Immortalized   インモータライズド 

放送局: AMC 

プレミア放送日: 2/14/2013 (Thu) 22:00-22:30 

製作: AMC 

製作総指揮: ジェイミー・ロウリー 

インモータライザー: ベス・ビヴァリー、デイヴ・ハウザー、ペイジ・ネザーカット、タケシ・ヤマダ 

ジャッジ: ブライアン・ポゼーン、キャサリン・コーン、ポール・ライマー 

ホスト: ザック・セルウィン 

 

内容: 剝製技術の優劣を競うコンペティション・リアリティ。


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Immortalized


インモータライズド   ★★1/2

剥製というのがアメリカでどこまで一般的なのか、よくはわからない。以前、NBCの「ザ・マリエッジ・レフ (The Marriage Ref)」で、愛するペットの亡き骸を剥製にした者が出ていたが、これは例外と言える。都市部に生活する者にとっては、剥製は一般的にはあまり馴染みのないものだろう。 

 

一方、内陸部の狩猟を行うところでは、射止めた獲物を剥製にするという試みは、日常的に行われている。需要も供給もそこそこあるようで、それを見こしてヒストリー・チャンネルが「マウンテド・イン・アラスカ (Mounted in Alaska)」、アニマル・プラネットが「アメリカン・スタッファーズ (American Stuffers)」という、剥製専門業者に密着するリアリティ・ショウを編成していたこともある。 

  

ディスカバリーの、異品珍品の売買専門店に密着するリアリティ・ショウ「オディッティーズ (Oddities)」でも、剥製は必需品だ。そして今回登場したのが、剥製技術の優劣を競うリアリティ・ショウの、「インモータライズド」だ。 

 

基本的にアメリカ生まれのコンペティション・リアリティの場合、最初に参加者全員を一か所に揃え、毎週一人ずつ追放していくという、勝ち抜きタイプの構成が 主流だ。一方、それほど多くはないが、コンペティションとはいっても勝ち抜きではない、毎回一対一の勝負をフィーチャーする番組もある。その代表例が、フード・ネットワークの 「料理の鉄人」こと「アイアン・シェフ (Iron Chef)」だ。 

 

「インモータライズド」が後者と同様、勝ち抜きではなく一対一の体裁となっているのは、まず、一概に剥製とはいっても、その対象は一般的な中大型の哺乳類や鳥類からコメ粒大の昆虫の類いまで多様であり、同じ土俵では優劣を決め難いことが挙げられるだろう。経験したことのない剥製製作を命じられ、それで優劣を決められるのはたまったものではない。 

 

だからまずその回のテーマを決め、その趣旨に沿って剥製を製作し、それをジャッジが採点することによって勝者を決める。言わば「料理の鉄人」で、毎回テーマとなる食材が決められるのと同じだ。対戦も、挑戦者がその道のよく知られた達人に勝負を挑むという体裁だ。この点も「料理の鉄人」を踏襲している。 

 

「料理の鉄人」では「鉄人」、もしくは「アイアン・シェフ」と呼ばれていた、挑戦を受けて立つヴェテラン側は、今回は「インモータライザー」と呼ばれる。そのインモータライザーは4人いる。ベス・ビヴァリーが最も得意とするのは「帽子」で、要するに、よく道端で轢かれて死んでいるアライグマやリス等を使い、帽子にする。デイヴ・ハウザーはカモ、アヒル等の水鳥専門。ペイジ・ネザーカットは哺乳類、および水鳥を得意とする。最後のタケシ・ヤマダはれっきとした日本人で、なんでも得意なのは、別々の身体を組み合わせて作るキメラらしい。要するに、剥製と一言で言っても間口は多様だ。 

 

ジャッジはコメディアンのブライアン・ポゼーン、著述業/アーティストのキャサリン・コーン、スミソニアン自然史博物館の剥製技師のポール・ライマー。正直言ってこの中で実際に剥製製作において人に審判を下す資格を持っているのはライマーだけと思えるが、「料理の鉄人」でも毎回素人のゲスト・ジャッジがいて俳優が点を決めていたりしたから、こういうのもありだろう。一般人に近い感覚からも採点する必要があるわけだ。 

