放送局: AMC

プレミア放送日: 6/16/2004 (wed) 22:00-22:30

製作: アクシャル・エンタテインメント

製作総指揮: リアズ・パテル、ヴラド・ウォリネッツ

製作: デイヴィッド・ガーフィールド

クリエイター/監督: リアズ・パテル


内容: 一般市民に映画の中の主人公と同じような行動をとらせ、それをフィルムに収める。


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American Movie ClassicsことAMCは、読んで字の如くハリウッドのクラシック映画専門のチャンネルである。しかし、後発のTCM (Turner Classic Movies) やFMC (Fox Movie Channel) に圧され、最近はあまり元気がない。


それもそのはずで、この種のチャンネルは、放映権を持つ作品のストックの量がチャンネルが成功するかどうかの分かれ目になるはずだが、いかんせん独立系のチャンネルであるAMCは、その絶対量が不足している。チャンネルが発足した当初こそ、こんなチャンネルを待っていたと誰からも歓迎されていたのだが、しばらくすると誰も大して誉めなくなった。


そうこうしているうちに、映画スタジオ最大手のWBを親会社に持つTCM、FOXが後ろにそびえているFMCなんてチャンネルがサーヴィスを始めると、もうダメである。これらの膨大な過去のライブラリ作品を持ち、毎日異なる作品を余裕で編成できるメイジャー・スタジオ系のチャンネルの前では、AMCなんて霞んでしまった。


実際、AMCは再放送が多く、このチャンネルをわりと真面目に追っていると、数か月もしないうちにあれも見た、これも見たなんて作品ばっかりが編成されるので、飽きてくる。とはいえAMCには打開策はない。それでとった手段が、それまではノー・カット、コマーシャル・フリー一挙放送だったはずのAMC編成番組にコマーシャルを入れ、スポンサーをつけるという窮余の一策だった。


さらに、クラシック映画専門チャンネルだったはずが、最近では平気で80年代、90年代の作品まで編成するようになってきた。これって、看板に偽りありと言うんじゃなかろうか。AMCとしては、視聴者がどんどん減っているから、それくらいしないとやばいと踏んだのだろう。しかし、それだと一時凌ぎにはなっても、視聴者はどんどん離れていってしまうだけなんじゃないだろうか。


ま、当然そんなことはAMCも考えているわけで、最近では、放映できるクラシック映画の放映権が手に入らないのなら、それに関係するオリジナル番組を自分たちで作ってしまえという発想に傾いてきた。言わせてもらえるならば、それのどこがクラシック作品であるのかということになるが、そうも言ってられないのだろう。もうほとんどミュージック・ヴィデオなんて放送してないくせに、いまだにMusic Televisionなんて看板を掲げているMTVという例もある。


「イントゥ・キャラクター」は、そのAMCの製作する最新のオリジナル番組だ。一般視聴者を、その人が愛する映画の主人公に同化させ、その人を主人公にして、オリジナルそっくりの映画をもう一本撮ってみようという、映画ファンならちょっと心ときめくアイディアを実現した番組なのだ。


例えば、「ロッキー」なら、あのファンファーレに乗せて華麗なボクシングのステップを踏んでみたことのないファンなんていないはずだし、「ダーティ・ダンシング」に合わせて踊ってみたことのないファンはいないだろうし、「カラテ・キッド」の真似事をしてみたことのないガキはアメリカにはほとんどいないと思われるし、ジョン・ベルーシとダン・エイクロイドのように、黒スーツ黒メガネでキメてみようとしたことのない「ブルース・ブラザーズ」ファンはいないだろう。


「イントゥ・キャラクター」は、それをさらに推し進めて、それを真似事ではなく、本物にしてみようという試みだ。もちろんオリジナルがあるから、それは畢竟真似事でしかないのであるが、しかし、いつもただ映画の主人公の真似をしているのと、実際に主人公になりきって、そのシーンを再現してみるのとでは、天と地の差がある。その瞬間から人はただの一介のファンから、物語を生きる主人公へと変貌するのだ。なかなか面白そうな企画である。


その番組第1回の「ロッキー」編は、この映画を愛してやまぬ青年、ネイト・ルービンに白羽の矢が当たる。当然、彼は映画ではシルヴェスタ・スタローンが演じたロッキー・バルボアことロッキーを演じるわけだが、この番組は、いかにしてロッキーを演じるかを教えるための演技教室ではない。ロッキーになるための番組なのだ。すなわち、彼がやることは、ロッキー同様ボクシング・ジムに通い、身体を作り、ボクシングを学ぶことなのだ。現在ニューヨークに住むネイトは、ブルックリンの歴史あるジムで、数週間、徹底的にしごかれる。


とはいえ彼は、生まれてこの方、ボクシングをやったことなど一度もない。どう見てもひょろひょろの青二才といった感じで、こんなんでロッキーになれるんかいなという気はしないでもない。パンチング・バッグを叩くと、これがボクサーなら、あるいはスタローンでも、一応パンパンパンパンとリズミカルに行くが、ネイトがやると、一度バッグを叩いてそれがすぐに戻ってくる2回目には、もう空振りになってしまう。シャドウのパンチはどう見ても腰が入っているとは言い難く、これじゃ本気のボクシングでは相手は倒れるまい。


