Knowing


ノウイング  (2009年4月)

1959年コネティカット州。とある小学校では50年後に取り出すことを約束してタイム・カプセルを埋めようとしていた。奇矯な振る舞いをする女の子として知られていたルシンダは、タイム・カプセルに入れる紙に狂ったように数字を書きなぐっていた‥‥。50年後、物理学者のジョン (ニコラス・ケイジ) は、前年妻をホテル火災で亡くした痛手からまだ立ち直っていなかった。ジョンには耳の不自由な息子のカレブ (チャンドラー・カンタベリー) がおり、彼の通う学校でタイム・カプセルを開けるセレモニーが行われる。カレブが手にした紙には意味不明の数字が書き連ねてあったが、ジョンはひょんなことからそれらの数字が、地球上の至る所で起こった大規模災害の年と被害者数を正確に記してあることに気づく‥‥


___________________________________________________________


ニコラス・ケイジが結構オタク肌の俳優というのはよく知られているところであり、おかげでオスカー俳優のケイジが、わりとどう見てもB級としか思えないSFやホラーによく出ている。というか、それが基本で、たまに真面目な作品のオファーが来たらそれも考慮しているとしか思えないくらい、B級SF/ホラーへの出演が多い。


特に一昨年だか、「ウィッカーマン (The Wickerman)」、「ゴーストライダー (Ghost Rider)」、「ネクスト (Next)」とその種の作品が短期間に乱れ撃ちになった。B級ホラーのリメイクに出たり身体が燃えたままバイクにまたがって疾走したり未来を予知したりなんて作品が続いた時には、どうしたんだケイジ、と思わず目眩がした。それらはそれである種の興味を喚起しないでもないが、しかし、そんなのばかり出ることもあるまい。それ以前のケイジ出演作の内容の幅の広さを考えると、やはりB級SFばかりではもの足りない。


実は「ノウイング」もその種のB級SFホラーの印象が濃厚だった。よほど今回もパスかと思ったくらいだ。それでも見に行ったのは、特に他に見たいと思う作品がなかったからに他ならない。つまり、期待値は特に高くはなかった。というか、ほとんど期待なんかしてなかった。


それが、実は「ノウイング」はこの種の作品としては意外な掘り出しものである。むろん「ウィッカーマン」だって「ゴーストライダー」だって「ネクスト」だってTVで放送しているとつい見ちゃったりするし、それはそれで楽しんだりはするが、それらはやはり、ところどころ茶々を入れたり、これ、ヘンだと言いながら楽しむB級作品の楽しみ方だったりする。ところが「ノウイング」の場合、むろんこれだってかなり設定はB級色が濃く、A級とはやはり言い難いのだが、それでもかなり頑張っている。


「ノウイング」は、ある程度「ネクスト」を連想させる。「ネクスト」でケイジが扮するのは2分先の未来が見える予知能力者で、「ノウイング」では登場人物の一人が未来の大規模災害をことごとく予知する。しかしなによりも私にとって「ノウイング」が「ネクスト」を想起させるのは、ケイジと対峙するヒロインのキャスティングにある。


こういう奇想天外な設定をそれらしいリアリティで展開させるためには、なによりも地に足の着いた俳優を起用する必要がある。ケイジの場合は地に足が着くのとはほとんど逆の理由、地にも空にも属していない印象のためにこの種の作品に起用されるのだが、だからこそ彼と共演するヒロインには徹底して現実的な女優が求められる。「ネクスト」のジュリアン・ムーア、そして「ノウイング」でのローズ・バーンの起用は、まさしくそのために他ならない。


印象から言うとまったくSF向きではないムーアは、「フォーガットン (The Forgotten)」とか「ブラインドネス (Blindness)」とかの作品があるし、一方、FXのTVドラマ・シリーズ「ダメージ (Damages)」でグレン・クロースと渡り合ったいかにも地上派のバーンも、一方で「28週後... (28 Weeks Later)」「サンシャイン2057 (Sunshine)」みたいな作品もある。そういうキャスティングの仕方がまた「ネクスト」を連想させる。


実際、出番としては後半以降になるローズの出演はちゃんと功を奏している。彼女がこっち側で支えているからケイジのあっち側への暴走を食い止めたという印象が濃厚で、うまくバランスがとれている。それにしてもそういう作品に結構出ているケイジこそ本当に不思議派を代表する俳優だ。リアリティ色の強い作品に出るとなんかこの世のものじゃないような異次元の味を出すし、SFファンタジーに出るとオレが現実世界の代表みたいな顔をする。


