放送局: ディスカバリー・ヘルス

プレミア放送日: 9/27/2005 (Tue) 22:00-23:00

製作: リトル・ポンドTV、フリーマントルメディア・ノース・アメリカ

製作総指揮: ボニー・ブレナン

ホスト: イアン・カーナー、シャノン・フォックス


内容: 暗礁に乗り上げたカップルの関係改善の相談に乗る。


_______________________________________________________________


マイナーなベイシックのケーブル・チャンネルの一チャンネルに過ぎないディスカバリー・チャンネルの、さらにマイナーな医療専門の新しめの姉妹チャンネル、ディスカバリー・ヘルスは、一般視聴者にとって普段はほとんど目にする機会のないチャンネルであろう。かくいう私も、「ドクターG」のような癖のあるカルト系の番組以外、普段はめったに見ない。


実際、このチャンネルの主要な番組は、「ドクターG」のような、人体を切り刻んだりするシーンをほとんど手を入れずにそのまま見せてくれるような番組だったり、緊急病棟にカメラを持ち込んで、血まみれで息も絶え絶えの人々を追う番組だったり、整形する人々の実際の手術現場に密着する番組だったりする。あるいは、シャム双生児だとか、骨が成長しないとか、両足がくっついたまま生まれてきたとか、そういう、いわゆる先天的な病疾を持った人々を追ったドキュメンタリー等が、チャンネルのセールス・ポイントだったりする。


一方、最近のディスカバリー・ヘルスはどうやら妊娠出産といったところに注力しているようで、たまにチャンネルを合わせると、かなり高い確率でそういう番組を放送している。どちらかというと常に死の気配、負の印象を感じさせるこのチャンネルにおいて、唯一とも言える明るい話題を提供する出産の話は、チャンネルのバランスを取るために必要なんだと思う。そりゃ、朝から晩まで事故や病気や手術や奇形や死の話ばっかりだったら、誰だってうんざりするだろう。


しかし、たとえ出産の話でも、医療/健康がチャンネルのテーマであるディスカバリー・ヘルスの場合、話は出産をめぐる形だとか喜ぶ家族のありようだとかいうようなことにはならず、ポイントは出産そのものへと向かう。つまり、どうやって分娩するかこそが話の焦点なのであり、番組はずばり妊婦の出産シーンばかりをとらえるのだ。もちろん家族やだんなさんや妊婦のバック・グラウンドといった話が少しは挟まったりするのだが、焦点は出産そのものであるからして、たいていはカメラは臨月を迎えた妊婦と共に病室に留まり、破水して出産間近となった妊婦がうんうんと力みながら子供を生むまでをとらえるというのがほとんどだ。


したがって、カメラは赤ん坊が生まれ落ちるその瞬間をとらえるのだが、面白いもので、無事生まれる場合だと、当然赤ん坊は女性器を通じて生まれてくるから、赤ん坊自体は見せても、その周りの女性器にはぼかしがかかる。一方、帝王切開の場合だと、女性器も陰毛も映らない角度になるから、メスが突き刺さって皮膚を切り裂き、その下の子宮もはっきりと見せる。医者は子宮の中に手を突っ込んで、血まみれの赤ん坊をとりあげるのだ。


こういうのを見ると、世の中の常識とか、猥褻だとかの認識というものがいかに恣意的であるかがよくわかる。どうやら解禁国アメリカにおけるTVといえども、一般チャンネルでは陰毛の描写はダメで、人体にメスを突き刺したり、血のしたたる内臓をとらえることはOKらしいのだ。そういう規制はいったい誰がいつ決めたんだと思わざるを得ないのだが、赤ん坊が生まれてくる女性器を見て興奮するやつもいるんだと反論されたら、こちらも黙るしかない。


いずれにしてもそんなわけで、ディスカバリー・ヘルスは現在のアメリカTV界の常識非常識、あるいはタブー描写の限界を知る上でまたとない材料を提供してくれる。何気にあっと息を呑む描写をさも当然のごとく見せるという点では得がたいチャンネルなのだが、やはりカルト、あるいはマイナーな一チャンネルの枠を超えてこのチャンネルが広く人気を得ることができるとは到底思えない。


とはいえやはり視聴率が広告収入の基準になる以上、どのチャンネルもこの数字には敏感であり、より多くの視聴者を獲得するべく、知恵を絞って新しい番組の企画を考える。ディスカバリー・ヘルスが今回考え出した新番組「ラヴ・オン・ザ・ロックス」は、離婚かさよならの危機に瀕したカップルの家にカメラを設置し、24時間休みなくカップルをとらえ、その問題点を把握し、二人のプロのカウンセラー/セラピストのアドヴァイスによって状況改善に努めるという、いわゆるリレイションシップ系のリアリティ・ショウだ。


もちろんこの手の番組は、何もわざわざディスカバリー・ヘルスが手を出さなくても既に数多くの同様の番組が存在している。ネットワークでは、特にFOXにこの種のリアリティ・ショウが多く、手を変え品を変え新種の番組を投入している。というか、既にこの種の番組は飽和状態に達しており、現在では淘汰のために番組数自体は減りつつある。そういう時に新たにこの分野に参入し、視聴者の興味を惹きつけるには、何か大きな目新しいアイディアが必要とされる。「ラヴ・オン・ザ・ロックス」が試みたのは、普通なら見ることのできない、カップルの私生活のかなり奥深くにまで立ち入ることだった。


とはいえそれだって、既存の番組はかなりそういう部分にも突っ込んで番組を製作している。CBSの「ビッグ・ブラザー」やFOXの「メアリード・バイ・アメリカ」なんかでは参加者同士でセックスまでしており、実際にその行為を行っている部分を見せなくても、視聴者にはそのことは明らかであった。そういう時に、一弱小チャンネルに過ぎないディスカバリー・ヘルスの製作する番組が、果たしてどこまでネットワーク製作番組に肉薄できるかは、はっきり言って疑問だった。


