Jack Ryan: Shadow Recruit


エージェント: ライアン  (2014年1月)

CIAを代表するエージェント、ジャック・ライアンをこの世に生み出したトム・クランシーは、昨年歿した。これまでに「レッド・オクトーバーを追え! (The Hunt For Red October)」でアレック・ボールドウィン、「パトリオット・ゲーム (Patriot Games)」、「今そこにある危機 (Clear and Present Danger)」でハリソン・フォード、「トータル・フィアーズ(The Sum of All Fears)」でそれぞれベン・アフレックがライアンを演じているが、やはり最も印象に残っているのは、中盤の2作に連続して出演したフォードのライアンではなかろうか。


その後のアフレックのライアンはなんだかほとんどスーパーヒーロー化してしまった。そのため原作の、大統領になって再選を果たすという路線を踏襲するなら、歳でアクションは無理っぽいハリソンがまたライアンに復帰する可能性もあるかもと想像していたが、クランシー物故の報を聞き、もうライアンものはこれで打ち止めかと思っていた。その矢先の「エージェント・ライアン」の公開だ。


冒頭、ロンドンで学生生活を送っているライアンがTVで目にするのは、2001年の9/11だ。そこでもう、あれっと思う。既に「トータル・フィアーズ」で映画は原作とは違うことを宣言していたわけだが、しかしライアンがここまで若返るとは、結構驚かされる。2001年に二十歳前後であるからには、このライアンが生まれたのは1980年前後だ。1990年代には既にヴェテラン・エージェントのフォードによるライアンが世界を股にかけて活躍していたのだから、ほとんどその息子の年代だ。どうやらプロデューサーが考えているのは、アメリカ版007としてのジャック・ライアンの確立らしい。


今回のライアンも元々は経済を専攻し、その知識を元に世界情勢を読み解くアナリストになったという基本的な設定は同じだ。そういう骨子の部分を変えてしまったらこれがライアンものである意味がなくなってしまうので、ここを不用意に触れないのはわからないではない。


一方、愛国心に燃える青二才に過ぎないライアンは、まだ愛する人も守るべき家庭もない。「パトリオット・ゲーム」では、メイン・プロットが家族共々狙われるライアンという点にあったのだが、今回ライアンのラヴ・インテレストとして登場するキラ・ナイトリーが、あのライアンの妻なのか。


実は「パトリオット・ゲーム」でライアンの妻は誰が演じていてなんという名前だったのか既に失念していて、調べてアン・アーチャーという名前を見て、やっと思い出した。役名もナイトリーが演じているキャシーにそのまま受け継がれている。ということはたぶんやがて娘も生まれるんだろう。それにしてもアーチャーは、見ている時に、出しゃばらない感じが目立っちゃいけないCIAエージェントの妻という感じがしてなかなかいいと思いながら見ていたことまで思い出したが、それでも忘れるもんなんだな。


と、ついでにさらに調べてみると、実は「レッド・オクトーバーを追え!」ではライアンの妻はアメリカ人女医のキャシーではなく、英国人キャロラインという設定で、演じているのは現在TNTの「フランクリン&バッシュ (Franklin & Bash)」に出演しているゲイツ・マクファデンだ。こちらに至っては本当にまったく覚えていなかった。いったいライアン以外はどれだけのキャラクターが同じ性格付けのレギュラーとして設定され、今後もまた登場してくるのかは現在では未定だが、主人公の妻ですら安牌でないとなると、そう多くはなさそうだ。


