Justified   ジャスティファイド

放送局: FX

プレミア放送日: 3/16/2010 (Tue) 22:00-23:00

製作: ソニー・ピクチャーズTV、FX

製作総指揮: グレアム・ヨスト、エルモア・レナード、サラ・ティンバーマン、カール・ビヴァリー

製作: ドン・カート、ゲアリー・レノン

監督: マイケル・ディナー

脚本: グレアム・ヨスト

原作: エルモア・レナード

撮影: エドワード・ペイ

美術: チャーリー・ラゴラ

編集: ヴィクター・デュボワ、ビル・ジョンソン

出演: ティモシー・オリファント (レイラン・ギヴンス)、ニック・シアシー (アート・ムラー)、エリカ・タゼル (レイチェル・ブルック)、ジェイコブ・ピッツ (ティム・グッターソン)、ナタリー・ズィーア (ウィノナ・ホウキンス)、ジョーリー・カーター (エイヴァ・クロウダー)


物語: USマーシャルのレイランはマイアミで追っていた犯罪者を撃ち殺し、マスコミに格好のネタを提供、ほとぼりをさますため生まれ故郷のケンタッキーのハーランに配置替えで戻ってくる。そこではまだレイランが忘れきっているわけではない元妻のウィノナが、新しい夫と共に暮らしていた。一方、かつてレイランとティーンエイジャー時代に一緒に炭鉱で働いたことのあるボイドが、今では白人至上主義者として、殺しを含め悪行の限りを尽くしていた。ボイドの弟は家庭内暴力で妻のエイヴァに暴行を尽くした挙げ句、プッツンきたエイヴァに散弾銃で撃ち殺される。ボイドが弟の仇をとりにエイヴァの元に姿を現す確率は高く、そうなればボイドを現行犯で逮捕することもできる‥‥


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FXはベイシックのケーブル・チャンネルにおいて、一時最もとんがった、エッジィなオリジナル番組を連発しているという印象があった。今だって結構その印象が強いが、それでも、今最も注目されているオリジナル番組を擁するベイシック・ケーブル・チャンネルというと、TNTとUSAという最大手のケーブル・チャンネルを別にすると、「マッド・メン (Mad Men)」「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」を放送するAMCというのが大方の一致する意見だろう。


現在FXが放送しているオリジナル番組は、既にヴェテラン番組となった「レスキュー・ミー (Rescue Me)」を筆頭に、グレン・クローズ主演の「ダメージス (Damages)」、バイカー・ギャングを描く「サンズ・オブ・アナーキー (Sons of Anarchy)」、アニメーションの「アーチャー (Archer)」、コメディの「イッツ・オールウェイズ・サニー・イン・フィラデルフィア (It’s Always Sunny in Philadelphia)」と「ザ・リーグ (The League)」がある。


どれもそこそこ人気がありカルト受けしている。そういう路線を最初から狙っているだろうからそれはそれでいいんだろうが、それでも大きく一山当てたいという気持ちもないわけではなかろう。人気番組の一つだった「ニップ/タック (Nip/Tuck)」は、このほど特に大きな話題を提供することもなく最終回を迎えた。これが一時あれだけ話題を提供した番組かと思えるほど地味な終わり方だった。


そのFXが投入する最新の番組が、「ジャスティファイド」だ。最初聞いた時は、なんでも現代版西部劇という触れ込みで、「サンズ・オブ・アナーキー」的なヴァイオレンス・アクションを想像した。主演がHBOのこれまたヴァイオレントな西部劇「デッドウッド (Deadwood)」のティモシー・オリファントなのでなおさらだ。要するにこの路線を狙っているんだろう。エルモア・レナード原作の映像化ということを後から聞き、たぶんこの印象は当たらずとも遠からずという意を強くした。


実は「ジャスティファイド」は、レナード原作は原作でも、「3時10分、決断のとき (3: 10 to Yuma)」のような西部劇ではなく、どちらかというと「ゲット・ショーティ (Get Shorty)」や「アウト・オブ・サイト (Out of Sight)」のような、オフ・ビートのアクション・コメディによほど近い。それでもコメディではなく、やはりドラマなんだが、しかし「3時10分、決断のとき」か「アウト・オブ・サイト」かと訊かれれば、「アウト・オブ・サイト」だ。


オリファント演じる主人公レイランは、父親との軋轢やらなんやらのために故郷のケンタッキー州ハーランを捨て、マイアミでUSマーシャルとして働いていた。しかし、銃を抜く時は相手を倒す時という開拓時代そのままの生き方を実践するレイランは、まず相手を挑発して先に銃を抜かせ、それから自分が目も止まらぬ早業で銃を抜いて相手の息の根を止める。むろんそんなやり方が現代社会で通用するはずもなく、そのため問題となってハーランに送り返される。


