Man of Steel


マン・オブ・スティール  (2013年6月)

またやってしまった。アメリカではクラシックのスーパーヒーローものは、非常に人気がある。本当にまさかこんなにと驚くくらい、人気があるのだ。もちろんスーパーヒーローとしてのスーパーマンが人気があるのは知っていた。 しかし、本当に、なぜこんなに? と思えるくらい桁違いに人気のある「X-メン (X-Men)」に較べると、「スーパーマン」はそこまでは及ばない。 

  

それで高をくくって公開初週に劇場に足を運んでみたら、なんと見たい回のチケットが売り切れとアナウンスしている。ここまで車が一杯になったのを見たことがない駐車場を見た時から、不安ではあったんだよ。 しかし、「スーパーマン」、お前もか。 

  

マルチプレックスで上映しているとはいえ、次の回まで1時間以上も待つ気はさらさらなく、3D版 は最初から対象外であるため、試しにと近くの別のマルチプレックスに足を運んでみる。そこは椅子がリクライニングしないのと、日によって寒過ぎたり暑過ぎ たりと温度調整が下手くそなため最近は来てなかったのだが、時間をロスしなくて済むならこの際贅沢は言ってられない。夏の大作シーズンが始まっており、こ こで「マン・オブ・スティール」を見ておかないと、押せ押せになって後で見たい作品を見逃してしまう。 

  

案の定、最近人気のないここはまだ空席がある。とはいえ、ここにこれだけ人が入っているのはこれまで見たことがないというくらい、7-8割は入っている。スーパーマン人気、侮り難し。それでも、「スーパーマン」がここまで人気があったかというと、実は首を傾げたりもする。実際前回の「スーパーマン・リターンズ (Superman Returns)」は、混んでたという記憶はあるが、チケットが売り切れだったという記憶はない。今回、「スーパーマン」がここまで注目されている理由はどこにあるのか。 

  

だいたい「リターンズ」は、なぜシリーズ化されなかったのか。今回の公開に合わせて、「リターンズ」演出のブライアン・シンガーにインタヴュウした記事を読 んだが、それによるとシンガーはちゃんと続編を考えていたらしい。実際「リターンズ」を見ての私の感想も、次作が待ち遠しいというものだった。レックス・ ルーサーが登場してスーパーマン2世が生まれて、話自体はこれからどのようにも膨らませていけたはずだ。 

  

しかし、私が今後の展開が気になったクラーク・ケントとロイス・レインの関係、および2世誕生は、筋金入りのファンにとっては、ご法度だったらしい。そこは手を触れてはならない禁区だったのだ。クラーク とロイスがつかず離れずの関係を保って、疑似恋愛関係を維持している分には構わない。というか、彼らは常にそうあるべきであって、それが本当にセックスし て子供を作ってしまっては、元も子もないのだ。私が「リターンズ」で危惧したことが、まさに的中というか、そこにファンは反応した。それはもはや「スー パーマン」ではない。 

  

ファンの反応を素早く見てとったスタジオは、このままでは自分の首を自分で絞めるだけになると判断、「リターンズ」続編製作を白紙に戻した。私見ではあれだけ 続編が気になる作品というのは後にも先にも「リターンズ」くらいしかなかったのだが、世間、というかコアのファンにとってはそうではなかった。結局、「リターンズ」から7年、続編ではない新生「スーパーマン」が誕生することになった。 

  

「リターンズ」の失敗? に懲りたか、今回の「マン・オブ・スティール」は、初心に帰り、なぜスーパーマン=クラーク・ケントが誕生したのか、そもそもの発端を描くものとなっている。というか、バットマンにせよスパイダーマンにせよ、出演者や演出家を一新した新シリーズになると、微妙に細部を変えながら、どれも一からやり直す。新しい皮袋に古い酒を入れ直すのだ。スーパーマンとて例外ではない。 

 

そしてやはり、他のスーパーヒーロー同様、スーパーマンも自分探しの旅を経てのアイデンティティの確立から始めなければならない。自分探しに悩むスーパー ヒーローに頼らなければならないのはなんとも面映ゆいのだが、近年はたとえスーパーヒーローといえどもこの壁を一度は乗り越えないと先に進めないようなの で、ここは軟弱者めと叱咤したいのをこらえて彼らの成長を待つ。しかしなあ、中産階級というか、ほとんど私生活では貧乏しているスパイダーマンや、元々内省型のバットマンはともかく、スーパーヒーローの中のスーパーヒーローであるスーパーマンですら自分を見つめ直さないと先に進めないか。 

