The Mo’Nique Show  ザ・モニーク・ショウ

放送局: BET

プレミア放送日: 10/5/2009 (Mon) 23:00-0:00

製作: BET

製作総指揮: マリリン・ジル、シドニー・ヒックス、モニーク

ホスト: モニーク


The Wanda Sykes Show  ザ・ワンダ・サイクス・ショウ

放送局: FOX

プレミア放送日: 11/7/2009 (Sat) 23:00-0:00

製作: サイクス・エンタテインメント、FOX TVステュディオス

製作総指揮: エディ・フェルドマン

ホスト: ワンダ・サイクス


Lopez Tonight  ロペス・トゥナイト

放送局: TBS

プレミア放送日: 11/9/2009 (Mon) 23:00-0:00

製作: 2.2プロダクションズ、パラメディア、テレピクチャーズ・プロダクションズ

製作総指揮: ジョージ・ロペス、ブレイク・ウェブスター

ホスト: ジョージ・ロペス


内容: 新深夜トーク・ショウ3本。


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今年、アメリカの深夜トーク・ショウは大規模な再編の時期を迎えた。元はといえばABCによるCBSのデイヴィッド・レターマンの引き抜きの目論見に端を発するこのごたごたは、NBCの「レイト・ナイト (Late Night)」の新ホストにジミー・ファロンが収まり、「トゥナイト (Tonight)」の新ホストにコナン・オブライエンが就き、そして元「トゥナイト」ホストのジェイ・レノが新番組「ザ・ジェイ・レノ・ショウ (The Jay Leno Show)」を始めるにあたって、事態はひとまず収束したかのように見えた。


少なくとも、ネットワークを中心とする平日の深夜トーク (10時台の「ジェイ・レノ」を深夜トークというかどうかは置いといて) においては、一応、主要プレイヤーはひとまず出揃ったと言える。しかし週末、あるいはケーブルにまで視野を広げると、まだまだ事態は収まっていない。この秋、いきなり3本も新しい深夜トーク・ショウが始まったからだ。


この中で最もニッチなのは、黒人女性コメディアン、モニークがホストの「ザ・モニーク・ショウ」だろう。モニークは、ラッパーのクイーン・ラティファを一回り小さくしたような (といってもかなりヴォリュームはあるが) 感じで、今はなきUPNの黒人シットコム「ザ・パーカーズ (The Parkers)」に主演していた。とにかくよくしゃべるという印象が強く、数年前にABCの「ザ・ヴュウ (The View)」臨時ホストを担当した時に、NY行きの便に乗ろうとしてフライト・アテンダントとやり合って飛行機から降ろされたという武勇談の持ち主だ。今、最も注目されている映画「プレシャス (Precious)」で、主人公プレシャスをいたぶり続ける鬼母を演じてオスカー候補と噂されているから、やがて日本でも名が売れるようになるに違いない。


そのモニークがホストの「モニーク」は、基本的に黒人が作った、黒人のためのトーク・ショウだ。モニークだけでなく、ステージ上のバンド・メンバー、サブ・ホスト、ゲスト、ついでに言うとスタジオの客もほぼ100%黒人で、そりゃ黒人番組専門チャンネルのBET (Black Entertainment Channel) 番組だから黒人向けだろうとは思っていたが、ここまで完全に黒人だけを意識して番組を作っているとは思ってなかった。


実際の話、BET番組はほとんど黒人が主人公やホストの番組だらけなのは当然だが、だからといって白人やエイジアン、スパニッシュ等、その他の人種を特に排斥しているわけではない。黒人主体の番組でもその他の人種は当然出てくる。アメリカの人種構造を考えればそれは当然だろう。しかし「モニーク」は、丹念に黒人以外の人種や要素を摘みとったとしか思えないような、徹底して黒人テーマの番組だ。


