Longmire   ロングマイヤ

放送局: A&E

プレミア放送日: 6/3/2012 (Sun) 22:00-23:00

製作: シェファード/ロビン・カンパニー、ワーナー・ホライズンTV

製作総指揮: グリア・シェファード、マイケル・ロビン

監督: クリストファー・チュラック

原作: クレイグ・ジョンソン

脚本: ハント・ボールドウィン、ジョン・コヴニー

出演: ロバート・テイラー (ウォルト・ロングマイヤ)、ケイティ・サッコフ (ヴィクトリア・モレッティ)、ルー・ダイヤモンド・フィリップス (ヘンリー)、ベイリー・チェイス (ブランチ・コナリー)、キャシディ・フリーマン (カディ・ロングマイヤ)、アダム・バートリー (ファーグ)


物語: ワイオミング州アブサロカ。シェリフのウォルト・ロングマイヤは1年前の妻の死からまだ立ち直れずにいた。赴任してきて間もない女性シェリフのヴィクから死体を発見したという連絡が入り、駆けつけたロングマイヤに、ヴィクは羊の死体を見せる。しかし二人は実際に、その近くで男の死体を発見する。村の者の顔なら全員知っているロングマイヤが知らない者だった。現場に残されていた証拠品から、強力なライフルが使用されたことが判明、さらになぜだかジーンズが一本落ちていた。一方、身元不明の死体は、以前ネイティヴ・アメリカンの少女が行方不明となった時に、捜索に関係していた男であったことが判明する‥‥


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Longmire


ロングマイヤ   ★★★

現時点での今年最大のアメリカTV界の出来事は、やはり従来の視聴率記録を塗り替えたミニシリーズ、「ハットフィールズ&マッコイズ (Hatfields & McCoys)」だろう。久しくヒット番組が現れず、低調な成績に甘んじていたTV映画・ミニシリーズというジャンルに忽然と現れ、すべての視聴率記録を塗り替えた。


いまだにこのジャンルにこんな力が残っていたのかという驚きもさることながら、製作放送したのが歴史もの専門のドキュメンタリー・チャンネル、ヒストリー・チャンネルであったこともまた意外性充分だった。近年、リアリティ・ショウの「ポーン・スターズ (Pawn Stars)」、「アメリカン・ピッカーズ (American Pickers)」等で頭角を現していたとはいえ、基本的にその編成はドキュメンタリーばかりのヒストリー・チャンネルとドラマとは、なかなか結びつかない。


たまさか歴史に題をとったドキュドラマを編成しないこともないとはいえ、やはりヒストリー・チャンネルというと、人が即座に連想するのはドキュメンタリー番組だ。さらに「ハットフィールズ&マッコイズ」の場合、かなり西部劇に近い史実もの、というその内容もまた興味を惹いた。西部劇、今頃? と思わせるのに充分だった。


そういう意外性で世間をあっと言わせた「ハットフィールズ&マッコイズ」だが、しかし、よく考えると、近年、西部劇、もしくはそれに類似した番組は、昨年のAMCの「ヘル・オン・ホイールズ (Hell on Wheels)」等、そこここに現れ、話題になっていた。日本における時代劇と同様、アメリカにおいて西部劇というジャンルが完全になくなることはないと思わせてくれた。


また、時代こそ19世紀ではないが、肌触りはほとんど西部劇、という番組もある。FXの「ジャスティファイド (Justified)」のように、主人公がいまだにカウボーイ・ハットを被り、さあ、銃を抜けと相手を挑発するなんてのは西部劇の常道であり、馬の代わりにクルマに乗っているだけで、感触は西部劇とほとんど変わらない。


そして今回投入されたのが、「ロングマイヤ」だ。ワイオミングを舞台としており、主人公のシェリフ、ロングマイヤはやはり常にカウボーイ・ハットを被って仕事する。思うに、あのハットは政府支給のユニフォームの一つなのだろうか。聞いたことはないが、ハットとブーツが支給品として配られても、あの辺では仕事の必需品として誰でも納得していそうな気がする。


