I'm So Excited! (Los amantes pasajeros)


アイム・ソー・エキサイテッド!  (2013年7月)

女房が同僚の出産間近のサプライズのベイビー・シャワーに出席するための送り迎えを頼まれた。場所がその同僚のクイーンズのアパートの近くなのだが、ニュージャージーのうちからだと川を二つも越え、交通機関も5回乗り換えなければならない。私がクルマを運転して一緒に二人で出席できれば一番効率的だが、シャワーは基本的に同性同士の集まりであり、男性はお呼びでない。むろんサプライズだから本人に駅まで迎えに来てと頼むわけにもいかない。女房はクルマを運転しないため、私にクルマで送ってくれないかと頼んできたわけだ。 

  

それでかつて長年住み慣れたクイーンズのフォレスト・ヒルズ近辺に5年振りに足を踏み入れ、女房がパーティに出席中、私は通い慣れたアート系の劇場で公開中の、ペドロ・アルモドバルの「アイム・ソー・エキサイテッド」を見るという一石二鳥の案を思いつく。時間的にもぴったりでロスがないと、このプランに自画自賛する。 

  

考えてみれば、近年アルモドバル作品を見ていない。ニュージャージーに引っ越してからというもの、この手の外国語やアート系、インディ系小品をかける劇場が 近くになく、さらに昨年、そのインディ系がよくかかっていた小屋が閉じた。そのため、さらにインディ系作品を見る機会が減った。おかげで最近私がインディ系作品を見ている時は、かなりの確率で遠くまでクルマで出かけている。 

  

アルモドバル作品も、おかげでここ数年見逃している。4年前の「抱擁のかけら (Broken Embraces (Los abrazos rotos))」は、まったく近くで公開される気配すらなく、一昨年の「私が、生きる肌 (The Skin I Live In (La piel que habito))」の場合は、わりと近くで公開されたのには気づいていたのだが、その時、同時期に公開された他の作品を優先して、「私が、生きる肌」は来週見ようと思っていたら、その翌週、既に劇場から消えていた。なんだ、それと地団太踏んだが、後の祭りである。 

  

というわけで、今回アルモドバルという名前を見つけた時には、内容のチェックなぞまるでせず、アルモドバル作品ということだけで、よし、今回は「アイム・ソー・エキサイテッド」、なにがなんでも見る、と心に決めていた。Yahooで上映時間をチェックした時も、なんだかよくわからない100%ゲイ風情の男性がヘンなポーズを決めているイメージが一瞬目に入ったのだが、ほとんど無意識に無視して、見なかったことにする。ちょっと気にして、もちょっとマジで内容を事前にチェックするべきだったと反省したのは、実際に作品を見始めてからだ。 

 

映画の冒頭、バルセロナの空港で旅客機に荷物を運び入れている地上勤務の者は、なんとペネロペ・クルスとアントニオ・バンデラスだ。最初、お、彼らがまた出るのか、しかもこの二人の共演、しかし、なんだか乗りがヘン、いつものアルモドバルとは違うが‥‥ という違和感は、飛び立ったジェットの中でふざけた行動を繰り返す3人のゲイのフライト・アテンダントのせいで加速度を増していく。結局クルスとバンデラスが出てきたのは冒頭だけのサーヴィスだった。 

 

メキシコに向けて飛び立ったはいいが、すぐに機体の異常が発覚、機長以下、乗組員は乗客のパニックを防ぐべくありとあらゆる手段を講じて乗客が異常に気づかないよう画策する。しかしすぐに、ビジネス・クラスの乗客は、乗務員以上に癖のあるやつらばかりだということが判明する‥‥ 

 

それでも、まだ乗客の一人リカルドが、機内から電話で恋人と話すという件りまでは、なんとか我慢できた、というか、自殺願望のある彼女の行動を介して話がどう転がっていくかわからない辺りはさすがアルモドバルと、これからを期待させさえしてくれたのだが、そこからがいけない。なぜここまでゲイ・パワー炸裂の下ネタ路線で突っ走らないといけないのか、まるで理解しかねる。 

 

因みに作品タイトルの「アイム・ソー・エキサイテッド」は、もちろんポインター・シスターズの同名大ヒット曲から頂いており、作品内でゲイ3人組アテンダントが、乗客を楽しませるためにこの曲に合わせて歌い踊るのだが、正直言ってこのくらいのレヴェルのパフォーマンスなら、NBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ (Saturday Night Live)」を見てた方がよほどましだ。 

 

いつもいつも心を揺さぶる衝撃作、問題作ばかりを作り続けるわけにもいかないだろうことは容易に想像できる。新しい試みに挑戦して失敗することもあろう。しかし今回ばかりは、新しい試みに挑戦して失敗したというよりは、仲間うちで内輪の下ネタで興じていたのが多少面白かったから膨らませてみました的な安易さが充満しており、正直言ってこんなの見せられるくらいなら、アルモドバルに何も撮らずに休養していてもらいたかったというのが正直なところだ。わざわざニュージャージーから川を二つ越えて、マンハッタンを横断してクイーンズまで遠征してまで見た作品がこれか。 

 

むろんそう思っているのは私だけではなく、劇場を出る他の観客も憤懣やる方ないという感じで、見渡す限りほぼ全員が怒りや失望を露わにしていた。前回この劇場で「ボルベール (Volver)」を見た時は、見た後のロビーにいい映画を共有した時の観客に伝播する軽い興奮が場を支配していたものだが。新しいことに挑戦して失敗作を撮るのはまだいい。しかし今回はいたずらに自己満足でしかない、失敗作以前の問題と言わざるを得ない。アルモドバルのような監督ですらこういう作品を撮ることもあるということがわかったことだけが、今回の収穫か。 

 









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マドリッド発メキシコ行きのペニンシュラ航空2549便が離陸直後、機体の異常に気づく。折りしも機内では3人 のゲイのフライト・アテンダントが暴発寸前で、アルコールを飲みながら乗客にサーヴィス、というかハラスメントを繰り返し、コクピットに入って機長と副機長にちょっかいをかける。ビジネス・クラスの乗客はそれぞれが腹にイチモツある胡散くさげな者たちばかりで、ちょっとでもサーヴィス悪いとどこぞに訴える かと息巻く女性がいれば、テロリスト紛いの男も新婚カップルも、なぜだか予言めいたものをする自称ヴァージンもいる。アテンダントはエコノミー・クラスには薬を盛って眠らせ、ビジネス・クラスでは今度はドラッグで乱痴気パーティに変貌する。果たして機は無事地上に着陸できるのか‥‥


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