 

今回の「マン・オブ・スティール」は、スーパーマンの故郷クリプトンが崩壊し、まだ生まれたばかりのスーパーマンことカル-エルが地球に向かうというシーンから始まる。スーパーマンの父ジョー-エルに扮しているのはラッセル・クロウで、ゾッド将軍に扮しているのはマイケル・シャノンだ。 

 

舞台が地球に移ってからも、スーパーマンの育ての親のジョナサン・ケントとマーサ・ケントに扮しているのはケヴィン・コスナーとダイアン・レインだ。血の繋 がった父親がラッセル・クロウで育ての親がケヴィン・コスナーか、いや、クラーク・ケント、なかなかすごいぞと思ってしまう。そのスーパーマンに扮しているのは「シャドー・チェイサー (The Cold Light of Day)」のヘンリー・カヴィル。そっちでの父はブルース・ウィリスであり、恵まれた血縁関係だ。さらに新しい恋人ロイス・レインを演じているのはエイミー・アダムズ、デイリー・プラネットの上司はロウレンス・フィッシュバーンと、とにかく豪華な出演陣。 

 

「バットマン」でも「スパイダーマン」でも「スーパーマン」でも、基本的に新シリーズになると、また一からやり直す。また発端から書き直すわけだが、細部に手を入れて時代に沿うようにして、われわれが既に知っている物語でありながら、新しい話として再度提出してくる。要するに既にある同じものを解釈の違いで語り直すクラシックとして機能している。もはやシェイクスピアと同じような構造なのだ。それでさらに見応えのあるアクション・シーンを加えて再登場してくると、さすがだと感心してしまう。 

 

演出はザック・スナイダーで、あまりにも「300」の印象が強烈だったので、とにかくスタイリッシュなアクションの演出家という印象が定着しているが、しかし「ウォッチメン (Watchmen)」では、既に落ちぶれて仲間割れするスーパーヒーローたちを描いていた。だから自省するスーパーマンという設定にも本人にとっては違和感ないようだ。自分がもう要らないと引導を渡したスーパーヒーローを自省させ、また新しくスーパーヒーローを復活させてきた。スーパーヒーローではなく、スナイダー自身が過去と訣別してきたのかもしれない。 

 

いずれにしても、今回の「スーパーマン」なら第2弾が製作されるのは間違いないだろう。とすると、次たぶん登場してくるレックス・ルーサーに扮するのは誰か。前回のケヴィン・スペイシー、悪くなかったんだが。人々の予想の裏をかいて再度スペイシーを起用するというのはどうか。あるいは今、そのスペイシーとNetflixの「ハウス・オブ・カーズ (House of Cards)」で共演しているコーリー・ストールなんてのもある。こちらもいい線行くのは間違いないと思う。 









< previous                                      HOME

遠い惑星クリプトンが滅亡の危機に瀕していた。ゾッド将軍 (マイケル・シャノン) は、種の存亡がかかった危急の時に会議で何事も早急に決められない議会に業を煮やし、クーデターを企てる。科学者のジョー-エル (ラッセル・クロウ) はクリプトンに将来はないことを悟り、生まれたばかりの息子カル-エ ルをロケットに乗せ、地球へと発射する。それにはクリプトンの将来に必要なあらゆることを記録するコーデックスが積まれていた。地球でカンサスの農家のケ ント夫婦に見つけられて育てられた赤ん坊は、クラークと名付けられる。一見人類と同じでありながら実はその何倍もの力や能力を持つクラークは、自分が他の少年たちと違うことに違和感を持ちながら成長していた。大人になったクラーク (ヘンリー・カヴィル) は、各地を転々としながら自分探しの旅を続ける。ある時、雪深い奥地で発見された謎の物体の話を小耳に挟んだクラークは、その場所を訪れ、それが自分の故郷クリプトンからのものであることを知る。ホログラムでクラークの前に現れたジョー-エルは、初めてクラークが本当は何者なのかという長年の疑問に答えを与えるのだった‥‥


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system