Jason Bourne


ジェイソン・ボーン  (2016年8月)

マット・デイモン主演でひとまず区切りを迎えたジェイソン・ボーン三部作は、ジェレミー・レナー主演の「ボーン・レガシー (The Bourne Legacy)」によって、新しいシリーズが幕開けすると思われた。しかし当然その腹案はあっただろうと思われるシリーズ化は実現せず、本家帰りとなってデイモンによるジェイソン・ボーンが帰ってきた。この辺の経緯は調べればそこそこ興味深い事実が転がっているものと思うが、きりがないので敢えて目を瞑る。レナーは「アベンジャーズ (The Avengers)」シリーズにしてもボーンの後継者としても、今一つ成功したとは言い難い。


さて、デイモンによるボーン・シリーズの復活は、一ファンの目から見ると、まことに好もしいことではある。特にシリーズにおけるカー・アクションは、はっきり言って007「ミッション・インポッシブル (Mission Impossible)」を毎回凌ぐ出来栄えと言え、これを心待ちにしているファンは世界中に大勢いるだろう。むろん私もその一人であり、あのカー・アクションがまた見れると思うと、死んだとされていた者が実は生きていたというソープ的ご都合主義だったとしても許す。実際、ボーンは「ボーン・アルティメイタム (The Bourne Ultimatum)」の最後で無事脱出していたわけだから、さらに新しいシリーズが作られたとしてもまったく問題はないわけだ。


今回の「ジェイソン・ボーン」は、これまで「ボーン・xxx」として製作されてきた「ボーン」シリーズのタイトルが、「ジェイソン・ボーン」という彼個人の名前になった。要するに今回はボーンその人の過去、生い立ちの謎を描く。ボーンがアメリカ政府の秘密のミッションによって生まれた存在であることは前回描かれたわけだが、今回はそれからさらに遡って、彼に家族はいたのか、どういう経緯でミッションに参加することになったのかが明らかになる。


ギリシャの山間部でアンダーグラウンドの賭けボクサーとして生きているボーンだったが、いつまでもそういう生活を続けているわけにもいかない。一方ボーンがそういう流浪の生活をしていることを知っているCIAのパーソンズは、ボーンにすべてを教え、過去と訣別させることを画策する。しかしCIAのコンピュータのハッキングに成功したはいいが居場所を突き止められ、追われることになる。CIAではボーンに生きていられると困るデューイが部下のリーに調査の継続を命令、一方で暗殺者のアセットにもボーンの始末を命じる。デューイは国民すべてを監視下に置く計画を持っていたが、折りからの風潮で風当たりが強く、協力者だった天才的IT技術者のカロールは、怖じ気づいて計画から降りると言う。彼もそのままにしておくには危険だった‥‥


なるほど、ボーンの素性は「アルティメイタム」で明らかになったわけだが、しかしそれ以前のボーンの過去、生活、家族、素顔といったものはわからないままだった。今回はその全部が詳らかになるわけではないが、ボーンの父の存在や、ボーンがCIAのミッションに参加した経緯が明らかになる。


映画の冒頭で、ボーンがオレはすべてを思い出したというので、では謎はすべて解けたんだなと思っていたら、実はそんなことはなく、結構ボーンは色んなことを覚えていない。思い出したのはせいぜいミッションに参加した後からのようだ。だったら全部思い出したなんて言うな。


ボーンはギリシャでアンダーグラウンドの賭けボクサーとして糊口を凌いでおり、結構きつい状況であるのは確かだが、実際にスクリーンに登場すると、演じるマット・デイモンが現実に中年オヤジっぽくなっているのに驚く。格好よく言えば風格がついたとも言えるか。考えたら「アルイティメイタム」は既にほぼ10年前だ。イースト・リヴァーに落ちたボーンが、死なずに川面へと昇って行く幕切れをまだよく覚えているので、そんなに昔のことだとは思ってなかった。10年も流れボクサーをしていたら、そりゃ面相も変わるだろう。


今回CIAの親玉で悪役デューイを演じるのはトミー・リー・ジョーンズ。出てくる役者がほとんど全員微妙にミスキャストという、ある意味見どころの多い「クリミナル (Criminal)」では人情味のある医者役だったが、こちらでは血も涙もない冷血漢だ。彼の腹心の部下リーに扮するのは、今やキャリアのピークと言えるアリシア・ヴィカンダー。昨春の「エクス・マキナ (Ex Machina)」が公開されるまでは名前を聞いたことすらなかったのに、1年で事情は大きく変わる。


そして実は個人的には、サイド・ストーリーでITの天才カロールを演じるリズ・アーメッドも印象に残った。「ナイトクロウラー (Nightcrawler)」での貧乏くじ役も結構よかったが、今、HBOで放送されているミニシリーズ「ザ・ナイト・オブ (The Night of)」で、無罪か有罪かわからない獄中の人間を演じて非常に印象を残す。どちらかというと線の細い印象だった男が、拘置所の中で生き延びるためにどんどんマッチョ化していく。どんどん切れていった「タクシー・ドライバー (Taxi Driver)」のロバート・デ・ニーロを彷彿とさせると言ったら誉め過ぎだろうか。来年のエミー賞に関わってくるのはまず間違いない。


今回「ボーン」シリーズのお約束であるクライマックスのカー・アクションの舞台となるのは、ラス・ヴェガス。前半のギリシャでのオートバイ・アクションと合わせ、毎度カー・アクションを堪能させてくれる。ヴェガスのアクションでは、まるで地中から現れた怪獣がクルマを次々と薙ぎ倒していくという感じのアクションで、これまた手に汗握らせる。


ただしテンションの高さという点では、「アルティメイタム」でカー・アクションの後に場内で一斉に緊張から解放された観客のはあーっというどよめきが起きたほどではなかった。金のかけ方、派手さでは今回の方がさらにスケール・アップしていると思うのだが、「アルティメイタム」に軍配を上げたくなってしまうのはなぜか。


それでもやはりこのシリーズが楽しめる娯楽作であることには変わりなく、見終わった後に一緒に見ていた女房にさすがに面白いの作るなと言ったら、女房はぽつりと、寝ちゃった、と言った。信じられん。ボーン・シリーズほど最初から最後までアクション連打するシリーズはないというのに。緩急どころか急だらけで、私の意見ではどこにも寝てる暇なんかない。昨夜睡眠不足というわけでもない。次からはあんたはリクライニング・シートを倒さないでスクリーンを見ろ。










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ジェイソン・ボーン (マット・デイモン) は行方をくらませた後、アンダーグラウンドの賭けボクサーとしてギリシャにいた。CIAのニッキー・パーソンズ (ジュリア・スタイルズ) はアイスランドでボーンの過去の部外秘のファイルにアクセスし、ボーンと接触を図る。しかしCIAも彼らの行動に目を光らせていた。ロバート・デューイ (トミー・リー・ジョーンズ) は部下のヘザー・リー (アリシア・ヴィカンダー) にボーンを追わせる一方、一匹狼のアセット (ヴァンサン・カッセル) にもボーンを始末するよう命令する。さらにデューイは全国民を監視下に置く計画を進めていたが頓挫して、共同計画に携わったアーロン・カロール (リズ・アーメッド) は、デューイと袂を分かとうとしていた‥‥


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