方すら違う。その中からわざわざ面白そうなカップルを選び出しているのだ。確かにどの夫婦もワン・アンド・オンリーと言え、それぞれにどの夫婦もなかなかドラマを抱えていたりするのだ。


例えば番組の最初に登場するニューヨークのクイーンズに住む (実は私が今現在住んでいるところからそう離れていない) ベティとレジーのカップルは、ベティが白人、レジーが黒人だ。彼らは幼馴染みで、結構早くからレジーの方がモーションをかけていたらしいが、現実に付き合いだしたのは成長してからだ。しかもレジーはコメディアン志望だったため、今は二人とも働いてそれなりに稼いでいるとはいえ、一時は何万ドルものクレジット・カードの未支払い分があった。親から譲り受けた家のメンテナンスなんて到底できず、結局隣りのベティの母と同居しており、十何匹のイヌネコを飼っている。元々屋根裏部屋のような部屋をベッドルームとし、ベティの母は時々ベティとレジーがHしている声が筒抜けだと豪快に笑う。こういう開けっ広げさはいかにもアメリカ的だ。


同じくニューヨークのヴァネッサとクリスの場合、クリスはNYPD (ニューヨーク警察) に勤めており、ヴァネッサは元々メリル・リンチという一流の金融企業で働いていたが、結婚、それに娘の誕生もあり、ロング・アイランドの閑静な住宅街に引っ越した。そこはほぼ完全に白人の町で、親がコロンビア人であるヴァネッサは町でただ一人のラテン系で、最初強烈な疎外感と恐怖を味わったようだが、根が前向きの彼女は、子育ての傍ら、また勉強を始めて学位をとろうとしている。一方クリスは既にかなりの親バカ振りを発揮しており、今はまだ歩くことすらできない娘が、将来ボーイフレンドをうちに連れてきた時のことを考えて今から脅えている。それを聞いてヴァネッサは、もしかしたらこの子はゲイになるかもしれないし、そうだったらあんたはこの子にとって一生ただ一人の男よ、なんてよくわからない、これまたいかにもアメリカ人的な発想の慰め方をしていた。


しかしニューヨークのカップルでは最も印象的な体験をしたのは、世界貿易センター・ビルのすぐそばのアパートに住んでいたドナとトッドだろう。彼らは9/11直前に結婚式を挙げ、9月11日はハネムーンの真っ最中で、しかも旅先で事件を聞いた二人は到底新婚気分を満喫するどころではなく、帰ってきたら案の定自分のアパート・ビルを含め近くは戒厳令状態だった。自分たちの部屋に戻るのすら軍人のエスコートつきで、結局着のみ着のまま居場所を追い出され、何か月か定住地を持たなかった。9/11直後に彼らの部屋についていったクルーのカメラは、これまでとは異なる角度からのグラウンド・ゼロの姿を垣間見せる。この経験は大きかったのだろう、元々広告エージェンシーで稼いでいたトッドは現在では仕事を辞め、家族を第一に考えるようになった。


ニュー・ジャージーのトニとケリーはレズビアンのゲイ・カップルだ。トニは学校の体育教師で、ケリーは一時刑務所の舎監として働いていたこともあったが、あまりものストレスにそこを辞め、今はほとんど季節労働者みたいな感じで厩舎で働いている。都会とは言えない二人の住んでいるところではまだゲイに対する風当たりは強く、ある時、町のダイナーで二人がディナーの最中をカメラ・クルーが撮っていたら、後ろの席の方から彼女らを「フリークス」と罵倒する声が聞こえてきた。ある程度は慣れているため無視しようとする彼女らではなく、近くの席の赤の他人 (カメラ・クルーの一人か?) の方が激昂してそのおっさんと言い合っていた。トニとケリーは共に4、5回ずつ人工授精を試みた後、ついにケリーの方が懐妊、早産ではあったが無事双子の赤ん坊を生んだ。それにしても人工授精で授かる子って双子とか三つ子なんてのが多い。


フィリピン人のシェリルとユダヤ人のニールの場合、たぶんシェリルが当初大変だったろうと思えるのは、一般的にユダヤ人は別人種と婚姻関係を結ぼうとは考えないからだ。歴史的に流浪の民であることの方が多かったユダヤ人の場合、民族の結束は固く、たとえ若い時に別の人種の子と付き合うことがあっても、相手が自分の宗教 (つまりユダヤ教だ) に改宗しない限り、僕 (私) たちは結婚は無理だねとさも当然のように言う。当たり前のこととして堂々と言うのだ。彼らにとっては本人たちの愛情より、まず宗教が優先する。むろんそんな考えも変わってきてるから、ニールもフィリピン人のシェリルと結婚しようなんて考えるようになってきているわけだが。


一方、フィリピン人もかなり敬虔なカソリック教徒であることが多く、シェリルもその例に漏れない。ユダヤ人とフィリピン人というのはなかなか難しいカップルなのだ。シェリルは最初、ニールの母からユダヤ人の娘ではないことを例にとってかなり強い言葉を浴びせられかけたりもしたようだが、今では和解し、結局二人は二人の出自をそれぞれお互いに尊重するという立場をとっている。それにしてもニールは医者なのだが、研修を終わって勤務先の病院を決めるのに、同じ立場の者が一堂に集まってのパーティのようなもので、くじ (要するに封筒を配るわけだが) で決めるなんて初めて知った。


こういう色々な経験をした色々なカップルがいるわけだが、私が最もアメリカ的かつ最も印象的なカップルだと思ったのが、キャロルとチャックだ。二人ともカリフォルニアの同じ場所の出身なのだが、実はそれまでにキャロルが既に3回、チャックは4回も結婚離婚を繰り返している。その二人が最終的に出会ったのが30代になってから、アル中の者の自助施設であるAA (Alcoholic Anonymous) で出会ったのだそうだ。二人とも前の結婚からの子供がおり、7、8人いる子供たちの親はそれぞれ違ったりする。実際の話、二人はまだ40代だが既にもう孫がいる。チャックはスキン・ヘッドのいかにもハーリー・デイヴィッドソンにでも乗っていそうな印象を受けるが、現実にバイクが趣味だ。しかも以前にレイプで刑務所入りした過去がある。すげえ家庭。


それでもこの二人、というか家族は、最初はうまくいっていたようだが、配管だか大工仕事だかをやっていたチャックはある時大量の毒性ガスを吸い込んだらしく、以来また怒りっぽくなって暴力を振るうようになったり、さらにインポテンツになったようで、結局二人はまた離婚するはめになる。今でもお互いの家を行き来はしているようだが、とにかくこの(元) 夫婦は今後どうなるか最も予断を許さないと言えよう。番組の次回までにチャックがドラッグ中毒で死亡していたなんて話を聞いても、私は驚かない。


とまあ、実際十人十色の様々なカップルがあり、確かにこういうカップルを集められるのは世界でアメリカだけだろうというのは言える。これはやっぱり英国じゃ撮れないだろうなあ。それでも一つ意見を言わせてもらえるならば、やはり一組、あるいは一人はアラブ系の人間が欲しかった。アラブ系同士ではなく、アラブと他の人種のカップルであればなおいい。アメリカのことである、探せば必ずそういうカップルもあるはずだ。もちろん撮影クルーはその辺のことを考え済みだったのだが、宗教上とかなんらかの理由で撮影の許可を得られなかったというのはあるかもしれない。しかし、もしそういうカップルが撮影できれば、それこそもっとも印象的なドラマを提供できただろうにとは、やはり思ってしまう。   






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Married in America 2


メアリード・イン・アメリカ 2   ★★★

 
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