その中でレギュラーとして再度登場してくる可能性が最も高いのは、ケヴィン・コスナー扮するライアンの上司ハーパーだろう。007におけるM的な存在で、ライアンがハーパーの指令によって動く以上、二人は常に二人三脚で連絡を取り合っていなければならない。キャシーもレギュラーとしたいところだが、キャロラインの前例もあるし、いざとなれば離婚してまた別の人と結婚させればいいとプロデューサーは考えていることは間違いないので、次作でもナイトリーがキャシーとして出てくるかとなると、可能性は五分五分というところか。キャシーというキャラクターはそのままでも、ナイトリー以外の女優が起用される可能性も充分ある。そのナイトリー、映画ではこれがあのナイトリーかと思わせるほど痩せていて、どきりとさせられる。最初出てきた時は、彼女、知ってるけど誰だったっけと思わせ、ナイトリーと気づいた時には、拒食症かと思った。病気じゃないだろうな。


今回演出および悪役のヴィクターを演じているのがケネス・ブラナーで、「マイティ・ソー (Thor)」でハリウッド・アクションの演出もするのかと思ったら2作目の「マイティ・ソー: ダーク・ワールド (Thor: The Dark World)」にはタッチせず、一作目は好評だったはずなのになんで2作目には関係していないんだと思ったら、「エージェント・ライアン」があったからか。演技面でもTVの「刑事ヴァランダー (Wallander)」シリーズ以来役幅が広がったようで、東欧北欧系の役が板につくようになった。


ライアンはCIAエージェントであり、つまりはスパイと言える。それも内勤も内勤、その他のハリウッド版CIAエージェントが銃を片手にアクションに興じるのとはまったく異なり、ライアンはファイナンシャル・アナリストだ。本当ならアクションとはまったく無縁のはずだ。


さらに彼はCIAのヘッド・クオーターで働いているのではなく、名目上は一般企業で働いているスリーパーだ。その性質上、彼は一生その金融企業で、自分の身分を明かすことなく勤め上げる可能性が高い。スリーパーとはそういうものだろう。一生仮面を被りながら生活していくことなんて、到底不可能なことだと思うが、「エージェント・ライアン」では途中で既にキャシーには正体を明かしてしまう。せめて実際家庭の中くらいでは本当の自分でいたいと思うだろうから、ライアンの精神衛生上はその方が都合がいいとは思うが、しかしスリーパーの秘密が、家族内といえどもそう簡単に漏れてしまっていいのだろうか。しかも上司のハーパーはむしろ率先してそれを容認し、あまつさえキャシーをライアン共々危険な任務につけてしまう。


こないだ読んだ柳広司の「ジョーカー・ゲーム」では、スパイはこれはオレがしかできないものだという隠微なプライドを持つ者にしかできないという趣旨の記述があったが、昔は実際そうだったんじゃないかと思う。しかし近年は、美形女のロシア・スパイは率先してカメラの前に立ちたがるし、エドワード・スノウデンは自らCIAを告発してしまうし、ストイックであるはずのかつてのスパイという印象は昔のものになってしまった。


まあわりと昔から007はいたわけだしTVでは「スパイ大作戦 (Mission Impossible)」もあったわけだし、常にスパイが隠密の頭脳戦だけに従事していたわけだとは必ずしも限らないだろうが、しかし、デスクワーク中心のアナリストがモスクワまで行ってホテルさんざんぶち壊して街中で銃撃戦を起こす。時にアメリカが世界中で疎まれるのもわかる気がする。あんまりプーチンを刺激すると、まずいかもしれない。











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2001年、ロンドンに留学中のジャック・ライアン (クリス・パイン) は9/11の報に接し、勉学の道に進む気をなくし、軍隊入りを決意する。しかし中東で乗っていた機が撃墜され、命は助かったものの大怪我をして長期に渡るリハビリを余儀なくされる。その様子を観察していたCIAのハーパー (ケヴィン・コスナー) は、ライアンをCIAにスカウトする。経済に強く、金の動きから敵側が何を考えているか予測できるアナリストを欲していたのだ。数年後、普段はウォール街のアナリストとして働き、リハビリ中に彼の担当だった女医のキャシー (キラ・ナイトリー) と結婚していたライアンは、ロシアで不審な金の動きを発見する。何者かが株式を暴落させようと企んでいると確信したジャックは、モスクワに飛ぶ‥‥


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