因みに番組第1回のゲストはスティーヴ・ハーヴィとモニカ、音楽ゲストがジェレミーで、一応アメリカのシットコムのヴェテランであるハーヴィや、かつて人気のあったシンガーで、現在復帰活動中でBETでリアリティ・ショウ「モニカ: スティル・スタンディング (Monica Still Standing)」も始まったモニカくらいまでは知っていたが、しかし最後のジェレミーというのは何者だ。見たことも聞いたこともない。同様に共同ホストという建て前のロドニー・ペリーも知らなかった。


番組第2回もフィズ・アンド・ブーグ、タイニー&トヤなんて、黒人文化を知らないとまるで誰が誰だかわからないゲストの人選、第3回になってやっと、クリス・ロック、ニア・ロングなんて、黒人じゃなくても知っているだろうと言える人間が出てくる。アメリカでゴスペルを聴きたさに黒人教会に行ったことがある者ならわかると思うが、番組の乗りはまさにあれだ。あるいは、「イッツ・ショウタイム・アット・ジ・アポロ (It’s Showtime at the Apollo)」と言えるかもしれない。特に番組第1回ではモニークが興奮しているために、今にもハレルヤ、なんて叫び出しそうな雰囲気濃厚で、番組の最後はスタジオの全員が踊りながらの幕切れだ。これ、本当に白人視聴者は意識してないんだろうなと思わせられた。


一方、同じ黒人女性コメディアンのワンダ・サイクスがホストの「ザ・ワンダ・サイクス・ショウ」は、毎夜放送の「モニーク」とは異なり、毎土曜夜のみ放送の週一の番組だ。この枠はかつてスケッチ・コメディの「マッドTV (MadTV)」が編成されていた枠であり、長年放送されていた「マッドTV」がついにキャンセルされた跡を継いだのが、「サイクス」だ。


サイクスは、CBSの元「サインフェルド (Seinfeld)」レギュラーだったジュリア・ルイス-ドレイファス主演のシットコム、「ザ・ニュー・アドヴェンチャーズ・オブ・オールド・クリスティーン (The New Adventures of Old Christine)」で知られている。それ以前の「ワンダ・アット・ラージ (Wanda at Large)」では主演だった。とにかく甲高い声が最も印象的なコメディアンだ。よく他の深夜トークのゲストとして出ていたりしており、黒人コメディアンといっても、モニークのように黒人専門というわけではない。


因みに番組第1回のゲストは、CBSの「ジ・アメイジング・レース (The Amazing Race)」ホストのフィル・ケーガン、FOXの「24」のメアリ・リン・ラジスカブ、FOXのシットコム「ブラザーズ (Brothers)」に出演中のダリル・ミッチェルで、この人選を見ても、特に黒人だけを意識しているわけではないことがわかる。スタジオ内の観客も「モニーク」のように黒一色ではない。特にラジスカブは、いつも怒っているような顔をしていながらしゃべらせると天然系という意外さが受けて、結構トーク・ショウのゲストとして見る機会が多く、重宝されている。この中ではたとえFOXで放送されていても、黒人しか見ていないと思われるシットコムの「ブラザーズ」のミッチェルが、最も弱いという印象を受ける。


それよりも単純に番組としての問題点は、特に笑えるわけではないということにある。特に「サイクス」では後半のゲスト・コーナーでゲストとサイクスがそれぞれ一人ずつおしゃべりするわけではなく、横一線のテーブルにサイクスとゲストが全員並んで、軽くカクテルなど飲みながら、歓談、という感じでおしゃべりする。これが結構力が抜けていて、特に面白いとは言えないところが問題だ。芸のないおしゃべりで、なんかラジオ番組のおしゃべりを聞いているみたいな気になる。サイクスのギャグ・スキット中心の前半はともかく、この後半の座談会めいたおしゃべりをどうにかしないと、番組の将来は覚束ないという気がする。