「ラヴ・オン・ザ・ロックス」が他の同系番組と最も異なるのは、実際に番組が登場人物の私生活にまで踏み込むという点にある。「ビッグ・ブラザー」や「メアリード・バイ・アメリカ」の場合、カメラが登場人物のプライヴェイトな部分を映し出すといっても、それはあくまでもお膳立てされた舞台の上であり、厳密な意味で最も本人らしい部分をさらけ出しているとは到底言えない。例えば「ザ・デイティング・エクスペリメント」でも散見されたように、カメラがとらえているとなると、過剰なサーヴィス精神を発揮することが多いのが一般的なアメリカ人というものだ。


その点、カメラが据え付けられた自宅で、始終他人の目を意識して行動できる人間というのはほとんどいないだろう。もちろんいくらかは誇張や取捨選択によって演出が加えられるとはいえ、カメラがとらえるのはほぼ本人の自然の姿であると言える。さらにカメラはベッド・ルームにも設置されており、つまり、第三者としてはたぶん最も興味があるだろう当事者のセックス・ライフも明らかにされる。番組参加者がカメラが撮っていると知っている状況でどこまでセックスに没頭できるかは疑問ではあるが、むしろそのためによけい燃える人間がいても不思議ではない。いずれにしたって参加者はセックス・ライフも録画する条件を飲んで番組に参加しているわけだから、無用の心配とも言える。


実際、番組第一回の冒頭に登場してきたペルー出身の女の子はたいそうなセックス好きで、カメラが映していようが所かまわずといった感じでヘア・デザイナーのハズバンドにセックスをせがむ。それが前戯とカン違いしているのか、ケツを中心にどこでも噛んで歯形をつけるので、だんなはやめてくれと逃げ惑うことになる。ベッドの上だけでなく、カウチの上でもくつろいでいるだんなの上にまたがっていくので、正直言ってこれではだんなの方も身が持つまいなと思ってしまう。これじゃリレイションシップが暗礁に乗り上げてしまうのももっともだろう。


次のカップルは子供が二人 (妻の前夫との間の子と今のカップルの子) おり、こちらはコントロール・フリークの奥さんがあまりセックスをしてくれないのが不満な、まだ若い夫が登場する。いざHタイムとだんながいそいそとベッドに入り込むと、妻の方が、子供は寝かしつけた? 戸締りは? 洗い物は? あれは仕舞った? これはどうした? などとあれこれの始末をちゃんとしてからでないと身体に触ることを許さない。こんな風では当然だんなの気持ちは萎えてしまう。これでは布団を頭からかぶって寝ていた方がましだ。


その次の黒人カップルは、だんながほとんどヴィデオ・ゲーム・フリークで、家の掃除や後片付けといったことだけでなく、セックスですらやる気があるのかよくわからない。奥さんがベッドの中でおちんぽをしごいているのだが、どうやら今日はダメなようだ。その次のアジア系の夫と白人の妻との関係は、どうも修復が利かないくらいこじれているようで、妻はだんなが自分の身体に触れてくるのをよしとしない。だんなもそうだが妻もはっきり言って余分な肉がつきすぎで、あんたとセックスしたいと考えている人間がいるだけまだましと思ってしまう。番組終了間際のテロップでは、結局二人は離婚することになったと言っていた。


番組ではこういった危機に直面しているカップルが1エピソードに2組ずつ登場し、アドヴァイザー/カウンセラーのペアがそれぞれに助言を与え、一と月くらい様子を見て、その後どうなったかの経過を簡単に報告する。まあ、それらのアドヴァイスも、一緒にダンスをしたりヨガをしたりスキンシップを大切にしなさいといった、別にわざわざ他人から聞くまでもないといったありきたりのものから、目を開けたままキスしなさい、というような、よくわからないひねったものもあった。


結局、そのようなアドヴァイスを受けても、別れるようになる者は別れるし、一方、実際に関係が改善される者もいる。どちらかというとこの番組の視聴者は、同じように関係に悩んでいるカップルよりも、私のような出歯亀気分で見ている者が多いだろうから、はっきり言って、番組に登場するカップルが別れようがまたひっつこうが、そんなの知ったこっちゃない、彼らの私生活さえ面白ければいいと考えている者がほとんどだろう。番組製作者も当然そう思っているから、できるだけ人が興味を持ちそうなカップルを選ぼうとしているのだろうが、ここまでの段階では、まあこんなもんかといったところだろうか。実際の話、たかだか赤の他人の私生活や人間関係やセックスの悩みなんて、覗き見リレイションシップ・ショウが花盛りの現代では、よほどのことがない限り、別にもうあまり興味持てないし刺激にもならないなあというのが正直な感想なのであった。


ところでこの番組、最後のクレジットを見ていて気づいたのだが、製作はあの「アメリカン・アイドル」のフリーマントルメディア・ノース・アメリカで、そこで初めて、え、ではこの番組、アメリカ産じゃなくて元々は英国産だったのかと気づいた。どうやら彼の地では民放のチャンネル4が元々のオリジナル番組を放送してたようだ。アメリカのリアリティ・ショウは、実はかなり輸入ものが多く、ヒット・リアリティ・ショウの大概はアメリカにおけるリメイクだったりする。しかし、ディスカバリー・ヘルスのような弱小チャンネルでも、ライセンス・フィーを払ってでもリメイクに手を出すか。やはりヒット番組というのは簡単には生まれないようだ。






< previous                                    HOME

 

Love on the Rocks

ラヴ・オン・ザ・ロックス   ★★

 
inserted by FC2 system