It Follows


イット・フォローズ  (2015年3月)

本当はこの映画を見るつもりじゃなかったのだ。戦争アクションでなかなか評価の高い「71」を見に行くつもりでいた。ただしこの作品、ハリウッド映画ではなく、当然上映している劇場も限られており、近くでやってない。それで週末、いつもより時間の余裕を見てクルマを出した。


それなのに、走り始めてすぐ渋滞に引っかかる。現在、うちの近くの高架のフリーウェイは数年におよぶ大がかりな改修工事中で、現在はマンハッタン方面行きの上りを工事している。しかし私が使うはずの下りには影響ないはずだった。それなのに、その下りが、たぶん一時的なものだとは思うが通行止めになっており、そのせいで周りの一般道まで週末というのに混んでいる。


予定では早めに目的地に着いてついでにクルマにガスも入れておこうと思ったのに、これでは間に合わないどころかガスも持たない。じりじりとした歩みで、まだ目的地まで4分の1くらいしか達していなかったが、これはもう無理だと判断して、途中で諦める。Uターンしてガス・ステーションでガスを入れながらスマート・フォンで近くの劇場をチェックして、これならと思ったのが、「イット・フォローズ」なのだった。確か意外に評のよかったホラーで、それに公開初週なので多くの劇場でやっており、時間を合わせやすい。このままクルマを走らせてちょうどいい感じで劇場に着く。というわけで気になってはいたものの、特に見たいリストで上位にいるわけではなかった「イット・フォローズ」にする。たまにはこういうこともある。



正体の知れないナニモノかが誰かを歩いて追ってきて殺そうとする。そいつは追われている者にしか見えず、現れる度に別人の形をとる。追われたくなかったらその呪いを誰かにパスしなければならない。セックスをすることでその呪いは別人に受け継がれるが、呪いを受け継いだ者が餌食となって死んでしまうと、呪いはその前の呪いを受けた者にまた遡る。そのため、延々とセックスする相手を探し続けなければならないという状態も起こり得る。たぶん冒頭で死んだ女の子はヒューとセックスしてヒューから呪いを受け継いでしまったが、女の子が死んでしまったためにまた呪われたヒューが、今度はジェイに呪いを受け継がせようとした節が窺える。


ホラーに合理性を求めてもしょうがないものだが、しかしなぜ呪われるのかなぜそれが他人に移譲できるのか、なぜ呪われた人物だけにはそれが見えるようになるのか、それがなぜ見る度に別人の形をとるのか、関係ない人間にはなぜ見えないのか、そもそもの発端は何なのかという説明は一切ない。そしてむろん、だからこそ怖いとも言える。理由もなく襲われるから怖いのであって、理由がわかれば対策も立てられる。


近年、ホラーは一時流行った機敏に動く走るゾンビ的なものから、ゆらりゆらゆらゆっくりと、しかし着実にこちらに向かって迫ってくるものへと、怖がらせ方に本家帰り現象が起きている。すべてのホラーがそういう風になっているのではなく、機敏なゾンビも含めて怖がらせる間口が増えている。しかしやはり「イット・フォローズ」のようなゆっくりタイプが最も怖く感じるのは、こちらが勝手に想像力を膨らませてしまうからか。


また、ホラーが時代の雰囲気を反映するというのはよく言われていることで、そのため意図せずしてホラーは自戒、教訓的なものを内包している場合が往々にしてある。とすると「イット・フォローズ」の場合、教訓は呪いをばら撒いてしまうフリー・セックスはいけないということになるのだろうか。あまりにも登場人物が普通に当たり前にセックスするので、というかセックスを媒介する呪いということで、セックスが呪いを誰かに移すための手段にしかならないので、登場人物が誰彼構わずセックスしても、そこに悪いことをしているという意識は感じられないし、ほとんどエロティシズムも感じられない。この呪いの最終目的はいったい何か。それにしてもいったいいつ誰がどこでこの呪いがセックスを媒介とするものだと気づいたのだろうか。


「イット・フォローズ」は、アメリカの学生の普段の生活を垣間見る点でもなかなか興をそそる。見たところ彼らは一軒家にルームメイトと共同で住んでいる。会話から察するにジェイとポール、ケリーは幼馴染みであり、ポールはジェイに密かに恋心を抱いている。幼馴染みが同じ大学か少なくとも近いところに通って共同生活している。日本だってあり得ない話ではないかもしれないが、しかしマンションやアパートでの共同生活ではなく、一軒家を借りて夏は裏庭の簡易プールでぷかぷか浮いて水遊びしているというシチュエイションは、日本ではあまりないだろう。


場所が特定されないので、彼らが訪れる砂浜沿いの家から海沿いの町かとカン違いしそうだが、調べてみるとこれは内陸部のミシガンの話で、要するに海ではなく湖なのだが、水平線が見えるほど大きいので、一瞬海かと思ってしまう。東海岸にせよ西海岸にせよ、海沿いだと太陽燦々というイメージなのだが、五大湖と知った途端に突然陽が陰るイメージになってしまうのが不思議。あの辺は冬寒そうだし、デトロイトって不況ってイメージ強いし。実際最初の方でジェイとヒューがカー・セックスし、ジェイが椅子に縛られるている所なんて、廃墟という言葉がぴったりだ。やっぱりこの呪いは、ミシガン、デトロイトという閉じられた町、出口のない不況が関係している気がする。










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学生のジェイ (マイカ・モンロー) は新しいボーイフレンドのヒュー (ジェイク・ウェアリー) とカー・セックスをした後、クロロフォルムを嗅がされ、気付いた時、人里離れた廃墟で車椅子に縛りつけられていた。ヒューはジェイに、これまで自分の後を追ってきたモノをジェイに転嫁した、ナニモノかは人間の形をしているがそれは呪われた者にしか見えず、必ず歩いて向かってくる。捕まったら殺される。それが嫌なら誰か他の者とセックスして呪いを次の者に転嫁しなければならないと告げる。最初は半信半疑だったジェイだが、しかし授業中、中庭を老婆がゆっくりとこちらを目指して歩いてくるのを目撃する。しかもその老婆はジェイにしか見えないのだった。ルームメイトのポールと彼の妹のケリー、友人のヤラ、そして向かいの家に住んでいるグレッグらは共同でヒューの家を突き止めるが、対応策はないことを確認しただけだった。グレッグはジェイに銃の撃ち方を教え、浜辺でひと時を過ごすが、そこにもナニモノかは現れ、ジェイに向かって歩いてくる‥‥


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