オリファント演じるこのレイランが、これくらいないはまり役になっている。レイランはマイアミでもトレード・マークのカウボーイ・ハットを手放さないキャラクターで、要するに自分のポリシーというものを強力に持っている。今時カウボーイ・ハットにブーツという時代を無視したファッションなのだが、これが絵になっているのは、「デッドウッド」でカウボーイや保安官を研究した成果だろう。オリファントが鏡の前で、どのようにハットをかぶれば様になるのかと時間をかけて研究したことは賭けてもいい。実際、今時あれだけカウボーイ・ハットが似合う俳優というのはそうはいまい。番組第1回では、レイランの幼馴染みで今では筋金入り差別主義者と化したボイドがレイランを見て、これがUSマーシャルの着こなしなんだよと仲間に告げるシーンがあるが、実際私もそう思った。たぶん本物のマーシャルより本物っぽい。


番組冒頭ではマイアミの高級ホテルのような場所の屋上で、レイランが追いつめたギャングと一対一で差し向かいになり、相手を挑発する。相手が先に銃を抜くから撃ち殺しても正当防衛だ。つまり、この殺しは正当化 (ジャスティファイ) される。そして第1回の最後ではかつてのベスト・フレンドのボイドと、やはりテーブルを挟んで差し向かいになる。ボイドのところにもレイランの噂は入ってきているから、考える。こいつは本当にオレを撃つ気か。幼馴染みのこのオレを。それよりも何よりも、オレの銃はテーブルの上に出ている。やつの銃はホルスターの中だ。どう見てもオレの方が早く銃に触れる。それでもあいつはオレより早く撃てるというのか。その逡巡と興奮が顔に出る。一方、レイランは静かだ。本当にあいつの方がオレより早いか。もうこれは西部劇以外の何ものでもない。


しかし番組としての資質が最もよく出ているのは、巧まざるユーモアが滲む番組第2回の方にある。このエピソードでは、ほとんどおつとめを全うして刑務所から出所間近の囚人が、何を血迷ったか脱走する。どうしても今シャバにいないとまずい理由があるに違いない。レイランは彼に遭遇するが逆に縛り上げられて銃を盗まれる。男は昔盗んだ金を床下に隠していたが、そこが再開発されるという話を耳に挟む。今金を回収しないと二度と手に入らないかもしれない。さらに妻も別の男と一緒に住んでいる。これ以上待てなかったのだ。


などという切羽詰まったような状況なのだが、なぜだかその進行はゆったりというか、どこか間が抜けている。結局金は見つからず、さらに男は妻の新しいボーイフレンドに撃たれる羽目になる。そいつは金の行方に見当がついて一人占めしようと思ったのだ。ボーイフレンドは一時その家に住んでいたカップルに目星をつけ、その予想は当たっていたが、しかし既に目ざとく見つけられた金は使い込まれた後だった。ボーイフレンドはカップルを縛り上げるのだが、しかしそのカップルも自分たちの命が危ないというのにやはりなんか間が抜けていて、悠長に会話、というか、お互いのせいにし合っていたりする。


それで最後は男がカップルを縛り上げた現場にレイランが乗り込むのだが、丸腰 (の振り) で男と相対し、打開策を述べる。あんたが銃をオレに向けると、あんたは今現在ここを見張っているスナイパーによって撃たれて死ぬ。銃をカップルに向けると、やっぱり撃たれて死ぬ。それが嫌なら銃を捨てろ、なんてほとんど説得というよりギャグのようなセリフをかます。当然男も何抜かしているんだこのやろう、みたいな態度をとるのだが、実際に銃を構えたとたん撃たれて倒れる。その辺の呼吸がアクション半分、力を抜いたユーモア半分という感じで、いかにもレナードなのだ。この乗りは真似できるもんじゃない。


場所がケンタッキーのハーランというのが、また曲者だ。この地名を聞いてピンと来るのは、アメリカのTVや映画好きでもかなり癖のある方だろう。ハーランの炭鉱のストライキをとらえた1976年製作のドキュメンタリー「ハーラン・カウンティUSA (Harlan County USA)」は、クラシックとして今なお名高い。2000年にはホリー・ハンター主演でそのドキュドラマTV映画「アメリカン・ジャスティス (Harlan County War)」も製作されている。「ジャスティファイド」では、その炭鉱で昔、レイランとボイドが働いていたことになっているわけだ。


こういう癖のある番組は、見る者を選ぶと思われる。実際私は非常に楽しんだが、マスコミ評は誉める者と貶す者、結構二分されていた。貶す者の意見の大半は、眠くなるとしていたのがおかしかった。要するにこの悠揚迫らぬというか、ほとんどたるいに近いペースが、ややもすると見る者を眠くさせる。近年、このような癖のある番組で評価が分かれたというので思い出すのは、3年前のABCの「プッシング・デイジー (Pushing Daisies)」だ。あれも非常に癖があり、私は楽しんだが、特に人気番組になるには至らなかった。さて「ジャスティファイド」はどこまで行けるか。ケーブルのFX放送ということもあるし、エミー賞には絡まないとしても、3シーズンくらいなら持つと私は見る。








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ジャスティファイド   ★★★1/2

 
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