Cashmere Mafia

放送局: ABC

プレミア放送日: 1/6/2008 (Sun) 22:00-23:00

製作総指揮: ダーレン・スター、ケヴィン・ウェイド、ペイトン・リード、ゲイル・カッツ

製作: ジェイン・ラーブ、アリス・ベザヒア

監督: マイケル・プレスマン

クリエイター/脚本: ケヴィン・ウェイド

出演: ルーシー・リュー (ミア)、フランシス・オコーナー (ゾーイ)、ミランダ・オットー (ジュリエット)、ボニー・ソマーヴィル (ケイトリン)、ピーター・ハーマン (デイヴィス)、ジュリアン・オヴェンデン (エリック)


物語: ミア、ゾーイ、ジュリエット、ケイトリンの4人は同じビジネス学校を出、今ではそれぞれの世界で相応の地位に就いているキャリア・ウーマンだ。とはいえそれなりに4人とも悩みはあり、時に恋とキャリアと家庭を秤にかけたり、夫の浮気に悩んだり、同性に恋したりしながら人生を歩んでいくのだった‥‥



Lipstick Jungle

放送局: NBC

プレミア放送日: 2/7/2008 (Thu) 22:00-23:00

製作総指揮: オリヴァー・ゴールドスティック、ティモシー・バスフィールド、キャンデス・ブシュネル

製作: ジェイムズ・ビッグウッド

監督: ゲアリー・ウィニック

出演: ブルック・シールズ (ウェンディ・ヒーリー)、キム・レイヴァー (ニコ・ライリー)、リンジー・プライス (ヴィクトリー・フォード)、アンドリュウ・マッカーシー (ジョー・ベネット)、ジュリアン・サンズ (ヘクター・マトリック)、ポール・ブラックソーン (シェイン・ヒーリー)


物語: ウェンディ、ニコ、リンジーはそれぞれの世界で相応の地位に就いているキャリア・ウーマンだ。とはいえそれなりに3人とも悩みはあり、時に恋とキャリアと家庭を秤にかけたりしながら人生を歩んでいくのだった‥‥


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キャンデス・ブシュネルとダーレン・スターといえば、かつてペイTVのHBOで「Sex and the City (SATC)」を成功に導いたプロデューサーだ。基本的にプシュネルが原作を書いた番組クリエイターであり、業界ではヴェテランのスターが実際の製作では力を発揮したものと思われる。その「SATC」、番組は既に最終回を迎えているが、今年その映画版が公開予定など、番組人気再燃の気配がある。


そしてまたTV界でもブシュネルとスターがそれぞれABCとNBCで別個に同様の企画を立て、放送にこぎつけたのが、「カシミア・マフィア」と「リップスティック・ジャングル」だ。なんせ「マフィア」のプレミア放送が1月、「ジャングル」が2月、「SATC」公開が夏だ。アメリカの業界が総出でヒット作を生み出そうと共闘しようとしたというよりは、それぞれがなんらかのおこぼれに預かろうと慌ててブームの尻馬に乗っかろうとしたという感触の方が強いのがなんとも情けない気がしないでもないが、それでも確かにある種の盛り上がりのようなものは感じられる。


第一、「カシミア・マフィア」と「リップスティック・ジャングル」では、なんとなくタイトルの語感、ネーミングのスタイルまでそっくりだ。一方の「カシミア」に対して「リップスティック」、「マフィア」に対して「ジャングル」と、まるで同じ人が命名したんじゃないかと思えるくらいネーミングのセンスが似たり寄ったりだ。どちらかというとこれは既に同名の本を出版しているブシュネルの方が先にタイトルが決まったと思えるから、スターがそのセンスをいただいたという方が近いかもしれない。


問題の中味も、両者ともほとんど「SATC」のスピンオフという感じで、しかも今度はちょっと年齢層を上げて、30代後半から40代前半の、恋とキャリア、というよりは恋もキャリアも家庭も描く、という設定になっている。つまり主要登場人物の何人かは既に結婚して子供もいる。むろんシングルだっているが、いずれにしても両番組とも彼女らの仕事、恋愛、そして家庭での子育てや夫との関係といったドメスティックな事柄も話に絡んでくるのが特徴だ。むろん両方とも舞台はニューヨークである。


「マフィア」では主人公格はルーシー・リュー演じるミアで、彼女は大手出版社の出世頭だ。その社内における筆頭ライヴァルは彼女の恋人でもあり、次期経営陣の一角に食い込むためには、その恋人とのノルマ競争に勝つことを条件として言いわたされる。ホテル重役のジュリエット (ミランダ・オットー) は、夫が浮気していたことが発覚する。いまだにステディの恋人のいないケイトリン (ボニー・サマーヴィル) は、自分には同性愛の気があることに気づく。ゾーイ (フランシス・オコーナー) はバンカーで、主要登場人物4人の中では彼女が仕事も子供も夫も最も安定している。最大の悩みはいいベイビー・シッターが見つからないことくらいだ。


一方「ジャングル」では、主人公は映画配給会社重役のウエンディ (ブルック・シールズ) で、これまでは家庭も仕事もうまく両立しているものと自負していたものが、実はキャリア組の妻の影で、夫は家庭で子供と飼い猫の世話に明け暮れていることに鬱々としていたことを知る。ニコ (キム・レイヴァー) もこれまではなんとか夫とうまくやっていたが、パーティで会った男といい仲になってしまう。デザイナーのヴィクトリー (リンジー・プライス) は最新のショウが酷評されてどツボにはまっている、などと各人各様の生活の悲喜こもごもが描かれる。