 

その採点は、オリジナリティ、クラフツマンシップ (技術)、それに毎回のテーマの解釈をそれぞれ採点して、その合計点によって勝者を決める。因みに番組第一回のテーマは「Size Matters」で、要するに「大きさ」がなんらかのポイントになる。 

 

その最初の勝負で戦うのは、インモータライザーがビヴァリー、挑戦者は、主として昆虫標本専門のケヴィン・クラークだ。「料理の鉄人」とは異なり、剥製は1時間2時間でできるものではないから、対戦者がステュディオで顔を合わせた後は、それぞれ自分のアトリエなり仕事場に帰って自分の作品にとりかかる。たぶん一週間くらいの時間を与えられたのではないだろうか。 

 

そのでき上がったものをステュディオで公開するわけだが、ビヴァリーが作ったのは、ネコとサカナを一体化させたネコ・マーメイド、クラークが製作したのが、全体を蝶を中心とした標本で覆われた、ガリヴァーのミイラだ。技術云々はさておき、なぜビヴァリーのネコ・マーメイドが「大きさがものを言う」というテーマになるのかさっぱりわからなかった。 

 

一方のクラークは、小さな虫によって巨人ガリヴァーを覆うという発想がなかなか効いていて、私の採点では文句なしにクラークの勝ちだったんだが、ジャッジの採点では僅差でビヴァリーが勝った。たぶん剥製技術とかそういったところでビヴァリーに一日の長があったんだろうが、しかしオリジナリティとかテーマの解釈という点では、どう見てもクラークに分があったと思うんだが。 

 

番組第2回のテーマは「エンド・オブ・ザ・ワールド (世界の終わり)」で、インモータライザーのネザーカットにCJ・ フィーガンが挑む。ネザーカットが製作したのはネコがウズラを捕獲する瞬間で、要するにウズラにとっての世界の終わりだ。フィーガンは、火を噴く巨大岩石からシカやキツネ、オオカミが飛び出そうとする瞬間を造型する。一見するとフィーガンの方がインパクトがあるが、まるで今にも動き出しそうなネザーカット作品のディテールも素晴らしく、私見では甲乙つけ難い。しかし勝ったのはフィーガンだった。 

 

番組3回は、「オデッセイ」テーマでヤマダが登場、キツネの五つの頭がキリンのような長首で一個の胴体にくついているというキメラを造型、挑戦者はホメロスの「オデッセイ」に触発された、サカナを主体とした海中のシーンを造型する。まさかそばの人間まで本物を剥製にしたものじゃないよな。これはヤマダが勝った。 

 

第4回以降のテーマは、「あなたの最大の悪夢 (Your Worst Nightmare)」、「愛と戦争 (Love and War)」、「セルフ・ポートレイト (Self Portrait)」、「初恋 (First Love)」、「天国と地獄 (Heaven and Hell)」等で、それらのテーマを剥製を使ってどう表現するか、確かにそそられるものがある。 

 

とにかく見てて感じるのは、剥製というのは哺乳類、鳥類ばかりではないことで、むろん昆虫標本の類いなら、ガキの頃に見よう見真似でやってみたこともあるが、サカナを剥製にするという発想は私にはなかった。剥製というものはよりオリジナルに忠実に、生きていた頃を再現することに意義があるものだと思い込んでいたので、合体させてモンスターやキメラを製作するという剥製は、目からうろこだった。


しかし毛皮を帽子にするのが得意だなんて、あんまりという気もする。あまりやり過ぎるとどっちかっつうとSyFyが編成しているSF勝ち抜きリアリティの「フェイス・オフ (Face Off)」になってしまいそうだが、なるほど、これはこれで楽しめるのは事実だ。ただし私の女房は、動物の屍体に手を加えるという、それだけでもうダメで、番組は見ないと宣言した。それもわからないではない。 









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