Ma Rainey's Black Bottom


マ・レイニーのブラックボトム  (2021年2月)

アメリカで最初に新型コロナウイルス感染者が出て1年経った。やっとワクチン接種も始まり事態が沈静化に向かう希望が出てきたという今頃になって、今度はアジア系に対する差別、暴力事件が頻発してニューズになっている。 

  

ここまで我慢してきたがもう限界という者の鬱憤、憤懣が、もう抑え切れなくなって噴出しているという感じがする。その時、すべての原因と誰もが思っている中国、引いてはアジア系全員に怒りの捌け口が向かう。 

  

100年前のスペイン風邪大流行の時は、そもそもの発生源が特定できなかった。しかし発生源かどうかはともかく、第一次大戦中に、ヨーロッパに派遣された米軍兵士がヨーロッパ中に感染させた原因となった確率は高いらしい。当時中立国だったスペインが、報道規制がなかったために中心となってパンデミック情報を発信し続けたため、スペイン風邪と呼ばれるようになったが、別にスペインが発生源なわけではない。スペイン風邪と呼ばれるのはスペインにとって迷惑な話だろう。 

  

いずれにしてもこの時は、発生源が不明なため、誰かに責任を負わせたり責めたり差別するようなことは、少なくとも表立っては行われなかった。 

  

今回は違う。中国の武漢がそもそもの根源であることはほとんど明白であり、そのため、お前らのせいでという怒りの感情を向ける対象が特定されている。そのことがヘイト・クライムを生みやすくしている。私たち夫婦も、なんか世の中あんまりいい空気じゃないねということで、少なくとも日が暮れた後は外出を控えるようにしている。私は運動不足の解消に毎朝夕の散歩を日課にしているのだが、その際、後ろを振り返ることが多くなったと自分でも思う。 

 

本題に戻って「マ・レイニー」だが、黒人ミュージカル・ドラマと思って見始めたのだが、実はこれ、人種問題が主テーマの作品だ。音楽もあることはあるが、主題ではない。1920年代シカゴで、黒人女性ブルーズ・シンガーとして白人にも絶大なる人気のあったマ・レイニーには、白人のマネージャーのアーヴィンがいた。マ・レイニーは気分屋で、アーヴィンは内心辟易しつつも、マ・レイニーをおだてたり宥めたりしながらなんとかレコーディングを円滑に進めようとする。 

 

一方、若いトランペッターのリヴィは実力もあったが野心もあり、自分がリーダーとなったレコーディングをしたがった。プロデューサーのスターディヴァントはそこそこ乗り気に見えたが、マ・レイニーやミュージシャン仲間は一笑に付して歯牙にもかけない。 

 

レコーディングが始まるが、ムラのあるマ・レイニーや、緊張でどもって何度もとちるシルヴェスタのためにうまく行かない。やっとうまく行ったと思ったら、たぶんリヴィが配線をひっかけて録音できておらずやり直し、ミュージシャンの間でもテンションが高まる。楽屋でカトラーはかつて白人に受けた迫害を話し始め、リヴィはさらに酷い経験を告白する‥‥ 

 

たぶん当時の白人の黒人に対する対応というのは、今のエイジアンに対する嫌がらせとは別の意味できつかったろう。病原菌を撒き散らした元凶と見られるのと、人間として下の人種と見られるのと、どちらがきついだろうか。パンデミックが終われば、少なくともアジア系に対する差別は一段落すると思うが、しかしそれだって、根っこに人種的偏見がなければ最初から起こるはずもないものだ。 

 

たぶん生存が競争である以上、差別は永遠になくならないだろう。自然が常にあらゆる可能性を試し続ける限り、この世から差別主義者はいなくならない。一方で、人々が完全に平等である世界を目指した社会主義がどれだけ人々を堕落させたかも、我々は既に知っている。問題は人間としてどうやってそういう事実と折り合いをつけていくかにあると思われる。


他方、間違った人間が権力を持つと、人類絶滅もあり得る時代に我々は住んでいる。教育やカリスマ的指導者といった一時代的なものではなく、DNAが変わるような根本的な変化が起きない限り、人類滅亡は近そうだ。人類が自滅しなければ、自然が人類に復讐するかもしれない。あんまり多くの時間は残されていないような気がする。 


 











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1927年シカゴ。マ・レイニー (ヴァイオラ・デイヴィス) は推しも推されぬ人気のある黒人ブルーズ・シンガーで、白人マネージャーのアーヴィン (ジェレミー・シェイモス) は、彼女のレコーディングを企画する。ヴェテラン・ミュージシャンが集められるが、その中の一人トランペットのリヴィ (チャドウィック・ボーズマン) は野心満々で、前回のコンサートでも一人で予定に入ってないアドリブを披露して観客に受けたため、逆にマ・レイニーの心証を悪くしていた。マ・レイニーは甥のシルヴェスタをMCとしてレコーディングに連れてくるが、緊張で吃ってしまうシルヴェスタのために、録音は失敗し続ける。さらにおちゃらけてスタンドプレイに走りたがるリヴィとマ・レイニー、バック・ミュージシャンの間にも確執が生まれる‥‥ 


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