Leverage  レヴァレッジ

放送局: TNT

プレミア放送日: 12/7/2008 (Sun) 22:00-23:00

製作: ジョンワールド、エレクトリック・エンタテインメント

製作総指揮: ディーン・デヴリン、ジョン・ロジャース

共同製作総指揮: マーク・ロスキン、キーリー・ピーク

製作: フィリップ・ゴールドファーブ

監督: ディーン・デヴリン

脚本: ジョン・ロジャース、クリス・ダウニー

出演: ティモシー・ハットン (ネイト・フォード)、ジーナ・ベルマン (ソフィー・デヴェロー)、クリスチャン・ケイン (エリオット・スペンサー)、ベス・リースグラフ (パーカー)、オルディス・ホッジ (アレック・ハーディソン)


物語: ネイトは腕利きの保険調査員として通っていたが、その自分自身の息子が病気になった時に当の保険会社から支払いを拒否され死亡して以来、仕事から足を洗っていた。ある時、航空企業の重役がネイトに接触している。自分とこの新型航空機開発デザインがライヴァル企業に盗まれた、それをとり返して欲しいというのだ。ネイトの過去を知った上で、業界の裏表を知り尽くしているネイトならできると判断しての仕事のオファーだった。当然企業秘密には大きな保険がかかっており、それを盗み出すことで保険会社に一泡吹かせてやることもできる。ネイトは一回限りで業界の裏側で暗躍していたその道のプロを揃え、計画を立てる‥‥


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USAチャンネルと並んでベイシック・ケーブル・チャンネルとしては最大手のTNTは、オリジナルのTV映画やミニシリーズ製作に関しては昔から定評があったが、実はオリジナルのシリーズ番組に関しては、特にこれといったものがなかった。数年前に「ブル (Bull)」でこのジャンルに乗り出すかと思ったら、次に製作放送したSFアクションの「ウィッチブレイド (Witchblade)」が、わりといい視聴率だったのにもかかわらず主演のヤンシー・バトラーがアルコール中毒になってリハブ入りしたために番組継続を断念、またドラマ製作から遠ざかった。


しかしネットワークと伍すためにはどうしてもシリーズ番組製作は避けて通れる道ではなく、3年前にまた改めて「ザ・クローザー (The Closer)」を編成、これは現在でも新エピソードが放送されさえすれば、だいたい常にケーブル視聴率1位になるヒット番組になった。これに気をよくしたTNTは、その後もホリー・ハンター主演の「セイヴィング・グレイス (Saving Grace)」を製作、さらに最近、スティーヴン・ボチコ製作の法廷ドラマ「レイジング・ザ・バー (Raising the Bar)」、「レヴァレッジ」、そして広告業界テーマの「トラスト・ミー (Trust Me)」等、新ドラマを矢継ぎ早に連発している。特に「クローザー」の大ヒットが、TNTがこの分野に注力するきっかけとなったに違いない。


もちろん成功作だけではなく、トリート・ウィリアムス主演の「ハートランド (Heartland)」、あるいは群像劇の「セイヴド (Saved)」なんてぽしゃった番組もあったわけだが、それでもネットワークと比較して、成功しているドラマ番組の方が圧倒的に多い。それにしても「ハートランド」といい「セイヴド」といい、医療ドラマが弱いのは何か理由があるのだろうか。TNTでは一時「ER」の再放送をこれでもかとばかりにやっており、人気もあって、だからこそ医療ドラマ製作に手を出したはずなんだが。


さて、そのドラマに力を入れているTNTが、特にこの数か月間の間に続け様に投入したのが、「レイジング・ザ・バー」、「レヴァレッジ」、「トラスト・ミー」の3本だ。「レイジング・ザ・バー」は、ボチコ得意の法廷もので、主演を「NYPDブルー」のマーク-ポール・ゴセラーと「マルコム・イン・ザ・ミドル」のジェイン・カツマレクが演じているが、私としては「NYPDブルー」も製作しているボチコにしてはちょっとぬるいかなと感じた。「トラスト・ミー」はLAが舞台の広告業界もので、エリック・マコーマックとトム・カヴァナーが主演している。AMCの「マッド・メン」によって、広告業界ものが注目されているのは間違いないようだ。


この中では、私にとってはこの「レヴァレッジ」が最も面白かった。主人公のネイト・フォードはかつて腕利きの保険調査員だったが、その彼が仕えている当の保険会社が、よりにもよってネイトの息子の医療保険の支払いを拒否する。その治療法がまだ試験的なもので、支払いの対象にならないというのだ。息子は死亡し、以来ネイトは仕事から足を洗う。


そのネイトに接触してきた者がいた。航空業界に勤めているその男ドゥヴェニッチは、ライヴァル企業に機密情報を盗まれたとして、それを盗み返して欲しいとネイトに訴える。業界から足を洗ったネイトだったが、この仕事をやることによって、かつて仕えていた保険業界に仕返しをしてやれると言われ、話に乗る。その男は何人かのその種の盗みのプロと既にコンタクトしていた。プライドの高い彼らは基本的に常に単独行動をとるが、ネイトはその元締めとしての統率を依頼される。


ネイトはプロのハッカーのハーディソン、肉体派のスペンサー、シーフのパーカーを従え、無事ライヴァル企業から機密を盗み出すことに成功する。しかしドゥヴェニッチからファイルは届いてないとクレームがつき、再度終結したメンバーは危うく爆死を免れる。すべてはドゥヴェニッチが仕組んだことだった。やられたままじゃ終わらないネイトおよびその一行は、ドゥヴェニッチに顔の知られていないソフィーを仲間に引き入れ、借りを返す作戦を練る‥‥


