Isle of Dogs


犬ヶ島  (2018年4月)

まったくもって唖然と言うしかない。いったい、何がどうなるから遠く離れた島国日本の、それも一見しただけではいつの時代かわからない世界に生きるイヌを主人公に、しかもそれをストップ・モーション・アニメーションで撮ろうなんて発想が思い浮かぶのか。もちろん、それをやったのはウェス・アンダーソンだ。そんなこと考えるの、彼しかいない。 

 

かつて「ファンタスティック・ミスター・フォックス (Fantastic Mr. Fox)」でキツネを主人公にストップ・モーション・アニメーションを撮ったアンダーソンは、イヌ派だと思われる。いずれにしても、ストップ・モーション・アニメーションなんてアニメーションのジャンルでもマイナーなカテゴリーで、さらに人間ではなく動物を主人公にしてしまう。あるいは、そういうジャンルだからこそ動物が主人公であるという必然があるようにも感じられる。 

 

ふと滅多にないことだが気が向いて、メイキング映像を見てみたら、600人以上のスタッフが4年の歳月をかけて完成させたとあった。一匹一匹一人一人、何体ものフィギュアを作成し、一コマずつ撮影していく。と、こう書いているだけで気が遠くなりそうだ。それなのに実際にスクリーンに現れるのは一瞬だ。 

 

アンダーソン自身は、日本語は解さないと言っていた。それなのに画面の隅々にまで横溢しているこの日本語テイスト、ギャグ、シャレ、引用の数々にも非常に感心する。日本語のスーパーヴァイザーもまた徹底して、苦しい思いをしながらも楽しんで製作に参加したに違いない。このジャンルはマゾ的嗜好がないと到底やっていけそうもない。 

 

出演者ではエドワード・ノートン、ビル・マーレイ、ティルダ・スウィントンといったレギュラーに加え、今回初登場初主演を担うのは、ブライアン・クランストンだ。彼もそうだが同じく初お目見えのリーヴ・シュレイバーは、さらにイヌ顔をしている。 

 

人間側の主人公のアタリ少年を吹き替えているコーユー・ランキンは、母が日本人だそうだ。とはいっても父はスコットランド系の白人だそうだから、必ずしも日本語を喋れるとは限らない。私の従兄弟も母が日本人、父はアイリッシュ系アメリカ人だが、日本語はまったくいけない。ランキンも意図的というよりは天然の不思議なイントネーションの日本語を喋るが、それをアンダーソンが痛く気に入っていたというのは頷ける。彼の日本語のリズムは耳に残るのだ。映画を見てうちに帰ってきてから、私と女房の間で、ほら、これ、ビスケト、ビスケト、と言ってお菓子を食べる内輪ギャグがしばらく流行った。 

 

ヨーコ・オノがアシスタントのヨーコ・オノという役で参加しているのだが、ここまでしているのに日本語吹き替え版で日本語を喋っているのは、ヨーコ・オノ本人ではない。日本で行う吹き替えにわざわざヨーコ・オノを呼ぶだけの余裕がなかったようだ。とはいえ本気でやろうと思えば手はいくつもあったはず。あるいは単にギャラや契約の問題か。しかしここまで細部まで凝っているんだから、是非ここはヨーコ・オノ本人に両方吹き替えてもらいたかった。 

 

大いに楽しませてくれる作品だが、一つ不満というか疑問点を挙げるとすると、ここまで日本的にしていながら、主人公イヌは日本イヌではないということがある。元々スポッツはアタリ少年の番犬として飼われた。それならやはり、イヌはテリアのようなイヌではなく、秋田犬か土佐犬、一歩譲っても柴犬にしてもらいたかった。確かに秋田犬や土佐犬だと、他のイヌと比較して大き過ぎ、絵として収まりにくかったというのはあるかもしれないけれど。


あるいは、もしかしたら主人公イヌが日本イヌでないのは、意図的なものかもしれない。案外、テクノロジーやクルマで社会を席巻されているアメリカや西洋社会が、捲土重来を期して日本に送り込んだのが、イヌなのかもしれない。そう考えると、登場するイヌたちがどうやらすべて外来種なのも納得できる。そのイヌたちが、ドッグ病の蔓延によって隔離され、そのイヌたちを助けに次世代の日本の少年が立ち上がる。どうやら「犬ケ島」には深遠な企みが隠されているようだ。











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今から20年後の日本。メガ崎市ではドッグ病が蔓延し、人間への感染を恐れた小林市長 (野村訓市) が、すべての犬を“犬ヶ島”に追放すると宣言する。 

数か月後、犬ヶ島では、怒りと悲しみと空腹を抱えた犬たちがさまよっていた。その中に、ひときわ大きな5匹のグループがいる。かつては快適な家の中で飼われていたレックス (エドワード・ノートン)、22本のドッグフードのCMに出演したキング (ボブ・バラバン)、高校野球で最強チームのマスコットだったボス (ビル・マーレイ)、健康管理に気を使ってくれる飼い主の愛犬だったデューク (ジェフ・ゴールドブラム) だ。そんな元ペットの4匹に、強く生きろと喝を入れるのが、ノラ犬だったチーフ (ブライアン・クランストン) だ。 

ある時、一人の少年が小型飛行機で島に降り立つ。彼の名はアタリ (コーユー・ランキン) 、護衛犬だったスポッツ (リーブ・シュレイバー) を捜しに来た小林市長の養子だ。事故で両親を亡くしてひとりぼっちになり、遠縁の小林市長に引き取られた12歳のアタリにとって、スポッツだけが心を許せる親友だった。 

スポッツは鍵のかかったオリから出られずに死んでしまったと思われたが、それは“犬”違いだった。何としてもスポッツを救い出すと決意するアタリに感動したレックスは、伝説の予言犬ジュピター (F・マーリー・エイブラハム) とオラクル (ティルダ・スウィントン) を訪ねて、教えを請おうと提案する。 

一方、メガ崎市では、小林政権を批判し、ドッグ病の治療薬を研究していた渡辺教授 (伊藤晃) が軟禁される。メガ崎高校新聞部のヒロシ編集員 (村上虹郎) と留学生のウォーカー (グレタ・ガーウィグ) は、背後に潜む陰謀をかぎつけ調査を始める。 

アタリと5匹は、予言犬の「旅を続けよ」という言葉に従うが、思わぬアクシデントから、アタリとチーフが仲間からはぐれてしまう。少しずつ心を通い合わせ始める一人と一匹に、さらなる冒険が待っていた─。 


(以上、日本語オフィシャル・サイトから転用) 


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