Last Chance Driving School   ラスト・チャンス・ドライヴィング・スクール

放送局: A&E

プレミア放送日: 4/14/2012 (Sat) 22:00-22:30-23:00

製作: A&E

製作総指揮: リチャード・ドリュウ

出演: スヴェン・ルパナー、マリア・ルパナー、ピーター・ハリソン、カルロス・ハータド、フランシス・コンポーラス


内容: クルマの運転に才能がない者が最後に訪れるクイーンズの運転教習所「クイーンズ・ドライヴィング・スクール (Queens Driving School)」の日々の事業に密着するリアリティ・ショウ。


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Last Chance Driving School


ラスト・チャンス・ドライヴィング・スクール   ★★1/2

私がアメリカに来た時、最も感心したことの一つに、プロのドライヴァーの運転技術の高さがある。別にF1ドライヴァーとかNASCARのドライヴァーというのではなく、普段から仕事としてクルマを運転している者の腕には、本当に驚かされた。


マンハッタンでは、ストリートにいきなり消防署があったりする。両脇をビルに囲まれ、広い車庫スペースをとれないため、大型の消防車を狭い車庫にぎりぎりで入れないといけない。しかもマンハッタンの一通の道とて、その間にも後ろに後から来たクルマがどんどん溜まる。交通の邪魔になっては元も子もないので、バックで大型車を一回の切り返しで確実に車庫入れする。右側も左側も壁まで30センチ以上の余裕はない。


あるいは、スーパーマーケットの積み荷ドックに、18輪の大型トラックを一発でバックでつける。トラックの後ろに目がついているのかと思うくらい、ぴたりとドックにつける。なんであんなことができるのかわからない。運転席からトラックの積み荷の後部まで、ゆうに20mはあるのだ。惚れ惚れして見とれてしまう。女性のドライヴァーだっている。私よりうまい。


これまでそういうシーンに何度も出くわしたが、すべて皆一発で車庫入れや所定の場所につけていた。こういうのを見ると、車体感覚というのは才能であって、練習して得るものではないなと思う。持っている者は最初から持っているし、持っていない者はどんなに練習しても体得できるものではない。いや、後天的に体得できないことはないだろうが、しかしそんなの、持っている者からしたら、なぜ練習しないといけないのかわけがわからないだろう。


一方で、こちらも驚いたことの一つに、下手くそなドライヴァーの運転技術の未熟さがある。なんでこんなんで運転しているんだ、お前もしかして無免かと思える者が、堂々と街中を走っている。よくNBCの「トゥナイト (Tonight)」で、何度切り換えしても駐車スペースにクルマを停めきれない未熟者のヴィデオを見せて笑い飛ばしたりするが、できる者とできない者の差は限りなく大きい。


また、あるいは技術云々ではなく、ドライヴァーのモラルの問題の場合もある。これは特にイエロー・キャブのドライヴァーに多いが、多少クルマを当てても平気なドライヴィングをするのだ。混雑するストリートで、当たっても平気、なんて運転をされると、どうしても平気ではない者が最後には引く。当たって車に傷がついて痛い思いをするのはこちらなのだ。これで割り込みを繰り返されると、怒り心頭に発する。渋滞時にマンハッタン、特にチャイナタウン辺りを運転していたら、そのうち頭の血管切れるんじゃないかと思うくらい腹が立つことになるので、その辺を運転することは絶対に避ける。


ある時、私が路上でクルマを停めようとしたら、たまたまその後ろにフェラーリが停まっていたことがあった。充分な余裕があったのでその前に停めたのだが、コンヴィニで買い物をしていたと思われるオーナーが、血相を変えて店から飛び出てきた。50cm以上余裕があったのだが、しかし、イエロー・キャブとかの運転を日頃から目にしている者なら、仰天するのもわかると思った。路上駐車する時、多少小突いたりこすったりしても、気にしない者の方が多いのだ。相手がフェラーリだからといって、たかが同じクルマとしか思ってないだろう。


つまり、超高等運転技術の持ち主も、自転車以上乗るべきではない未熟者も、意図的に接触しても構わないと考える小ずるい奴も、すべてが混在してクルマを運転しているのが、ニューヨークなのだ。個人的に言わせてもらえるなら、少なくともマンハッタン内ではあんまりクルマを運転したくはない。あそこはドライヴァーを雇うかイエロー・キャブに乗って、自分は後ろの座席でふんぞり返っているというのが、正しいクルマの乗り方だ。その金の余裕がないなら、マンハッタンの住人にはなれない。


また、フリーウェイが縦横に走っているアメリカでは、ところによってはフリーウェイの乗り降りがかなり難しい場所もある。特にニューヨークとかの都市部では、場所に余裕がないため、フリーウェイに乗るのに充分な加速レーンがとれず、ほとんどいきなり市道からフリーウェイ入りするところがあったりする。そういう場所に限って交通量が多い。