「ノウイング」のそもそもの話の発端は50年前に遡る。奇矯な振る舞いをする女の子ルシンダがタイム・カプセルに埋めるために描き残したものは、未来を想像した絵ではなく、数字の羅列だった。結局その紙はタイム・カプセルに入れて埋められ、50年後の今の式典で掘り出され、その紙はカレブが手に入れ、父親の物理学者、ジョンが目にすることになる。むろんジョンを演じるのがケイジであるのは言うまでもない。


ジョンはひょんなことからそれらの数字が、世界中で起きた大規模災害が起きた日と犠牲者数を正確に言い当てていることに気づく。ただし時間的にはランダムに書き連ねられているこれらの数字の合間合間には、まだジョンが気づかない他の数字も記されていた。いったいその数字は今度は何を意味しているのか。そして事故の日付けと思われるある日は、今日だった‥‥


その残された意味不明の数字の意味にジョンが気づく一連のシークエンスと、続く事故の描写は、最近見たこの手の作品の中では最も印象的なシーンの一つになっている。CGでしか撮れず、実はこういったCGによる事故やアクションの描写にはむしろ不感症になりつつあるのだが、それでも、CGとわかっていても興奮させるめったにない例で、思わず手に汗握った。


むろんまともに考えると、未来の災害と犠牲者数を正確に予言するという設定はおかしい。というのも、大規模災害はそれが大規模になればなるほど、犠牲者数というのは微妙になっていくからだ。ある事故で怪我をすると、即死ではなく、何日、何週間、何か月か後に死亡するという例は当然出てくる。その期間が長くなればなるほど、事故が直接の死因かどうかの判断は曖昧になっていくことは言うまでもない。後遺症のせいで何年か後に死亡するという例だってあるだろう。それだって死因を挙げれば事故のせいと言える。


つまり事故や災害が大きなものであればあるほど、その本当の犠牲者数というものは正確な数字では現せなくなる。一般的に例えば9/11の犠牲者数は何人、サリン事件の犠牲者が何人、ブタ・インフルエンザの死亡者が何人なんていう数字が発表になっても、それはあくまでも便宜的なもので、それが本当に犠牲者の数を正確に現すものではないのだ。マスコミ発表の数字だって、出所によっては違う数字を載せていたりする。


だとすると、とたんにルシンダの書き記した数字の正当性があやふやになってくる。いったい、この数字の信憑性はどこに由来するものか。勝手に事故が起こって何日後までという期限を設けて犠牲者数を数えているのか。誰が、何のために。


実はそれはある者が彼らの視点から見た数字ともとらえることができ、そうだとすると実際作品を見るとその理由付けにも納得できたりもする。それでも私はその点がどうしても気になってしょうがなかったので、ちょっと一言言わせてもらった。たぶんこんな見方するとまた偏屈なこと言ってと疎んじがられるのは百も承知だが、しかし、それこそが作品の根幹の正当性を証明する最大のポイントではないのか。


とまあこうやって重箱の隅を突つくように気になる欠点を挙げることは、とりもなおさず作品のできが結構いいからに他ならない。だからこそ些細な点が気になってくる。さもなければ一笑に付して終わるところだ。ちゃんと小さなエピソードや展開の隅々にまで気を配って演出しているので、飽きずに最後まで見せる。ただし私としては、途中のニューヨークのサブウェイ事故は、やたらとスピード感を出そうとしたあの演出は失敗だったと思う。あそこはむしろサブウェイの動きが気持ち遅いくらいが重量感や焦燥感みたいのが出てよかったのではと思った。ただし一緒に見ていたうちの女房は、いや、あのスピード感がよかったと言っていたので、人それぞれだろう。演出は「アイ、ロボット (I, Robot)」のアレックス・プロヤス。


「ノウイング」は未来を予知する者がいるという点で「ネクスト」を連想させもし、原作のフィリップ・K・ディック繋がりでスティーヴン・スピルバーグの「マイノリティ・リポート (Minority Report)」も思い出させもするが、しかし最も印象が似ている他の作品というと、最近ではたぶんジム・キャリーが主演した「ナンバー23 (The Number 23)」以外ないと思う。あれもいわば世界の運命は予め決められているという予知もので、数字が重要なプロットになっていた。


そして数字が予め未来を予言しているというと、ミステリ好きなら島田荘司の「水晶のピラミッド」を思い起こさずにはいられまいと思う。ここで御手洗潔がこの手の数字の嘘ホント、あるいはこじつけ思い込みを徹底的に糾弾している件りを読んだことがある者なら、私が「ノウイング」に対して多少の突っ込みを入れたくなる気持ちをわかってくれるだろう。それでも、私は「ノウイング」は面白かったと言いたいのであるが。








< previous                                      HOME

 
inserted by FC2 system