Knight and Day


ナイト&デイ  (2010年7月)

妹の結婚式に出席するためと、ついでに父のクラシック・カーのチューンナップするため、必要な機材と共に空港についたジューン (キャメロン・ディアズ) は、しかし搭乗を断られる。すったもんだで好運にも搭乗が認められた機内はがら空きなだけでなく、しかも搭乗前に二度もぶつかったハンサムな男ロイ (トム・クルーズ) がいた。ロイに運命的なものを感じるジューンだったが、実はロイは政府から追われる身だった。ジューンがトイレにこもっている間にジューン以外の全乗客および搭乗員になりすました追っ手をやっつけたロイは、そのまま操縦桿を操って機を畑の中に着陸させる。果たしてロイは何者なのか‥‥


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トム・クルーズとキャメロン・ディアズが登場する予告編をTVで最初に見た時、あ、これが昨秋「ザ・ジェイ・レノ・ショウ (The Jay Leno Show)」が始まった時、ヴィデオ・ゲストとして一緒に出演したクルーズとディアズが撮影中だった作品かと合点が行った。昨秋、鳴り物入りで始まったわりにはすぐに尻すぼみとなり、アメリカ深夜TV界始まって以来の特大のごたごたで大揉めに揉めた挙げ句キャンセルされた「ジェイ・レノ」の、最初のヴィデオ・ゲストがクルーズとディアズだった。


彼らが出た「テン・アット・テン」コーナーは、ヴィデオ・ゲストの人間に10の質問をするというコーナーで、今イチだった番組の中でも1、2を争う面白くないコーナーだったが、ひとまずそれは置いておく。ただし、質問の子細はもう既に覚えていないが、こんなくだらない質問に答えさせられて、クルーズもディアズも内心辟易しているだろうに、それでも表面上はにこにこして、スターも大変だなと思ったことだけは覚えている。


それはともかく、そうか、クルーズとディアズか。この二人、これまで共演したことはなかったのか。あってもよさそうだが、考えると、二人がツー・ショットで並んでいるのを見るのはこれが初めてだ。でも、まあ、一応念のため、と二人のフィルモグラフィをチェックしていて、「バニラ・スカイ (Vanilla Sky)」で共演しているのを発見した時には驚いた。え、「バニラ・スカイ」にディアズが出てたっけ?


それで慌てて昔自分が書いた「バニラ・スカイ」の記録を読み直して、そういえばそうだった! と改めて合点がいった。その当時はなにかと話題のクルーズとペネロペ・クルスのことばかりが巷で騒がれていたのでなんとなく影が薄くなったディアズのことをすっかり忘れていたが、しかし、そうだった。思い出した。偏執狂的にクルーズにつきまとうディアズは、実はかなり好演していた。なんでまたすっかり忘れていたのか。よほど当時はニコール・キッドマンを捨てたクルーズと、クルスのことばかりに話題が集中していたと思われる。特にスターの私生活に興味があるわけではない私ですらその騒ぎに巻き込まれて、へえ、クルーズがクルスのためにキッドマン捨てたのか、ふーん、などと思っていたのだから、一般的な映画ファンなら推して知るべしといったところだろう。


ディアズといえば、やはりあのコケティッシュな魅力だろう。むろんコメディ路線だけでなく、わりとシリアス路線にも交互にという感じで出ており、最近も「運命のボタン (The Box)」、「私の中のあなた (My Sister’s Keeper)」なんてのがあった。とはいえそれらは興行的に成功したとは言えず、人が見たいのは、やはりコメディ系の方であるようだ。ジュリア・ロバーツをちょっと下品、というか庶民的にした辺りが人気の本質だろう。ロバーツも、シリアスものも悪くないが、人が思い出すロバーツの顔は、どうしてもあの大きな口をあけて笑っているロバーツ、あるいはその反動であの大きな眼をうるうるさせて泣いているロバーツの方であったりする。


一方クルーズは、これはまったく逆で、ほとんどコメディとは縁がない。ほとんど真面目なアクションもの一辺倒だ。それでかつてはハリウッドのドル箱スターだったわけだが、さすがに近年は昔ほど主演作品が稼がなくなってきた。一昨年の「トロピック・サンダー (Tropic Thunder)」での世をあっと言わせたまさかの怪演は、その辺も関係あるだろう。新しいことをやってみる必要に迫られたのだと思われる。さらに今年、MTVの「ムーヴィ・アウォーズ (Movie Awards)」でも同じハリウッド・プロデューサーという役柄で、今を時めく「トワイライト (Twilight)」のロバート・パッティンソン相手に説教するという寸劇をかましていた。殻を破ってやってみたら意外に面白かったというところだろうか。


「バニラ・スカイ」はそのシリアスなアクションものに主演しているクルーズに対し、ディアズが同様にシリアスな演技で客演したという体の作品だった。それが今回は、コメディ・タッチのアクション作品にクルーズとディアズが共演している。どちらかというとディアズの縄張りにクルーズが乗り込んでいったという印象を受けるが、それでもクルーズが主演という形だけは揺るがないところが、さすがにハリウッド・スターだと思わせる。