とはいえ、そんなネイトに対しての付け焼き刃の練習でも、一応2週間で、それなりに様にはなってくる。ちゃんとプロが教えているわけだし、それ以外にもトレイナーがついて、早朝から筋トレからなにから、基礎体力の増強を図る。たった2週間でも効果はかなり上がるようで、最初と最後では、シャドウのフォームもかなり変化を遂げる。要はやはり本人のやる気次第なのだ。


番組では、そんなネイトのために、映画ではタリア・シャイアが演じたエイドリアン役まで準備する。とはいえ、ネイトの女性の好みまではわからないために、エイドリアン役の子を3人用意し、3人それぞれとデイトしたりなんかしている。ちょっとこの辺、番組の趣旨が曖昧でよくわからないぞ。ある子とは食事をし、ある子とはなぜだかカメと一緒に遊んでたりする。最初わけがわからなかったが、そういえばエイドリアンは、確かペット・ショップで働いていたのだった。


ネイトはその他にも、生卵を何個もまとめて飲み込み (これって実はかなりの数の人間が真似したと思う)、さらには本当にフィラデルフィアまで連れ出され、ロッキー同様、早朝にフィラデルフィア美術館の前の階段を駆け足で上り、手を伸ばし、ロッキーのテーマが流れる中、朝陽を全身に受ける。いや、「ロッキー」ファンが本当にやってみたいことはこれなんじゃないかなあ。


そんなこんなでネイトのデビュー戦が開かれる。いくらなんでも相手は世界チャンピオンのアポロというわけには行かないが、それでも当然黒人で、パンツは星条旗を模してあり、映画そのままだ。そしていきなり、番組はそれまでのネイトの鍛練風景を写したリアリティ・ショウ・タッチから、一転、ヴィデオならぬフィルム撮影の、上下に黒枠の入る横長のレターボックス・ヴァージョンとなり、後ろには「ロッキー」の音楽が流れ、ネイト版「ロッキー」となる。


もちろんこれは一つの作品であり、ボクシングの試合とはいっても、当然シナリオ通りに撮影されており、ロッキーを体現するネイトは、映画同様試合に勝つことはない。また、15ラウンドの世界戦ではなく、ネイトが戦うのは4回戦で、しかもこちらは映画同様、判定で敗れるという展開だ。そして相手の勝ちが宣告されると、観客が雪崩を打ってリング上に上がりこみ、ネイトを胴上げして幕となる。


言わせてもらえるならば、ここまでやっているんだから、ネイトには、完全にロッキーになりきってもらいたかった。ところどころ、つい現実が思い出されるのか、気恥ずかしそうな表情が顔を霞めるのだが、それは興醒め以外の何ものでもない。やるならとことんやった方が、結果的には本人も周りも納得が行くだろうに。それはそれとして、ネイトが得がたい経験をしたことだけは間違いない。


番組の第2回は「ラ・バンバ」の主人公リッチー (ルー・ダイアモンド・フィリップス) になりきるという趣旨だが、その回の主人公として選ばれたトッドの場合だと、音楽作品の主人公に憧れているくせに、ギターはからきしダメ。それをラテン音楽のコーチがつきっきりで、ともかく、少なくとも型だけはそれなりに様になるように捏造する。第3回の「ブルーズ・ブラザーズ」は当然黒メガネ黒帽子黒スーツでコンサートを開く。こちらの方は一応は元々楽器ができたようで、第2回のトッドよりうまくこなしているように見えた。


番組はさらに、「ナチュラル」のロバート・レッドフォードや、「ダーティ・ダンシング」のパトリック・スウェイジ、「カラテ・キッド」など、自分の好きな映画の好きなキャラクターになりきる一般人の奮闘をとらえる。しかしこの番組、狙いは面白いと思うんだが、ちょっと詰めが甘いかなという気がしないでもない。なりきり番組なのに、どうも本人がなりきっているようには見えないことが一つ。もう一つは、やはり物真似番組は、オリジナルは超えられないことがよくわかることだ。そりゃあ、真似した番組の方が面白いなんてことがある得るわけがないのは、最初からわかりきってはいるが。


しかし、これらの得がたい経験をした者たちは、撮影が終わった後、ほとんど皆、異口同音に「Awesome」とかなんだとか、最上級の感嘆詞を洩らしていた。少なくとも、そういう経験をした者にとっては、一生もんの思い出になるのは間違いないだろう。もし第2シーズンもあるのなら、今度はいかにもという感じのスポーツものや音楽もの、ダンスものではない、歴史ものやSFなんていうのがあると、また番組に幅ができて面白くなると思うんだが、ちょっとそれではさすがに弱小チャンネルには予算がきついか。






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Into Character

イントゥ・キャラクター   ★★1/2

 
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