The Metropolitan Opera (MET) -- The Magic Flute       

ザ・メトロポリタン・オペラ -- 魔笛

(2006年12月31日)    メトロポリタン・オペラ・ハウス

正直言うと、これまでにオペラを見たことは数えるくらいしかない。特に得意分野でもなければ興味があるというわけでもなかった。それが今回メットの「魔笛」を見に行くことになったのは、朝の日本語のTVニューズで夜の女王役で日本人歌手の森谷真理が出るということを紹介していて、それを見たうちの女房が乗り気になってしまったからだ。舞台演出はかのジュリー・テイモアということもあり、反対する理由もない。というわけで、めったにないオペラ観劇に行ってきた。大晦日にオペラ観劇ってのもなかなか悪くない。

とはいえうちの女房は最初、演目の「ザ・マジック・フルート」って何? とまるで的外れの疑問を呈していたのだが、モーツァルトの「魔笛」だよと教えてやると、ああ、と納得していた。「マジック・フルート」より「魔笛」の方が格好いいねとこれまたお上をも怖れぬ発言を平気でしていたが、そう言われると、確かにそういう気がしてくるから不思議だ。

今回の「魔笛」は日中公演であり、子供たちにも見てもらおうという趣旨で、本来なら3時間以上かかる本公演を見所を抜き出したダイジェスト版にして90分にまとめてある。もちろんそのこと自体には異はないが、しかしそのため、上演中もかなり観客席がかまびすしく、大人の客にとっては舞台に集中できないという弊害があったことは否めない。とはいえ森谷の出る公演はこれっきりで、オリジナルの3時間超の公演だと、今度はこちらが二の足を踏んでしまう。痛し痒しだ。

特に腹立たしかったのは、椅子に座っても足の裏が床に届かないガキがすぐ後ろに座っており、当然すぐに集中力を切らして飽き始めたガキが足をぶらぶらさせるので、こちらの席を蹴ってしまう。これではこちらも舞台に集中するどころではない。このくそガキ、隣りの親、なんとかしろとちらちらと視線を送ると、その時だけは子をたしなめるのだが、すぐにまたくそガキは同じことを繰り返すのだった。これは本気でガキを怒鳴りつけるか殴りつけるかしなきゃ収まらないかとこちらが思い始めた時に、今度はやっとなんとか静かになったので振り向くと、ぐずり疲れたガキは母親にもたれて寝ているのだった。寝た子はそのままほっておくに限る。

さて、舞台の方は見所をまとめてあるので、筋の方は完全に理解したとはいえなかったとはいえ、最後まで飽きさせずに見せる。さらに、やはり大がかりなテイモアの演出はけれん味たっぷりで楽しく、「ライオン・キング」を見た時はいくらなんでもガキ向き過ぎると別に特にとりたてて感心もしなかったが、今回は楽しめた。やはり「ライオン・キング」は視線をガキ向きにしてあるので、大人には今一つアピールしにくかったのだなと納得した。

ただし、やっぱり最初から筋を把握しておかないと、いくら英語吹き替えで歌っているとはいえ、歌からセリフを完全に聞き取るのはほぼ不可能で、これはたぶんネイティヴだろうととりこぼしがあるだろう。とはいえ各々の座席の前の小型画面に出る字幕をいちいち読んでいたら舞台上がおろそかになる。慣れればうまくポイントポイントだけを抑えることができるんだろうが、こちらはオペラ初心者だからな。

森谷もほとんどおいしい見せ場とはいえ、素人から見ても難しいに違いない超絶技巧の難曲を歌い切って拍手喝采を受けていた。明らかに日本人と思える観客からブラボーという声が飛んでいたのはご愛嬌。ただし、その後PBSがエリカ・ミクローシャの演じた正・夜の女王版「魔笛」を放送したのだが、それを見て、確かにこちらの方が安定して、森谷より一枚上手と感ぜざるを得なかった。もちろんだからこその正・夜の女王なのだろうが。

しかしいずれにしても今回の舞台は、小うるさいガキという印象が最も強かったというのが最大の難点だったと言える。とにかくあれだけガキが騒がしいと、集中力を分断されるのだ。女子トイレは男子トイレに較べて列ができやすいが、舞台が終わってトイレに立った女房の話によると、並んでいた大人の客のすべてが口々にガキどもを貶しまくっていたそうだから、やはりこの舞台は大人のファンにとっては災難だったと言うしかなかろう。オペラ・ファン裾野の拡大のために将来を睨んで今のうちに子供のオペラ・ファンを育てようと考えているのはわかるのだが、だからといってやはり大人のファンをないがしろにするのはいかんぞ。やはり次からは子供目当ての昼間上演のオペラは見ないと心に決めたのだった。




 
 
inserted by FC2 system