正直言って両番組で最大の違いは、主要登場人物の数 (「マフィア」は4人、「ジャングル」は3人) に過ぎないというくらい印象はよく似ている。実際登場人物の私生活やキャリア、動機付け等が両者でほとんど変わらないし、ニューヨークという舞台も一緒だ。職業に微妙な差はあるが、出版、銀行、デザイナー、映画モーグル、ホテル経営、等と並べてみて、どれかをとりかえっこしてみてもなんら不都合はないだろうと思える。


その印象を特に強く受けるのが両番組の第1回の幕切れで、両方とも登場人物に色々あって、最後はまた主要登場人物が一同に会し、私たちは皆仲間、あなたたちがいなければこれまでもやってこれなかったし、今後もずっと一緒、みたいな感じで終わる。家庭より仲間を優先するこの態度は一時期の日本の男社会ではお馴染みだからその発想自体には驚きはしないが、しかし、こうも似たような終わり方をするかと思った。二つの番組を交互に編集しても気がつかなさそうだ。


そのため、両者を区別する最大のポイントは、主人公格の二人、「マフィア」のリューと、「ジャングル」のシールズの二人から来る印象の差によるものが最も大きいと言える。特に「マフィア」のリューは、この手の番組では画期的とも言えるアジア系キャリア・ウーマンであり、しかも彼女が主人公だ。そのことが番組にプラスとして働いたかマイナスとして働いたかあるいはなんの影響も及ぼさなかったかはなんとも言いようがないが、しかし、視覚的には確かにこれは「SATC」とは明らかに異なる。リューがここまで買われているとは知らなかった。しかも立派に主人公に見える。一方の「ジャングル」の主人公ウェンディに扮するシールズは、いかにもキャリア女性という感じで、少なくとも「ハロー・スーザン (Suddenly Susan)」のようなコメディよりは、こちらの方が向いているという感触を受ける。つまり、視覚的には異なるが、両者ともできは悪くない。


私の印象としてはその主人公の周りを取り囲む面々という点で、わずかだが「マフィア」の方ができがいいと感じる。特に「ジャングル」では、ヴィクトリーに扮するプライスがミスキャストという印象を受けるのはいかんともしがたい。ニコを演じるレイヴァーがシリアスな感じで通すので、そのバランスをとるためにややコメディ・リリーフ的なキャラクターを付加されているためだと思うが、彼女のパートになるとなんとなく話が浮くし、それよりも3人の中で最も服を着こなせていないプライスがデザイナーというのは違和感がある。


また、ヴィクトリーはトーキョーのクライアントに呼ばれて東京出張するのだが、その部分をすべてセットでごまかさないで欲しい。キッチュな味付けを狙ったのではなく、そこまで金かける余裕も時間もなかったのがありありだ。本当に東京で撮影できないのなら、せめて東京からのクライアントをニューヨークに呼ぶという設定にしてもらいたかった。ただしこの挿話はその後で傷心のヴィクトリーが大金持ちのボーイ・フレンドの自家用機で帰国した際に彼が飛行場にヴィクトリーを迎えにくるというシチュエイションの伏線になっているので、彼女を一度外国に出す必要があったというのはわからないではない。


とまあ、些細な気にかかる点は両者ともあるが、さすがに「SATC」で培った経験は生きているものと見えて、ツボは押さえているという印象を受ける。一方、「SATC」を放送したHBOはペイTVでもあり、番組内にやたらと男でも女でも裸が出てきた。キャリア女性の恋と生活とセックスをコメディ・タッチで描くのが「SATC」の趣旨だったから、その点、裸が認められるHBOで放送されたのは番組のためにはよかった。それが「マフィア」と「ジャングル」ではネットワークでの放送ということもあり、裸の描写はご法度だし、禁止用語もある。だからどうしても「SATC」が持っていた毒のようなものは、「マフィア」にも「ジャングル」にもない。


そのため両番組共、登場人物が結構痛い目に遭ったりしても、「SATC」と比較した場合、全体としての印象は甘い。むろんそれはそれでこちらの方が好みという者もいるだろうから、一概にそれが悪いことだとは言わないが、年季の入った「SATC」ファンが両番組に対して生ぬるいという印象を持つのは避けられないと思う。


現在、両番組共初期の予定されていた放送を終えている。これまた両番組共積極的にいいとは言えない視聴率で終えたところまでそっくりだ。番組が継続するかどうかの発表はまだないが、少なくとも「ジャングル」の方は脚本の追加オーダーは獲得しており、そのでき次第では今後も継続の可能性はある。一方「マフィア」の方は、たぶん望み薄だろうということで業界の意見は一致している。今秋に続きのエピソードが製作されて放送される可能性は、「ジャングル」が50%、「マフィア」は10%といったところだろうか。やはり人々が望んでいるのは「SATC」の薄まった二番煎じ番組ではなく、夏公開の「SATC」そのものだという気がする。








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Cashmere Mafia
カシミア・マフィア   ★★1/2
Lipstick Jungle
リップスティック・ジャングル   ★★1/2

 
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