John Wick: Chapter 2


ジョン・ウィック: チャプター2  (2017年2月)

キアヌ・リーヴスが引退する殺し屋を演じた「ジョン・ウィック」はかなり好評だったと見えて、続編が作られた。実際に「チャプター2」は前作のストーリーの続きの形で始まる。あれはあれで終わったものだと思っていたが、確かに相手のボスと決着がついたわけではなかった。 

 

映画はいきなり、たぶんマンハッタンと思われる市街地のカー・チェイスで幕を開ける。なかなかエキサイティングでそれはそれでいいのだが、不思議なのが結社の根城となっているビルだ。 

 

話の展開上、あれはマンハッタンに建っているものという設定だろうが、ああいうビルは、マンハッタンにはない。一見23丁目のフラットアイアン・ビルを連想させ、実際そういう設定にしたかったのだと思うが、実現しなかったのだろう。 

 

おかげで前回見た時も、あのビルが現れた途端、あれ、いきなり舞台飛んだ? どこ、ここ、ロンドン? それともヨーロッパのどこかにある本拠地かと不思議に思った。かなりの部分をカナダのモントリオールをニューヨークに見立てて撮っているそうだから、このビルもモントリオールかもしれない。 

 

「ジョン・ウィック」は完全に視覚重視で組み立てているため、そういう場所の読めない展開はそこここにある。ある程度は仕方ないと思うが、かなり気になったのが、マンハッタンでのジョン・ウィックとジアンナのボディガード (コモン) とのアクションだ。 

 

ニューヨークのサブウェイを利用するアクションで、お隣りのニュージャージーとを繋ぐ近距離通勤線のPATHは、路線も距離も少なく、ニューヨーカー以外にはほとんど知られていない。乗ったことのないニューヨーカーも多いに違いない。そのPATHが、滅多にないことだがサブウェイ・アクションでフィーチャーされている。 

 

これはPATHのマンハッタン側の終点の一つが元世界貿易センター・ビルの地下であり、9/11で崩れ落ちたツイン・ビルの跡地に建設中だった商業施設ビルのオクルスが完成し、このほど営業を開始したことと踏まえてのものだろう。真っ白ないくつもの骨のような突端が天に向かって伸びるオクルスは、まるで恐竜の背の標本のようだ。中に入ると、巨大なあばらのようなパイプと屋根の形状のせいで、それこそ恐竜かなんかの中か、あるいはノアの方舟の中にいるような感覚を覚える。とにかくニューヨークの新たな名所の一つであることは間違いない。 

 

PATHターミナルはそのオクルスの地下にある。そこでリーヴス扮するジョンとコモンの死闘になる。セットには見えなかったから、たぶんまだ完成前の施設を借り切って撮ったんじゃないかと思う。考えたらリーヴスは、西海岸でも完成前のフリーウェイを利用して「スピード (Speed)」を撮ってたなと思い出す。それはともかく、その二人が睨み合っているPATHのホームに列車が滑り込んでくる。そこで乗客を吐き出す‥‥と思いきや、乗客共々サブウェイの中に乗り込んだリーヴスとコモンの戦いが続く。 

 

これは、本当にPATHを知っている者にとってはあり得ない展開だ。ワールド・トレード・センター駅はターミナル駅だ。終点だ。乗客はそこで皆降りる。それなのに映画では、ほぼ満員の乗客とリーヴスとコモンを乗せたままサブウェイは走り続ける。いったいどこへ? もう列車は今来たところを引き返すしかなく、ニュージャージーに戻ってしまうんですが。それなのにいつの間にやらリーヴスとコモンは、今度はPATHではなく、ニューヨークのサブウェイ・システムで死闘を続けている。いつの間にシステムごと乗り換えたんだ。 

 

オクルスを舞台にしたかったことはよくわかる。あそこは絵になる。しかし頭の中でニューヨークの地図を思い描きながら見ている者にとっては、これは結構苛立たしい。ピースが絵にならない。戦争ゲームのような陣取りゲームで地図がいい加減だったらゲームが成り立たないが、そのような気分を味わわせられる。 

 

もう一つこういうご都合主義的な展開と共に気になったのが、リーヴスのアクションだ。いまだ二枚目を維持しているとはいえ、よく見ると結構腹が出ている。そのせいか、アクション自体の切れが今一つと感じてしまうのは如何ともし難い。敵のアクションに対するリーヴスの反応が半呼吸遅いというアクションが幾つもある。一瞬、敵がリーヴスを待つのだ。純粋アクション・ファンなら、これは致命的な欠陥ではなかろうか。 

 

それでもこれが通ってしまうのは、アクションというより、型が絵になることを優先していることの証明だろう。場所がどこであるかということよりもその場所を背景とした絵を優先させ、時代錯誤的な個人所有の秘密結社と血判の契りが登場し、大見得を切ったアクションが展開する。しかしニューヨーカーの三人に一人は実は暗殺者だった的な乗りは、噴飯ものというよりも、確かに興奮させてくれる。最後なんかニューヨーカーの三人に一人が暗殺者どころか、ほぼ全員実は暗殺者だったみたいな展開だが、しかし、確かに絵として非常に楽しませてくれる。これはこれでありだな、と思わせてくれるのだ。 

 

ニューヨークのアンダーグラウンドを束ねるボスとして、ロウレンス・フィッシュバーンが登場するのも、これまた楽しい。「マトリックス (Matrix)」のネオとモーフィアスの再会だ。リーヴスっていつも一匹狼のようでいて、やっぱりフィッシュバーンには頭が上がらないんだよねえ。 



追記:

上でコンティネンタルを、「ああいうビルは、マンハッタンにはない」と言っているが、そんなことはなく、実はウォール・ストリートにあった。不明を恥じる。










< previous                                      HOME

暗殺者としての仕事から引退を表明したジョン・ウィック (キアヌ・リーヴス) に、どうしても仕事を頼みたい男サンチノ・ダントニオ (リカルド・スカマルシオ) が現れる。かつて秘密結社で兄弟の契りを交わしたジョンとサンチノにとって、たとえジョンが引退を表明しようとも、サンチノの頼みは断れないことを意味していた。ジョンはローマに飛び、サンチノの姉ジアンナ (クローディア・ジェリーニ) を殺す。しかしサンチノはすべてを完璧に終わらせるため、ジョンに懸賞金をかけてこの世から葬ろうとしていた。今や報酬欲しさにニューヨーク中の暗殺者がジョンの後を追っていた‥‥ 


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system