昔から日本車の、特に小中型車の性能がいいのは広く世界中に知られている。とはいえそれは、どちらかというと速くて格好いいというよりも、比較的廉価で壊れずに走るという信頼性の方にポイントがあった。
しげの秀一の「頭文字D」を読んでいるので、トヨタのいわゆるハチロクが名車と目されているのも知っている。一方、私は東京に住んでいた時に、ハチロクの子分筋に当たるコルサに乗っていたことがある。壊れず走る信頼性の高いクルマということにはまったく同意するが、しかしハチロクが峠の走りでは下り専門であったように、コルサは、それにも増してパワーのなさは如何ともし難かった。
ある時、仲間たちと勢いで富士山にドライヴしようということになって、コルサを出したことがある。大の男4人乗って富士の5合目まで登ると、エンジンがもう息も絶え絶えというか、空気も薄く混合気がスカスカというか、アクセルを踏んでも踏んでも加速しない。もし富士の頂上まで道ができていたとしても、標高3,000m以上は登れないだろうと思った。もう一台のクルマがカムリだったので、両方を運転してみた後輩から私のコルサは、力ないですねーと言われ、ムカついたのを覚えている。しかし、実際力がなかった。
とはいえ、壊れなかったのは確かだ。スポーツ走行するわけではなく、クルマをステイタス・シンボルとも考えていない私の場合、クルマに求めるものはまず第一に壊れずに目的地まで連れて行ってくれることなので、やはり日本車を選ぶことになる。一度中古のジープのオーナーになったこともあるが、1年くらいであちこちに問題が出てきて結局スバルのステーション・ワゴンに乗り換え、今はトヨタのRav4に乗っている。
とまあ、私はラグジュアリー志向のクルマとはまったく無縁のクルマ体験を送ってきたが、ハチロクが今でも現役でマニア垂涎のクルマとして人気があるように、走るクルマとして、性能の面からも今でも人気のある過去の日本車は、他にもある。それも日本だけではない、アメリカにおいても人気があるのだ。
しかもアメリカでも筋金入りの日本車マニアは、アメリカで製作されたアメリカ仕様の日本車ではなく、日本産日本向け (JDM: Japanese Domestic Market) の純日本国産車を最上とする。このJDMカーがアメリカでも一定のニッチ・マーケットを形作っているのだ。「JDMレジェンズ」は、JDM専門のユタ州ソルトレイク・シティの同名ガレージ・ハウス、JDMレジェンズの仕事ぶりに密着する。JDMレジェンズが改造したクルマのナンバー・プレートには、漢字で「伝説」と書かれ、ガレージ内には星条旗と並んで日の丸も掲げられている。マジで日本車に入れ込んでいるのは確かなようだ。
番組第1回でフィーチャーされるのはダットサン240Z、つまり懐かしのニッサン・フェアレディZ、およびトヨタ・レビンだ。第2回ではニッサン・スカイライン、これまた懐かしの箱スカがフィーチャーされる。アメリカでHakosukaが固有名詞として通用する。ケンメリのニッサン・スカイラインが、Kenmeriとして通じる。マニアというものは洋の東西を問わないのだった。思わず♪愛と風のようにー♪というメロディが頭の中を駆け巡るが、この歌を知っている若いクルマ好きはどのくらいいるだろうか。さすがにJDMレジェンズの面々もこの歌までは知るまい。
一方、オリジナルの車体にこれだけ固執しても、やはり内部はかなり手を入れる。「頭文字D」でも、結局旧ハチロクのままでは現在のクルマには勝てないので、外観はそのままでも内部には手を入れるが、要するに同じことをする。エンジンとタイヤ、足回りは、さすがに結構手を入れないと今のクルマには対抗できない。そして羊の皮を被った狼になるのだ。それにしても、エンジンのチューンナップというよりまったく新しいエンジンに積み替えても、やはりフェアレディはフェアレディ、ハチロクはハチロクというのか。
また、外観は基本同じとはいっても、細部にはさり気なく手を入れる。例えば全体としては一見昔のフェアレディZではあるが、よく見ると足回りやエグゾーストは今風だ。それなのにリアのライトはオリジナルということにこだわったりする。実はその辺の、どこに手を入れてどれはオリジナルでないといけないという線引きがどこにあるのかは私にはよくわからなかったりするが、そういうのにこだわりがあるのこそをマニアというのは、よくわかる。それにしてもマニアの世界ってのは奥が深い。