Lights Out   ライツ・アウト

放送局:  FX

プレミア放送日: 1/11/2011 (Tue) 22:00-23:00

製作: トゥー・トン・フィルムズ、ファインマン・エンタテインメント、FOX TVステュディオス

製作総指揮: ジャスティン・ザッカム、ウォレン・レイト、ロス・ファインマン、フィリップ・ノイス

製作: ジョナサン・スターク

クリエイター/脚本: ジャスティン・ザッカム

出演: ホルト・マッコーラニー (パトリック・「ライツ」・リアリー)、ステイシー・キーチ (パプス)、キャサリン・マコーマック (テレサ・リアリー)、パブロ・シュライバー (ジョニー)


物語: ライツはボクシングのへヴィ級チャンプだったが、押していた試合で詰めを誤り、攻め返された上に判定で敗れる。5年後、引退したライツはボクシング・ジムを経営し、豪邸に住み、美しい妻テレサとすくすくと成長している3人の娘に囲まれ、一見なんの不自由もない生活を送っているように見えたが、しかしその台所は火の車で、ほとんど首が回らなくなっていた。毎月の住宅ローンの返済にも支障を来たすようになるが、そんなことは口が裂けても妻や子には言えなかった。ライツは一時凌ぎに借金の取り立ての代行を引き受けて小金を稼ごうとする。一方ボクサー時代のダメージがライツの身体を蝕み始めてもいた。検査の結果、ライツの脳は損傷を受けており、いつアルツハイマーを発症するかわからないと医者に宣告される‥‥


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「ライツ・アウト」を放送するFXは、一時期ベイシック・ケーブル・チャンネルの台風の目的存在だった。昨年も、年間のベスト・テンに入るできのティモシー・オリファント主演の「ジャスティファイド (Justified)」を編成し、「サンズ・オブ・アナーキー (Sons of Anarchy)」がじりじりと話題になるなど、いまだに質のいい番組を放送してはいるが、しかしやはり、「ニップ/タック (Nip/Tuck)」「レスキュー・ミー (Rescue Me)」、「ダメージス (Damages)」等の番組が毎週の話題を独占していた感のある一時期に較べると、現在はちと寂しい印象を与えるのは否めない。


現在のFX番組の印象は、質やオリジナリティを追い求めすぎた結果、通やカルト好みの癖のある地味な番組ばかりになってしまったというものだ。最近目立つヒット番組のリメイクなんかやられるよりは私は断然FXを擁護するが、しかし、大きなヒット番組を確立しにくいのは事実だ。


その点、オリジナリティ溢れる番組ばかりでありながら、さらに話題性や人気もあり、批評家の評価の高い、「マッド・メン (Mad Men)」「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」「ザ・ウォーキング・デッド (The Walking Dead)」等の番組を揃えるAMCが、TNTやUSAといった最大手のチャンネルを別にすると、今ではベイシック・ケーブルの顔だ。


そういう状況下で投入されたFXの新番組が、「ライツ・アウト」だ。この番組、燃え尽きて引退した元ボクシング・チャンプを描くドラマで、見る前から不安が頭をもたげてくる。現役ではない引退したボクサーか。聞いただけでも地味そうだ。しかも知っている俳優もほとんどいない。「ザ・ファイター (The Fighter)」とはだいぶ毛色の違った番組であることだけは間違いないだろう。こんなんで本当に大丈夫か。


実際の話、近年のTV番組で、これだけ知らない顔ばかりが揃っているのを見るのも珍しい。新しい番組が始まると、よほどのことがない限りだいたい主演は見知った顔だし、そうでない場合は脇をヴェテランが固めているものだが、今回、主演のパトリック 「ライツ」・リアリーを演じるホルト・マッコーラニーは、どこかで見たことがあるのは間違いないが、だからといって、ではどこで見たかというと、とんと思い出せない。経歴を見るとかなりの数のTV番組に出ており、おかげで逆にどこで目にしているのかが判然としない。


妻のテレサを演じるキャサリン・マコーマックも、キャリアを調べて初めて「28週後... (28 Weeks Later)」でロバート・カーライルの妻を演じた彼女だったと気づいた。ライツの父を演じるステイシー・キーチだけはよく知っているヴェテランだが、正直言って知っていたのは彼だけだ。ライツの弟ジョニーを演じるパブロ・シュライバーは、評価の高かったHBOの「ザ・ワイヤー (The Wire)」に出ていたそうだが、特に見ていたわけではないのでやはり知らなかった。うーむ、知らない人ばかりだ。


番組は現役最後の試合に負けて控え室でまるで死人のようにぼこぼこにされて横になるライツの姿から始まる。妻のアリスに懇願され、引退したライツだったが、しかしボクシング・ジム経営の事業はまったく軌道に乗らず、金銭的に二進も三進も行かなくなっていた。とはいえ分不相応な豪邸のローンは残っており、3人の娘は全員私学に通っている。病院に勤めるテレサは位が上がってやっとまともに給料がもらえる身分になると喜んでいるが、年間3万ドルではほとんど焼け石に水でしかなかった。


結局ライツは話のあった借金の取り立て請け負い人を引き受ける。どうしても金が必要だった。相手を叩きのめし、気持ちがささくれ立ってバーで金を賭けて喧嘩をして、こちらでも相手を袋叩きにしてしまう。そのライツに再びボクシングの話が持ち上がる。最後の試合でライツに勝ったものの、試合の内容に満足していないレイノルズと再戦しないかというのだ。ファイト・マネーは1,000万ドル。しかしテレサは納得しない。ライツも引退した身だと話を断るが‥‥


番組はその後、借金取り立て屋とプロのボクサーへの復帰という狭間でとるべき道に迷うライツを描く。なんといっても、ライツを演じるマッコーラニーがえらく強面で、役柄にピタリとはまっている。マッコーラニーのために書かれたような脚本なのだ。第1話では、ハイ・ティーンになった長女が朝帰りで、実は男友達と一緒だったことがばれる。その少年はライツの家に召喚されて説教されるのだが、その前に立ったライツは何も言わない。それだけでものすごいプレッシャーがある。こんな怖い顔の大男が何も言わず自分の前でこちらを睨んで立っていたら、ティーンエイジャーなら本気でちびりそうだ。


「ライツ・アウト」が今後ボクシング・ドラマになるのか、それともボクシングを辞めたライツの人間ドラマになるのかはまだよくわからない。どちらかというと「ファイター」ほどボクシングは話には絡んでこないんじゃないかと予想するが、実は最後はまたタイトル戦になって話を盛り上げるのかもしれない。その場合は、もし評価された場合、どうやって第2シーズンに続けるつもりなのか、それとも最初から1シーズンで終わりのつもりでやっているのか。


ボクシングという点を抜きにしてドラマの構造だけを見た場合、思い出すのはHBOの「ザ・ソプラノズ (The Sopranos)」だ。ライツはなんとか自分の生活を維持しようともがくが、「ソプラノズ」でも強面ギャングの主人公トニーが、なんとか自分のビジネスと家庭を両立させようと足搔く。しかしその両者で結局妻は自分の気持ちをわかってくれず、歳頃の子供たちはなおさらだ。ビジネスはうまく行かず、借金だけは嵩む。トニーが経営する廃品回収業はIRS (税務署) から睨まれているが、ライツが経営するジムにもIRSの調査が入る。結局勝手知ったる最も有効な手段 -- 暴力でてっとり早く金を手に入れるしかない。果たしてライツは生活を立て直すことができるのか。それとも落ちていくだけなのか。いや、それにしてもマッコーラニー、本当にはまり役だ。








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ライツ・アウト   ★★★

 
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