Life


ライフ  (2017年4月)

数年前、火星で有機化合物が発見され、すわ地球外生命体の発見かとニューズになっていたことがあった。2年前、「オデッセイ (The Martian)」が公開された時は、今度は火星で水の痕跡も発見された。つい最近のニューズでは、土星の月には水素があり、生命の発生に必要な最小限の条件は揃っていると報道されていた。ドナルド・トランプとキム・ジョンウンの威張り合いによって地球が核戦争で滅亡する可能性が飛躍的に高まっている現在、スティーヴン・ホウキングが言うように、人類が滅亡せずに文明を継続させていくためには宇宙に出るしかないという説に賛同せざるを得ない。そういう時に少なくとも宇宙で生命が存続できる可能性が示唆されると、なにがしかの期待と安心が得られないこともないのだった。 

 

「ライフ」は、要するに別ヴァージョンの「エイリアン (Alien)」だ。宇宙船という密室の中で、敵意を持つエイリアンと人類の戦いを描く。 

 

最初の犠牲者となるロリに扮しているのが、「デッドプール (Deadpool)」で不死身の男に扮しているライアン・レイノルズというのが、なんとも皮肉というかおかしい。あちらでは殺そうとして手足がちょん切れてもにょきにょきまた生えてきて絶対死なないのに、こちらではよりにもよって最初の犠牲者だ。そのままにしていたら復活するんじゃないかという疑惑を捨てきれない。ある程度観客はレイノルズは死なないはずと思い込んでいるので、レイノルズがカルヴィンにやられても、これは裏があるんじゃないか、担ごうとしても簡単には騙されんぞと構えてしまう。作り手も観客がそう思うことを見越しての、意図的な順番に思えてしょうがない。 

 

2番目の犠牲者となる船長のエカテリーナは、船外で作業していてカルヴィンに襲われ、冷却システムの故障によりヘルメット内に液化した水分が溜まり、溺死する。これってSFミステリ心を刺激する設定だ。宇宙空間で窒息や水分がなくて死亡する事故っていうのはありそうだが、溺死するって、いったい誰が考えるか。 

 

さらに残る乗組員は、「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション(Mission: Impossible Rogue Nation)」でトム・クルーズを煙に巻いたレベッカ・ファーガソンは逆境に強そうだし、「サンシャイン2057 (Sunshine)」では宇宙船のキャプテンだった真田広之は、今回は降格人事か、実はジェイク・ジレンホールは「ミッション: 8ミニッツ (Source Code)」「プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂 (Prince of Persia: The Sands of Time)」では時間を越える荒業を見せていたから、こちらもしぶとく生き残りそうだ、と、最後まで残るのは誰かと想像を逞しくする。 

 

こういう風に楽しめ、なかなか面白い設定が可能なのも、カルヴィンが軟体ヒトデかタコみたいな生物だからだ。そのぐにょぐにょぷるぷるとした特性を活かして、船内の至る所に潜入潜伏する。しかしやっぱり、タコ型エイリアンってのは、基本なのだった。「メッセージ (Arrival)」でもエイリアンはタコ型だった。何本もある腕もしくは触手が、ものを作るという所作を可能にするように見えるからか。 

 

一方そのために、一見して「エイリアン」のエイリアンみたいな怖ろしさにはちょっと欠けるのも、また事実ではある。カルヴィンには凶暴さを際立たせる目、口、鼻、牙、よだれがない。第一、カルヴィンなんて名前からして怖くない。というか、名前のついているエイリアンが怖いわけはない。後半になると急激に成長して大きくなるので、それはそれで不気味でないこともないが、それよりもカルヴィンの怖さは、見かけよりも、どこにでもすり抜けて現れる神出鬼没ぶりにある。あっと思ったら後ろにいてこちらを狙っていた的な怖さだ。 

 

ホラーは見せ方が肝なので必ずしもその「もの」自体が怖そうとかおどろおどろしいとかいう必要はないが、カルヴィンの場合、たぶん出てくる時はほとんどがCGだ。しかも目も牙もほとんど見えず表情があるわけではないから、私や、たぶんタコを食べ慣れている日本人にとっては、カルヴィンは特に怖さを感じさせる造形ではない。ヒューを筆頭に宇宙船乗組員も、少なくともカルヴィンが小さい時は愛情すら感じている。 

 

が、もしかしたら内陸に住む欧米人にとっては、タコはもしかしたら生理的に受け入れ難いものなのかもしれない。あの吸盤とか何本もある手足とか、墨吐くとか、ぬめっとした感じとか、わりと怖い、あるいは気持ち悪いと思ってカルヴィンを見ていたことも考えられる。ウエルズ以来タコ型エイリアンが多いのは、その辺に由来してないかと考えてしまった。美味いんだけれども。 

 

話は変わるがこないだイタリア系の大型グローサリー・マーケット・チェーンで買い物したら、グリルしたタコを売っていた。もちろん世界各国から人が集まるニューヨークでは、タコだって買おうと思えば買える。日系を含めアジア系食品店で売っているし、クイーンズのギリシア系コミュニティのアストリアでは、レストランでお手軽な値段でタコが食える。しかしニュージャージーに引っ越してからはとんと足が遠のいて最近ではほとんどグリルしたタコは見たことがなかったので、陳列されているのを見た時には、衝動的に買ってしまった。 

 

レジで金払って出ようとしたら、キャッシャーの若い男の子が、そのタコを見て、It’s my favorite と言っていた。私も思わず、グリルされて売られているタコなんてスーパーではまず見ないからねと同意した。いずれにしても、白人の若い子だって、イタリアやギリシア等の地中海に面しているところから来てたら、タコだって見慣れてて食べる。とすると、「ライフ」の作り手はたぶん南欧に近いところの出身じゃないなと思ってチェックしてみると、スウェーデン出身のダニエル・エスピノーサだった。バルト海にはいかにもタコはいなさそうに見えるがと思って調べたところ、そんなことはなく、普通に生息しているみたいだ。でもきっとタコはエイリアンのように見えているはず。










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宇宙で火星からの土壌を研究しているデイヴィッド (ジェイク・ジレンホール)、ミランダ (レベッカ・ファーガソン)、ロリ (ライアン・レイノルズ)、ショー (真田広之)、ヒュー (アリヨン・バカレ)、エカテリーナ (オルガ・ディホヴィチナヤ) の6人の宇宙船乗組員が、有機物質の存在を確認する。様々な条件を与えた結果、その地球外生命体に反応が見られ、成長が確認される。その生命体はカルヴィンと名付けられるが、アクシデントで生命反応がなくなり、バイオロジストのヒューが懸命に蘇生処置を行った結果、今度は一気にヒトデ状の形に成長が加速、培養器の中でヒューの手を砕き培養器外に逃げ出す。さらにヒューに危害を加えようとしたため研究室にロリが入ってヒューを助け出すが、カルヴィンは今度はロリに取りつこうとしたため、ロリは研究室の中にカルヴィンと共に閉じ込められる。火炎放射でなんとかカルヴィンを仕留めようとするロリだったが、逆にカルヴィンの反撃にあって命を落とす。カルヴィンは宇宙船の中に逃げ潜み、地球外生命体の存在を確認する研究は、宇宙船乗組員の命を懸けたサヴァイヴァル・レースに変貌していた‥‥ 


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