Jumper

ジャンパー  (2008年3月)

気が弱い少年デイヴィッドは、ある寒い冬の日に気に入ってた女の子ミリーにあげた土産物の玉をいじめっ子のマークに捨てられ、それを拾おうとして凍っていた川の上に入り、氷が割れて川に落ちる。もがくデイヴィッドは次の瞬間、図書館の中にいた。彼にはテレポーテイションの能力があったのだ。自分の力を悟ったデイヴィッドは故郷を捨て、ニューヨークに向かう。数年後、自分の力を縦横無尽に使って使い切れないほどの金を持ち、豪勢に暮らすデイヴィッド (ハイデン・クリステンセン) がいた。しかし、そういうテレポート能力を持つ者たちをなきものにしようと虎視眈々と狙っている男ローランド (サミュエル・L・ジャクソン) が、一歩一歩着実にデイヴィッドに迫っていた‥‥


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通常この手のSFアクションは、うちでは私一人が見て、女房はまず一緒にはついて来ない。「スター・ウォーズ」ですら別に興味なしと言い切る輩なのだ。当然今回も最初女房は、「ジャンパー」? ああ、あの「スター・ウォーズ」の彼が出ているSFね。どうぞ一人で見てきてと言っていた。それがいきなり態度を豹変させて私も行くと言い始めたのは、「ジャンパー」の共演がジェイミー・ベルであるということを私が彼女に教えたからに他ならない。


私だって最初は実は共演がベルだなんて気づいていなかった。あの予告編では実は主演が誰かすらほとんど気づかなかったりする。それが共演がベルということを知ったのは、たまたま「ジャンパー」の配給元であるFOXのライブラリ・チャンネルであるFMCで深夜にやっていた何回目かの「ダイ・ハード2」を見ていたところ、その後の空いた時間にこの「ジャンパー」の特集をやっていて、色々舞台裏を見せていたからだ。特にローマのコロシアムでの撮影は規制が厳しく、大変だったなんて話を見るとはなしに見ていたら、いきなりベルが出てきたので、なんだ、彼も出ていたのかということを女房に話したのだった。


そうしたらかなりの「リトル・ダンサー (Billy Elliot)」ファンであった女房は、即座に自分も見ると宣言した。あの生意気ビリーがどう成長したかは非常に気になるものと見える。ベルは「父親たちの星条旗 (Flags of Our Fathers)」にも出ていたのだが、その他大勢の中の一兵士に過ぎず、ヘルメットを被って顔もよく見えなかったから、ほとんど見た気がしない。


「ジャンパー」はテレポーテイション、すなわち瞬間移動能力を持つ主人公の話だ。このテレポーテイションという能力は、まともに考えるとタイム・マシン並みにその存在が疑わしいような気がするが、ワープという概念は科学的に検証されつつあるそうだから、もしかしたら完全にあり得ない話というのでもないのかもしれない。それはそれとして、その描写はさすがハリウッドの一線級のスペシャル・エフェクツで、うまいなあと思う。


「ジャンパー」と呼ばれるこの能力を持っている者は数は少ないながらも世界中に存在しており、しかも彼らを目の敵にして地球上から撲滅させようと企んでいる者すらいる。主人公のジャンパー、デイヴィッドを演じるのがハイデン・クリステンセン、彼の存在に気づき接触を図ってくるのが、ベル演じるグリフィンだ。デイヴィッドのラヴ・インテレストのミリーを演じているのが「ジ・O. C.」のレイチェル・ビルソン、デイヴィッドの母メアリをこないだ「ブラックサイト (Untraceable)」で見たばかりのダイアン・レインがカメオ的な出演で演じている。


ベルはいい顔をしていると思うが、主役をやるには身長があと数センチ足りない。彼がクリステンセンより背が高かったら、この配役はまったく逆になっていてもおかしくなかったと思う。思うにクリステンセンは、だいたい最初からある種の才能を持っており、労せずしてある地位や役得を手に入れるが、それから悩み始めるという役柄ばかりだ。主役を演じるという星の元に生まれついているんだろう。「スター・ウォーズ」だけでなく、彼が認められるきっかけとなった「ニュースの天才 (Shattered Glass)」からしてそうだった。たぶん「ジャンパー」がシリーズ化したとしたら、これから彼は自分の能力の意義について悩み始めるものと思う。


一方のベルは、苦労してアカデミー行きを手に入れる「リトル・ダンサー」からして努力の人だ。戦場にも送り込まれるにしては、誰も彼を見ていない。しかしそれよりもキャスティングという点で最も印象的なのが、デイヴィッドの敵ローランドをサミュエル・L・ジャクソンが演じていることにある。「スター・ウォーズ」で忠実な従僕として影となり日向となってクリステンセンを支えてきたジャクソンが、ここでは有無を言わさずクリステンセンをなき者にせんと挑みかかる男に扮しているのだ。


実は「スター・ウォーズ」でも本当はクリステンセンに含むものがあったのか。実際、あれではクリステンセン自身が道を誤って周りの者に迷惑をかけた、というどころか銀河全体に影響を及ぼしたからな。実はそのことをまだ根に持っていて、仕返しの機会を窺っていたのかもしれない。ジャクソンとクリステンセンの格闘シーンになると、ヘンにSFがかっていたりするものだから、今に二人ともライトセイバーを取り出して戦い始めるように気がしてしょうがなかった。


「ジャンパー」はオリジナルのアイディアというよりもかなり原作ものくさいと思っていたのだが、劇場から帰ってきて調べると、案の定スティーヴン・グールドによるシリーズが何作も出ていた。 それを「臨死 (The Invisible)」のデイヴィッド・ゴイヤーが脚色して、「Mr. & Mrs. スミス」のダグ・ライマンが演出している。なんとなく納得してしまう。


ライマンは「ジャンパー」続編を考えているようで、一応の興行成績の成功を考えるとそれもありだろう。それによるとジャンパーは今後、地球上の任意の場所だけではなく、宇宙空間のどこでも好きな場所、さらには時間を飛ぶことすらできるようになるという。しかもこの能力は修練によって習得可能になるそうで、デイヴィッドのガール・フレンドのミリーもジャンプできるようになるらしい。


ちょっとこの辺になると私の守備範囲を超えてしまうなと思うのだが、しかし、地球上のどこにでも好きな場所にジャンプできるなら、別にそれが月の上であっていけないわけもあるまい。距離的にはちょっと嵩むが、その距離という概念を一瞬にしてなくしてしまうものがワープ、テレポーテイションのはずだから、頭の中に思い浮かべることでそこにテレポートできるのなら、できない相談じゃなかろう。問題はその時彼らは呼吸はどうするのだろうか、あるいは宇宙空間上の温度差をどういう風に解決するのかという点だろう。あるいはこの銀河系のどこかにあってもおかしくはないという、生命が存在する (すなわち適度な気温と酸素と生活環境があって、英語をしゃべる宇宙人がいる) 別の星に飛ぶという風になるから、そういう問題は別に問題に値しないのだろうか。


また、そんな感じになってしまうと、それこそ話は「スター・ウォーズ」的なものにならないだろうか。クリステンセンとジャクソンというキャスティングには、最初からその含みがあったのかもしれないと思ってしまうのだった。さて、「ジャンパー」は「スター・ウォーズ」の捻った継承者となることができるのか。やがてわれわれは宇宙空間でライトセイバーを手に格闘するクリステンセンとジャクソンを見ることになるのかもしれない。それはそれで興味を惹かれないこともないなと思うのだった。







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