しかもTVで始まった予告編を見ると、それが結構面白そうなのだ。クルーズは、なにやら追われているスーパーエージェントで、たまたま移動中に出会ったディアズの協力が必要になったようで、ディアズの行く先々に出没してディアズを拉致しようとする。止めに入った男を銃で撃ってしまうのだが、それがちゃんとギャグになっていて、受けに回る男もうまいが、ほう、クルーズが本気でコメディ路線に挑戦していると、なかなか興味を抱かせる。果たしてクルーズはどこまでコメディに成功しているのか。


冒頭、ディアズ演じるジューンが、乗るはずだった飛行機に搭乗を拒否される。その飛行機には、搭乗までに2度ほど遭遇、というか衝突したロイ (クルーズ) が乗っていた。一度は諦めかけるが、しかし運よく搭乗を認められたジューンは、ロイとなにやら運命的なものを感じてしまう。しかし、実はロイは腕利きのスパイかなんかで、機中の全員を敵に回してやっつけただけでなく、ジェットを畑の真ん中に着陸させてしまう。あまりの展開についていけないジューンが次に目覚めたのは、実家の自分のベッドの中で、一瞬あれは夢だったのかと訝るジューンだが、しかしロイの手書きのメモが目に入る‥‥


という出だしは決して悪くない。いくらなんでもあり得るか、こんなの、という展開が、ディアズの大仰演技と、クルーズがこれまで演じてきた人間離れのエージェントの造型が意外にマッチして、楽しませてくれる。常識で考えて、ロイ一人を捕まえるのにわざわざ予約した飛行機のパイロットからフライト・アテンダント、乗客のすべてをエージェントで固めているというのがまずあり得ないだろうと思うし、そこまで念入りに一般人を除外した機内にただ一人ジューンが搭乗を許されるという展開が、さらにまた無理がある。


ではあるが、それがまた楽しいのも事実なのだ。この荒唐無稽さは、それこそ本気で金をかけてやってくれないとよけいアラが目立つと思うのだが、それを真面目に大仰にやってくれているおかげで、つい乗りに引き込まれる。ジューンは、役柄ではちょっと夢想癖のあるあわてんぼなのだが、確かにディアズにマッチしているし、スーパーエージェントのロイに扮するクルーズも、アクション・シーンでは言わずもがなだ。強いて言えば最初の大きなアクション・シークエンスであるこの機内でのシーンで、どう見てもCGの畑の着陸・爆発シーンを、模型との合成でもいいから実写にしてくれたらと思うのだが、それでもなかなかいいつかみだと思う。


その後も、楽しい夢物語と割り切って見れば、かなり面白く見れる。クルーズは本人がコメディ演技をしているというよりも、その辺はディアズに任せ、その受け、というか照射でにやりとさせる。これまでのシリアス一辺倒という印象があるから、なかなかそれが効いている。いつもながらその時で自分に一番合いそうな役を見つけてくる嗅覚は大したもの。


ディアズは、実はもう、そろそろこういったアクション系のロマンティック・コメディでコケティッシュな魅力を振りまくという点では限界に近づきつつあるのを、本来の持ち味とメイクでうまくごまかしている。最近見た記事では、ディアズの名はインターネットで最も危険、つまり、彼女の名で検索をかけるとウィルスに引っかかる可能性が最も高い女優であるそうだ。人気があるからこその著名税とでも言えるか。因みにディアズに次ぐ第2位に危険な女優がロバーツだそうで、さもありなんと思う。


他にもヴィオラ・デイヴィス、ピーター・サースガード、ポール・ダノなんて曲者が脇を固めており、見飽きない。デイヴィスは「ロウ・アバイディング・シティズン (Law Abiding Citizen)」に続いてCIAだかFBIだかの管理職役。貫禄がついた。サースガードもダノも、胡散臭い役をさせれば一級。演出のジェイムズ・マンゴールドは、「ウォーク・ザ・ライン (Walk the Line)」「3時10分、決断のとき (3:10 To Yuma)」など、近年なかなか印象的な仕事をしている。


しかし残念ながら「ナイト&デイ」は、クルーズ作品にしては特に当たることなく、現段階では既にほとんど劇場から姿を消している。いい加減、人がクルーズに飽き始めているのか、あるいは、他にも新しいアクション・スターが育ってきているから、人はそれらを見るのに忙しいのか。どちらもそれっぽい。そしてなによりもそういう人の嗜好を強烈に意識しているのが、クルーズ本人だろう。元々そういう嗅覚は人一倍すぐれていたからこそ、現在のクルーズがある。次はまた古巣に戻って「ミッション・インポッシブル4」が控えているそうだが、彼の本当の実力は、その次のコメディ「ザ・ハーディ・メン (The Hardy Men)」で試されることになると思う。









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