Jay and Silent Bob Strike Back

ジェイ・アンド・サイレント・ボブ・ストライク・バック  (2001年8月)

最近滅多なことではコメディ映画を見に行かなくなった。あれって一人で見に行く類いのものではないし、今さら女房連れでコメディ映画って歳でもない。それにコメディを見に行って面白くなくて、一度も笑えないばかりか不愉快な気持ちになって帰ってくるという経験を何度もやると、わざわざ金払って劇場にコメディを見に行く気なんかなくなる。


だからコメディを見に行く時は、少なくともジム・キャリーのように何らかの芸を見せてくれるか、ウッディ・アレンのように巧さを見せてくれるという理由でもない限り、まずもう劇場にまでは足を運ばない。時々、確かに「最終絶叫計画」のように能天気爆発のギャグ映画を見たいという気分にならないことはないが、それでも、すぐPPVかヴィデオになるからと思ってしまう。


だから、今回「ジェイ・アンド・サイレント・ボブ・ストライク・バック」を見に行ったのは、よほどの理由があるのかというと、実は別にそんなことはない。「クラークス」は、まあ、インディ映画としてはいい線行ってたし、ケヴィン・スミスがその後TVでこれをアニメーション化した「クラークス」も、絵柄を別にすればそんなに悪くなかった。しかし、だからといって私はスミスのファンというわけでもない。たまたま近くでやっている映画で、他に見たいと思うようなものがなく、それでたまにはコメディを見るのもいいかと思っただけだ。「ラッシュ・アワー2」か、「アメリカン・パイ2」でもよかったのだが、その中では、インディ映画出身のスミスが撮る「ジェイ・アンド・サイレント・ボブ」が最も癖があって面白そうに見えただけである。それにコメディとしては珍しく、結構誉めている媒体も多かった。


ニュージャージーの小さな町で大したこともなく日がな一日一日を送っているジェイ (ジェイソン・ミューズ) とサイレント・ボブ (ケヴィン・スミス) のコンビは、なんと自分らのキャラクターを無断で使用された映画がハリウッドで製作されるということを知る。二人はその企画を阻止すべく、ハリウッドに乗り込むことを決意、しかし車を持ってない二人は、ヒッチハイクで一路西を目指す。途中、女性強盗団の一味や彼女らを追うシェリフ (ウィル・フェレル) らとのごたごたに巻き込まれながらも、無事ハリウッドに到着するが‥‥


結局、やはりというか何というか、私はほとんど作品内では笑うことなく家路につくことになってしまった。やろうとしていることはわかるんだけどね。「クラークス」でミラマックスに発見されたスミスが、ミラマックスと映画製作システム自体をおちょくってやろうとした狙いはわかる。それにお色気ギャグを絡ませるというのは最近の流行りだし、人脈を使ってベン・アフレックやマット・デイモンを本人として起用、「グッドウィル・ハンティング2」を撮影している現場で、監督をしているのがガス・ヴァン・サントその人というオチは、この手の内輪ギャグが好きな人にはこたえられないだろう。


それでも、だから何なんだ? と思ってしまうすれっからしの映画ファンにとっては、そんなの、別にどうでもよいことでしかない。脇のウィル・フェレルも、「サタデイ・ナイト・ライヴ」の方が断然面白い。クリス・ロックも彼の一人舞台の方が笑える。ただ、女性強盗団に扮する面々は悪くなく、特にジェイと恋仲になるジャスティス役のシャノン・エリザベスは人のよい能天気な女の子といった感じが出ててよかった。この辺の絡みをもっとうまく使ったロード・ムーヴィ的なコメディにした方がよかったんじゃないかと思ったが、スミスがやりたいことがまったくそうじゃないんだからしょうがないか。


主演のジェイを演じるミューズは、「クラークス」以来一貫してこのキャラクターで、いい感じのあほう振りを見せている。しかしもう一方の主役も兼ねたスミスのサイレント・ボブは、「クラークス」では別に大した印象もなかったが、主演となる今回はミス・キャストということがはっきり露呈してしまっている。名前の通り唖という設定で、にもかかわらずどこかで一発喋りまくるギャグ・シーンがあるだろうというのは最初からわかっているわけだが、わりといい声をしているスミスに唖という設定を与えてしまう本人のセンスは上出来とは言い難い。別に「クラークス」のキャラクター設定にこだわり過ぎなくてもいいのに。その上、喋らないで表情や身振り手振りで演技をするにはあまりにも下手くそで、ギャグにもなってない。映画が始まって15分もしないうちに、私は自分の選択ミスを納得せざるを得なかった。出だしは悪くなかったんだけどなあ。


スミス作品では、いつもゲイに対する態度が問題となる。今回もゲイをおちょくったギャグが随所にあり、それがゲイの反感を買ったり喝采を呼んだりして結構話題になっていた。しかし私は、そういうのにももう飽きた。ショウタイムの「クイアー・アズ・フォーク」やHBOの「シックス・フィート・アンダー」を見た後では、別に今さらそういうギャグもないんじゃない、と思うんだが、こういうのがいまだにギャグとして通用するというのは、生理的にゲイが受け入れられない者がまだ多数いるということを証明しているんだろう。こういうゲイ・バッシングみたいなギャグとは反対に、私はスミスにはゲイ・フレンドリーな印象を受けるが。


実はこの映画を見に行って私が最も笑ったのが、映画が始まる前のペプシのコマーシャルだった。あの、よくバーとかパブにある、二人が対峙してかちゃかちゃ勝負をするサッカー・ゲームを真似したものだ。一本の棒に何人かの模型のサッカー選手がくくりつけられており、遊び手はその棒を右や左に動かしながら選手を回転させてボールを蹴ってゴールを狙うという、あの、ロウ・テクな奴だ。それを模型の代わりに本物の人間が演じ、ぐるぐる回転しながらプレイ台のそばに置いてあるペプシにボールを当てて落とそうとするというもので、こんなアイディアに結構な金をかけて大掛かりなセットを組んで真面目に撮ってしまうという、このくだらなさが爆笑ものだった。あまりのくだらなさに、私の前に座っていた奴は、大声でスクリーンに向かって「スチューピッド!」と叫んでおり、それがまた笑えた。まあ、とにかく一度は爆笑できたわけだからよしとするべきか‥‥やっぱり「ラッシュ・アワー2」か、「アメリカン・パイ2」にするべきだったかも知れない。 







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