「レヴァレッジ」は、悪さをする登場人物を軽いタッチで描く、いわゆるケイパーものだ。悪さをするとはいってもそこはちゃんと視聴者が感情移入できるように、血も涙もない悪徳大企業から金を盗み出すという大義名分が用意されている。要するに現代版義賊、ロビン・フッドだ。それぞれがその分野では一流の悪漢どもは、しかし自分こそ世界でベストという自負があり、プライドが高く扱いにくい。


黒人ハッカーのハーディソンはお調子者だが、コンピュータを触らせたら右に出る者はない。考えるより先に手が出る武闘派のスペンサーは、銃を持っている者より危険だ。パーカーは幼い時に両親を爆死させてまで自分の好きなものを手に入れてきた。女優として舞台に立つソフィーは、その舞台の上では完全な大根だが、詐欺師として人を騙す段になると、どんな女優も顔負けの名演技を見せる。


ネイトはこういう一癖も二癖もあるメンツを束ねて統率をとっていかなければならない。それがなまじっかの作業ではないのはもちろんだ。最初はそれでもこれ一回限りの仕事だからと思っていたが、一仕事終わった後で、それぞれが力を合わせれば一人で仕事するよりも大きな儲けになることに気づいた面々が、ネイトにまたやらないかと持ちかけるのだった。


ネイトを演じるのがティモシー・ハットンで、実は彼以外の面々は私は名前を知らなかった。ハーディソンを演じるオルディス・ホッジは、コーエン兄弟の「レディキラーズ」に出ているそうだが、覚えてない。たぶんトム・ハンクスと仲間が洋上カジノを襲ったその辺に出ていたんじゃないかと思うんだが、既に記憶は定かではない。スペンサーを演じるクリスチャン・ケインも、うーん知らんなあと思ってTNTのホーム・ページの出演者解説のページで、「24」のヴィデオ・ゲームの中に悪役として出てくる、というのには笑ってしまった。プロのカントリー・シンガーでもあるそうだ。


パーカーを演じるベス・リースグラフも、ソフィーを演じるジーナ・ベルマンも知らなかったが、実はサブ・キャラの中ではしれっとしてどんなあくどいことも平気でするパーカーと、一見大根、しかし単純に人を騙すという段になると完全にその役になりきるソフィーは、共に印象に残る。パーカーは天然風、ソフィーは知的悪女っぽい乗りで、どちらかというと画一的な男性キャラより、こちらの方が新鮮に映る。


因みにプレミア・エピソードでゲスト出演している騙し騙され役のドゥヴェニッチに扮しているのはヴェテランのサウル・ルビネックで、あっちでもこっちでも見た記憶があるが、だいたいがレギュラーというよりTVにおけるゲスト出演であったりするので、どの番組のなんというエピソードに出ていたかというと返答に窮してしまう。いずれにしても、最初、彼が仕事の話をネイトに持ちかけた瞬間から、もうこいつが裏切るのは必至、ついでに言うと、その後で主人公たちからしっぺ返し食らうのも必至、それをどう見せるかがポイントという、いわばいかにもケイパーものらしい予定調和物語なんだが、結構よくできている。


だいたい、プレミアのエピソード・タイトルが「ザ・ナイジェリアン・ジョブ (The Nigerian Job)」というのからして人を食っている。「イタリアン・ジョブ」ではない。「ナイジェリアン・ジョブ」なのだ。最近ではナイジェリアというと、ほとんどがすぐナイジェリアの政府機構/企業の誰それという人間からのジャンク・メイルを連想すると思う。基本はあなたはナイジェリア政府発行の宝くじに当選した、ついては住所氏名性別電話番号E-メイル・アドレスを知らせてくれれば金を振り込む用意ができているというもので、なぜだか送り主の住所はほぼナイジェリア、たまに中国もある。大胆にも銀行口座番号を明記するように要請してくるメイルもある。今どきそんなのに引っかかる者がいるのかと思うが、しかしそれでもこの手のジャンク・メイルは月に数回はメイル・ボックスに入る。懲りないやつらだ。


プレミア・エピソードでは、ソフィーがそのナイジェリアの政府のお偉いさんを連れてドゥヴェニッチに面会に来る。もうその時点でこれはなんらかのやらせとわからせる、あるいは思わせるようにできている。果たしてドゥヴェニッチはどう出るか。あるいはそのドゥヴェニッチの出方も予想して、ネイトらはどういう計画を練ったのかという興味で引っ張る。番組の製作総指揮兼プレミアの演出を担当しているのは「インディペンデンス・デイ」、「ゴジラ」のディーン・デヴリンで、最近はノア・ワイリが現代版オタク・インディ・ジョーンズ的主人公に扮するTNTのTV映画シリーズ「ザ・ライブラリアン」等、仕事はほぼTVに絞っているようだ。


こういう軽めのケイパーものは、言うは易く行うは難しで、シリアスさとコメディのブレンドの度合いが難しく、成功するよりも失敗する確率の方が高い。最近この路線で最も成功しているのは、ライヴァル・チャンネルのUSAの「バーン・ノーティス (Burn Notice)」だろう。TNTがこの番組を横目で睨んで「レヴァレッジ」を製作したのはほぼ間違いない。現時点では「レヴァレッジ」はかなりいい線行っていると思うが、「クローザー」に匹敵する人気番組になれるかは乞うご期待というところだ。








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レヴァレッジ   ★★★

 
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