Logan


LOGAN/ローガン  (2017年3月)

ヒュー・ジャックマンの演じるウルヴァリンは歴史が長い。粗製濫造の気味があった黄金期のハリウッド時代は、一人の役者が当たり役のキャラクターを何度も演じていたりしたが、現代ではシリーズものでも2、3年に一本しか作られないのが普通であるため、一人が同一キャラクターを演じる回数はそんなに多くはない。 

 

そういう時代に過去17年間で9本の作品でX−メンのウルヴァリンを演じ続けたジャックマンの記録は、なかなかすごい。これに匹敵するのは、8作品が作られた「ハリー・ポッター (Harry Potter)」くらいしかないだろう。成長期の少年少女を描くため、10年で8作を詰め込んで製作した魔法使いの「ハリー・ポッター」の方をすごいと見るか、17年という長期にわたり9作品に出たウルヴァリンをさすが不死とこちらの方に軍配を上げるか、意見の分かれるところだ。 

 

「ローガン」では、不死だと思われていたそのウルヴァリンの身体に異変が起きている。どうやら不死というのは言葉の綾に過ぎず、超人的な身体復活能力を持つウルヴァリンにも、やはり衰えという現象は起こるものらしい。私は「ローガン」は「ウルヴァリン: SAMURAI (The Wolverine)」の続編で、素浪人的なローガンが各地で雇われ用心棒的な存在となって、押しかけボディガードのユキオとのさすらい編になるものだとばかり思っていた。そしたら、冒頭からちょっと荒れ気味のローガンが出てきて、飲んだくれたり、ドラッグにも手を出しているのを見て、ぎょっとする。アル中ドラッグ漬けのウルヴァリンか、こいつは予想だにしてなかった。 

 

さらに隠れ家に戻ったローガンを迎えるのは、こちらも年老いたチャールズで、呆け気味で力の抑制が利かなくなっている。テレパシーの力自体はまだ持っているので、いったん歯止めが利かなくなると、人騒がせなことこの上ない。つまり、ミュータントといえども年老いる。それは不死のように見えたウルヴァリンも例外ではなかった。 

 

それにしても力のある者が老いさらばえたりヤク中になったりすると、これはもの悲しい。その二人がテキサス-メキシコの国境沿いで打ち捨てられた施設に住んでいる。外は太陽燦々だが、チャールズの面倒を見るカリバンは紫外線を受けつけないため、施設は太陽の光を遮るように覆われていて、常に暗い。X-メンって、ウルヴァリンって、こんなに暗い話だったっけ? 

 

ジャックマンが小さな皮膚ガンにかかっていたのは本人が至るところで言っていたから知っている者も多いと思うが、「ローガン」の宣伝でアメリカのトーク・ショウに出まくっていた時、鼻に絆創膏をしている時があった。カリバン程じゃないがジャックマンも紫外線に弱いみたいで、陽に当たる時は日焼け止めを塗るようにとアドヴァイスしていたから、あるいは本当にそういう病気かなんかのせいで、演技が続けられなくなったのかと思った。 

 

しかしウルヴァリンの打ち止めは、そういうことではないようだ。ちょっとマンネリというか、これ以上続ける意味を本人も見つけられなくなっていたらしい。それで終止符を打つ決心をした。「ローガン」がダークなのは、これで終わりという意図的なものだった。 

 

実はジャックマンのウルヴァリンは、オリジナルのイメージとはまるで違う。マーヴェル・コミックスにおけるウルヴァリンは、醜男で外見にコンプレックスを持っているタイプだ。それをハンサムなジャックマンが演じることで、ウルヴァリンのイメージがだいぶ変わった。 

 

オリジナルとイメージが異なるスーパーヒーローとして、同じくマーヴェルの「インクレディブル・ハルク (The Incredible Hulk)」がある。もちろん現在の「アベンジャース (The Avengers)」シリーズでマーク・ラファロが演じているハルクではなく、その前にエドワード・ノートンが演じたハルクだ。ウルヴァリン同様ずんぐりむっくりのハルクを瘦せぎすのノートンが演じることで、こちらも結構違和感があった。それがジャックマンのウルヴァリンは映画史に残る長寿キャラ化し、ノートンのハルクは一作で消えた。だいたいこの手のスーパーヒーローものは三部作となるのが普通だから、ノートンのハルクは諦められたのだろう。 

 

この違いが何かと考えるに、最初から単体スーパーヒーローとしてではなく、X-メンの一人として登場したウルヴァリンに対し、人々が徐々に受け入れていく時間があったからではないかという気がする。これが主人公のハルクの場合、それ以前のTVシリーズの影響もあり、慣れる前に違和感の方が勝ってしまった。一方ウルヴァリンは、元々マーヴェル・コミックスのファンの枠を超えてまで知られていたわけではなかった。 

 

実際、最初の「X-メン」で最初にウルヴァリンが登場したのを見た時には、手の甲から鋼鉄の爪が伸び出るなんて、格好いいというよりもけったいな能力と思ったものだ。扮するジャックマンは、ちょっとウルフ顔でハンサムで悪くないと思ったが、それはウルヴァリンが実はブ男というオリジナルの設定をまったく知らなかったからだ。同様にウルヴァリンを初めて見た者が多かったからこそ、ハンサムなウルヴァリンという設定を人が受け入れた。ウルヴァリンに知名度があったら、逆にバッシングが起きたような気がする。 

 

扮するジャックマンも、この役に決まったのは運だった。当初ウルヴァリンはダグレイ・スコットが演じることが決まっていたのだが、「ミッション・インポッシブル2 (Mission: Impossible II)」の撮影が延び、急遽代役がジャックマンに回ってきた。実際の話、ちょっとごつそうなスコットの方が、イメージとしてはウルヴァリンに合っていると思う。いずれにしても時の巡り合わせで、ジャックマンは好運をつかんだ。 

 

そして時は流れ、現在、ウルヴァリンがシリーズとしては過渡的な時期に来ていたのは確かだろう。不死の男ではあるが、やはり17年前と較べると、明らかに歳はとっている。別に歳をとらないのではなく、その進行が極めてゆっくりであるだけという説ももちろんある。ウルヴァリンだって子供だった時期はあるわけだから、その説に与しないわけでもない。今、200歳くらい? 

 

ウルヴァリンが話の幕を引くのは、むしろ現代では、アンチヒーローの「デッドプール (Deadpool)」の方がよほど今風で人気があることとも関係ありそうだ。知っての通りデッドプールは、その生まれ方や能力がウルヴァリンと酷似している。そのデッドプールが自分の境遇を含めなんでもかんでもおちゃらかすので、ウルヴァリンが負のヒーローではなく、パロディ化して見える。やはりウルヴァリンとしては嫌だろう。この辺が潮時かと思っても致し方ない気もする。 

 









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2029年。ウルヴァリン/ローガン (ヒュー・ジャックマン) は、年老いたチャールズ・ゼイヴィア (パトリック・スチュワート) とその世話をするカリバン (スティーヴン・マーチャント) と共にテキサス-メキシコ国境に隠れ住み、リムジン・ドライヴァーとして生計を立てていた。ウルヴァリンの不死の力自体も弱ってきており、感じるようになった痛みを抑えるため、酒やドラッグを常用するようになっていた。そこへガブリエラという女性が連絡をとってくる。まだ幼い少女ローラの移送を依頼するためだ。実はローラもローガン同様人体実験によって生まれてきた少女で、ローガンのような超人的身体能力を持っていた。そのローラを実験を施したトランシーゲン社の刺客が追ってくる。ローガンはチャールズとローラを連れて北へと向かう‥‥ 


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