そういうところでは、一瞬の判断で行けるとふんだら、いきなりアクセルべた踏みで加速しないとうまく流れに乗れない。あるいはフリーウェイから降りる時に、別に特にスピード出していたわけでもないのに、ほとんど急制動という感じでブレーキ踏まないと曲がりきれないランプがあったりする。事故多し、スピード落とせという表示はあったりするのだが、それを見た時には時既に遅しだった者のクルマの残骸が、いつでも路上に散乱してたりする。クルマ社会のアメリカではあるが、特に、明らかにクルマを第一に考えて都市設計した西海岸に較べ、東海岸の特に都市部では、なんでこういう風に道が走っているのかわけがわからないというところも多いのだ。


とまあ、ニューヨークに住んでみてのクルマ雑感を諸所述べてみた。とにかくアメリカでクルマを運転してみると、日本と較べてドライヴァーのスキルや常識が大きく違うので、いまだに日々発見があったりする。今回A&Eが編成した「ラスト・チャンス・ドライヴィング・スクール」を見ると、自分のそういう体験を思い出して、そうそう、こんなやつ、いるいる、と記憶を新たにすることになる。


アメリカでは、自動車教習所には免許を与える資格はない。免許を獲得するためには、誰でも最終的には普通に公道で行われるお役所の路上試験を受けて、それに合格しなければならない。日本で免許を持っている者から見れば、落ちるわけがないと思われるくらい簡単な試験で、運転するクルマは持ち込みのため、もちろんオートマ車でかまわない。数分で終わる試験で、縦列駐車と方向転換が普通にできるならまず落ちない。あまりに簡単過ぎて、こんなに簡単に通すから世の中にはヘンなドライヴァーが増えるんだと思うくらいだ。一番難しいのは、指定された時間に、伝手を頼ってクルマを調達することだったりする。


それなのに、結構落ちるやつがいるのだ。「ラスト・チャンス・ドライヴィング・スクール」は、そういう者たちに教習を施し、なんとか試験にパスする手助けをする、ニューヨーク、アストリアのクイーンズ・ドライヴィング・スクールの日々の業務に密着する。


番組では毎回、数人をフィーチャーして、その横にインストラクターが乗り、指導しながら生徒がどんなに危なっかしい運転をしているかを記録する。見ていると、下手な奴は本当に下手なんだということがよくわかる。トラックの10分の1の大きさしかないクルマの車体感覚を、まるでつかめてない。


あるいは普通に加速してフリーウェイに乗ることが、どうしてもできない。確かにいる、こんなやつ。こちらがわざわざ前のクルマとの車間距離を開けて親切に間に入れてあげようとしても、加速するでもなく減速するでもなく、そろそろと前に進んでくる。加速するか停まるかどちらかにしろ、そのそろそろ運転が最も危険ということにとっとと気づけ! しかしもちろんその余裕がまったくないところが、下手くその下手くそなる所以だ。要するに、まったく周りが見えてない。


練習車の外部にカメラを取り付けて、その映像を見せるが、その車体ぎりぎりに、擦れ合わんばかりにして他車が横を走り抜ける。思わず、おおお、バカ、ステアリング切れ、停まれ、アクセル踏め、ブレーキ、当たる、と、TV画面見てて叫んでしまう。見ているだけでアドレナリン分泌しまくるのだが、それよりも間違いなく血圧上がるだろうと思えるのが、もちろんドライヴァーのすぐ隣りに乗っているインストラクターだ。


当然ながらこういうやつらに教習するインストラクターも、経営者のスヴェンを筆頭に皆曲者揃いだ。スヴェンはスキン・ヘッドの強面で、こんなのが横でサングラスかけて乗っていたら、逆に委縮して、しなくてもいいミスをしそうだ。奥さんのマリアは美人だが、スヴェンが可愛い女の子が来たりするとちやほやするのが気に入らない。ピートはウィレム・デフォーが歳とったらこんなんなりそうという面構えで、甲高い声で喚くので、これまた逆に事故りそうだ。その中ではスパニッシュ系のカルロスが最もまともに見えるが、彼だって優しいインストラクターという感じはまったくしない。


そういう曲者揃いに指導され、今日もそれに輪をかけた曲者揃いのド下手ドライヴァーが免許をとろうと必死に練習する‥‥ と言いたいところだが、本気で免許とろうと考えているなら、ハイ・ヒールなんか履いてくるなこのバカ女! と、こちらまで怒鳴りたくなるのだった。こういうのが路上で並走しているのかと考えると、本気で怖くなる。









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