Marriage Story


マリッジ・ストーリー  (2019年11月)

ぎりぎりまで気がつかなかったのだが、「マリッジ・ストーリー」はNetflix作品だ。年末に劇場用映画として公開されているNetflix作品は「マリッジ・ストーリー」だけではなく、実はマーティン・スコセッシの「ジ・アイリッシュマン (The Irishman)」もそうだ。 

 

スコセッシが古巣に戻ったという感じで演出したような気配が濃厚の「アイリッシュマン」は、批評家受けもよく、当然私も見るつもりでいた。そしたらこの作品、上映時間がなんと209分だ。3時間半だ。 

 

近年、体力も忍耐力も昔ほどではなく、あれこれ予定をやりくりして劇場通いしているこちらの身としては、1本の映画はやはり2時間程度でまとめてもらいたい。まあ、それなりの満足感を与えてくれるなら時には3時間作品があってもいいかなと思ったりもするが、しかし、それすらも超える3時間半か。IMDBの上映予定表を見ながら、ふうとため息をつくのだった。 

 

それで、どうしようと思っていたら、どこかで「アイリッシュマン」は、カウチで横になって見るのに最適の作品、みたいなことを言っている者がおり、確かにいかにもそれらしいと、一も二もなく同意する。それなら無理なく私も見れそうだ。ということで、「アイリッシュマン」は年末の家見用にとっておき、今回は「マリッジ・ストーリー」に決める。こんな時、劇場/ストリーミング同時提供のNetflixは、視聴手段のチョイスがあって便利というのは言える。 

 

「マリッジ・ストーリー」は、正確には結婚物語というタイトルは別に、夫婦の離婚を描く離婚物語だ。離婚するとはいえ、DVとかお互いに嫌いになったとか性格の不一致とか、そういうわけではない。離婚を前提にカウンセラーにかかっても、特に相手の悪口とかは出てこない。むしろ称賛する誉め言葉の方が多い。それでも離婚しなければならない理由というのは、実は当人たちも本当のところはよくわかってないのではないかと思われる。 

 

話が進んでいくと、わりと妻のニコールがどちらかというと我慢を強いられている部分が多そうだということがわかってくる。一般的に言って男性が働き女性が家にいることが多い場合、ほとんどがたぶんそういう風になるだろう。しかしニコールは、彼女もわりと名が売れ、脂が乗っている女優であり、できることなら家で子供の世話だけでなく、自分も外に出て働きたい。女優であるニコールの場合、多くそのチャンスは家族もいる西海岸にあるが、舞台専門のチャーリーの仕事の多くはニューヨークだ。どうしても生活の基盤となる場所が違う。行ったり来たりも限界があり、息子のヘンリーにもストレスがかかる。今後事態が変わる可能性があまりなく、一緒に住めないなら、夫婦でいる意味はほとんどない。別に嫌いになったわけではなくこんな感じで離婚するのは、今後も増えるだろうなと思わせる。 

 

いずれにしても、二人共自分のキャリアを変えるつもりがない以上、これ以上夫婦生活を続けるわけには行かず、ニコールは薦めもあって離婚専門の弁護士ノラ (ローラ・ダーン) を雇う。最初はその方がスムーズに行くくらいの気持ちでしかなかったものが、その道での海千山千の強者であるノラは、ニコールからチャーリーのしたミスや欠点を根掘り葉掘り聞き出し、離婚調停で有利になるよう画策する。 

 

一方、自分の立場が劇的に悪化していることを悟ったチャーリーも、最初に契約した弁護士のバート (アラン・アルダ) ではなく、評判は悪いが力のあるジェイ (レイ・リオッタ) を雇う。お互いの欠点をあげつらう調停は、今や泥沼化していた‥‥ 

 

「マリッジ・ストーリー」は、かなりの部分「クレイマー・クレイマー (Kramer vs Kramer)」を想起させる。共に離婚する夫婦の話で、特にまだ幼い一人息子がいて、その親権で揉めるという部分がそっくりだ。これまたニューヨークが舞台であり、あまり記憶は定かではないが、息子の顔までそっくりだったような気がする。とはいえ、「クレイマー・クレイマー」は夫と妻平等というよりも、主人公は妻に去られる夫のダスティン・ホフマンであり、彼が父として人間として成長する様を描くのが骨子だった。 

 

いきなり妻 (メリル・ストリープ) が出て行き、それまで家事のことなどほとんどやったことのないホフマンは、目玉焼きすら満足に作ることができない。それが孤軍奮闘するうちにだんだん上手くこなせるようになっていく。「マリッジ・ストーリー」でも、チャーリーはやはりあまり料理は上手くない。しかし子の親権を獲得するためには、自分が料理もできて息子の面倒をちゃんと見れることをケイスワーカーに見せて納得させる必要がある。それで付け焼刃的にキッチンに立ったりするが、ニコールのように上手くいくわけがない。 

 

その辺の父・夫側の悲哀に多く共感してしまうのは、やはり私が男性だからということもあろう。女性の側から見たら、私ばかり働いてと、ニコールやストリープに共感する部分が多いだろうということもわかる。しかし、やはりどちらがよくてどちらが悪いとは一概には言えない。多かれ少なかれ似たようなことは、現代に生きる共働きのどの夫婦にも起こり得る。それでも、チャーリーとニコールは、まだいいとすら言える。たとえどんな結果になろうとも、それは自分たちが起こした行動の結果であり、畢竟自分自身で責任をとらなければならないものだ。一方で二人に振り回されるだけの息子のヘンリーが、どんどん内向して自閉的になっていくように見えるのは気のせいだろうか。 











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舞台演出家のチャーリー (アダム・ドライヴァー) と、彼が演出するシアターの看板女優ニコール (スカーレット・ヨハンソン) は夫婦で、まだ幼い一人息子のヘンリーもいたが、現在は離婚調停中だ。お互い嫌いになったというよりも、生活がばらばらになった、二人が目指していく方向が違うということで別れることになった。そのためチャーリーはニコールの母や妹とはいまだに仲がいい。しかしヘンリーをどちらが引き取るかはやはり大問題で、結局ふたりとも離婚専門の弁護士を雇って争うことになる。最初は裁判が必要かと思っていたチャーリーも、やがて離婚がそう簡単なものではないことに気づき始める‥‥ 


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