ロングマイヤは妻を亡くしたばかりで、その傷がいまだに癒えていない。既に独立した娘のカディがおり、なにかと世話を焼いてくれたりもするが、基本的に独立独歩だ。最近は仕事の上では都会から赴任してきた若いヴィクが片腕となって色々と動いてくれるが、出世欲の強い部下のブランチは、ロングマイヤのポストを狙っている。バー経営のネイティヴ・アメリカンのヘンリーはロングマイヤの友人でもあり、重要な情報源でもある。


という世界での事件を描くドラマで、西部劇という印象もさることながら、毎回様々な事件を描くミステリ・ドラマでもある。周りを山や荒野に囲まれ、ネイティヴ・インディアンが登場し、ロングマイヤと縄張り争い的な確執も起こす。ネイティヴ・アメリカンの登場するミステリ・ドラマというと、小説ではトニィ・ヒラーマンの「ナヴァホ・ミステリー」シリーズを思い起こすが、実際に、あのシリーズのイメージを映像化したら「ロングマイヤ」になったという印象も濃厚だ。


そういう、最もアメリカ的な舞台設定の話なのだが、実際にはロングマイヤを演じるのは、オーストラリア人の俳優ロバート・テイラーだ。実はアメリカ産のTVや映画で、最もアメリカ的な役柄をオーストラリア人が演じるという例は結構多い。その典型が故ヒース・レッジャーだろう。ガタイがよく朴訥、的な、人がアメリカ人中西部人の典型として持っている印象を体現したのが、レッジャーだった。実際の話、「パトリオット (The Patriot)」にせよ「チョコレート (Monster’s Ball)」にせよ「ブロークバック・マウンテン (Brokeback Mountain)」にせよ、これだけアメリカアメリカした話を演じているのが、実はアメリカ人ではない。


そういえば「パトリオット」で共演していたメル・ギブソンもオーストラリア人で、南北戦争というこれ以上アメリカ的なものはないというくらいめちゃ愛国的なアメリカ万歳ドラマの主人公二人を、実は外国人が演じている。そして今、テイラーだ。アメリカ人はそのことは気にならないのか? どうせならネイティヴ・アメリカンのルー・ダイヤモンド・フィリップス演じるヘンリーも、オーストラリアのアボリジニー俳優に演じさせてみればどうなったんだろうと想像を逞しくしてしまうが、そこまでしたら倒錯が行き過ぎて、さすがにお叱りを受けそうな気もする。


一方、ではアメリカ人俳優だと誰がロングマイヤを演じられるかというと、すぐに頭に浮かんだのがニック・ノルティ、トム・サイズモア、もしかしたらミッキー・ロークもいけるかもしれないと考えて、ふと、こいつら、みんな素行に問題のあるやつらばっかりと気がついた。アルコールやらドラッグやら暴行やらで逮捕歴のある者ばかりで、ロングマイヤのようなタフなイメージで、カウボーイ・ハットが似合い、しかも素行に問題のない俳優を探していたら、オーストラリアから連れて来ざるを得なかったというのが真相かと納得が行った。


そしてテイラー扮する主人公の名がウォルトと聞くと、アメリカのTV好きなら、現在最終シーズンを放送中のAMCのクライム・ドラマ「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」で、ブライアン・クランストンが演じている主人公、ウォルター・ホワイトを思い出さずにはいられまい。ある意味こちらもハード・ボイルドを体現している。しかも「ブレイキング・バッド」の舞台はニュー・メキシコ州のアルバカーキで、郊外には赤茶けた荒野が広がっており、かなり「ロングマイヤ」と共通する点がある。どっちかっつうと「ブレイキング・バッド」は土、「ロングマイヤ」は草なのだが、西部劇に共通する背景の山や広い空、乾いた空気等の視覚的印象が、両者を近いものに感じさせる。西部劇、というか、西部が旬なのかもしれない。










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