ただしその中でアジア人を知ろうというクイズ・コーナーで、ワールド・シリーズでMVPをとったばかりのマツイの顔写真が現れ、さてマツイっていったい何人かということで、(1) コリアン、(2) ジャパニーズ、(3) オキナワンの選択肢から選べという質問には思わずにやりとさせられた。ケーガンもサイクスも正答していたが、マツイって一般的日本人みたいには思われていないようだ。オキナワンという単語があるのかというのにも驚かされた。やはり基地があるからアメリカ人だってオキナワくらい知っているのか。それにオキナワの人は日本の人と違うという一般的認識がアメリカにもあったのか。


メキシコ系コメディアンのジョージ・ロペスがホストの「ロペス・トゥナイト」の場合、ゲストの人選や観客等、人種的には最もミックスされているだけでなく、ゲストのメンツが最も豪華だ。たとえば番組第1回では、冒頭でエレン・デジェネレスが顔を見せ、正ゲストはNBAスーパースターのコービー・ブライアントにABCの「デスパレートな妻たち (Desperate Housewives)」のエヴァ・ロンゴリア・パーカー、そして音楽ゲストはサンタナと、最も見映えがする。確かにパーカーとサンタナはロペス同様ラテンの血が入っており、その繋がりはあるだろうが、しかしこれくらい豪華だと既に誰も人種なんか気にしないだろう。


番組第2回もゲストがジェイミー・フォックス、音楽ゲストがマーク・アンソニー、第3回ゲストはかつてのボクサー世界チャンプのオスカー・デ・ラ・ホヤにクイーン・ラティファ、その後のゲストもチャーリー・シーン、ラリー・デイヴィッド、デミ・ロヴァト、アンディ・ガルシア、サンドラ・ブロック等、確かにラテンがかかってはいるが、それでもなかなかなメンツを揃え、ほとんどネットワークの深夜トークと較べても遜色ない。セットも3本の中では最も豪華で、金がかかっているという印象を受ける。


因みにロペスはABCで5シーズン続いたシットコム「ジョージ・ロペス (George Lopez)」に主演しており、元々それなりに知名度は高い。つまり今回始まった3本のトーク・ショウのホストの全員が、過去シットコムで腕を磨くか顔を売っている。さらに3人とも黒人、黒人、メキシカンの、いわゆるマイノリティだ。一方ネットワークの深夜トークのホストは、ほぼ100%白人だ。つまり今回の新トーク・ショウは、そういうメインストリームからこぼれ落ちている、マイノリティの視聴者を視野に入れた番組製作という印象が強い。その中でもまた、メインストリーム寄りの「ロペス」、完全に白人無視の「モニーク」、その中間の「サイクス」という微妙な違いがある。


私の個人的な意見を言うと、「ロペス」、「サイクス」、「モニーク」の順に楽しめたが、「モニーク」なんて、白人すら意識していない番組をアジア人に見てもらおうなんてまるで考えてないだろうから、それも当然だ。かつてエスニックのホストで白人視聴者もとり入れて曲がりなりにもある程度成功したと言える番組として、FOXの「ジ・アルセニオ・ホール・ショウ (The Arsenio Hall Show)」がある。「ロペス」は、かなりこれに近いところまで迫れるのではないか。もしかしたら「サイクス」も「モニーク」も、ちゃんとターゲットとしている視聴者をつかまえて住み分けは可能なのかもしれない。


しかし、これだけ毎晩いくつもいくつも深夜トークがあると、見る方も大変だ。これだけ競争が激しいと、「ジェイ・レノ」ですら視聴率が落ちてきていると聞いても、当然という気がする。数年前までは、「トゥナイト」が面白くない時は「レイト・ショウ」を見ればいいくらいの二者択一、それに「ジミー・キメル・ライヴ (Jimmy Kimmel Live)」が絡んで、それも気分じゃない時はコメディ・セントラルのジョン・スチュワートの「デイリー・ショウ (Daily Show)」と、これでほぼ足りた。というか、既にそれ以上こなすには絶対的な時間が足りない。その上さらに新番組が次々と投入される。おかげでまたカウチの上で半醒半眠でTV見て、翌日眠いー肩痛いー腰痛いーとぼやきながら通勤だ。視聴者冥利というよりも、苦行しているような気がする。








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