I See You


キタ・キタ (Kita Kita)  (2017年8月)

「I See You」は、英題だけではまったくどんな内容かわからない。ホラーでもラヴ・ロマンスでもSFでもなんでも行けそうだ。しかしそのポスターに、「Kita Kita」というアルファベットと共にカタカナでキタ・キタと書かれていると、話は違う。 

 

さらにその下には見つめ合う男女の絵柄があり、かなりの確率でラヴ・ロマンスではありそうだが、しかし何がキタ・キタなのか。I See You… Kita Kita…来た来た? 実はカタカナでキタ・キタと書かれているように見えるのは気のせいで、似たような字面の他の国の言葉かもしれない。こういう記号はどこの国にでもありそうだ。 

 

それで気になって調べてみると、北海道の札幌を舞台にフィリピン人主人公を描く話だそうだ。ということは、やはりカタカナのキタ・キタであることは間違いなさそうだ。北海道ということで北北とかけている? 恋愛ものっぽい題材には特に惹かれるわけではないが、しかし舞台設定は気になる。 

 

それにしても札幌だ。札幌が観光地としてフィリピン人に人気なのかと一瞬思うが、そう言えば北海道で行方不明となった中国人女性もいたし、たぶん北海道はアジア全域から人気があるのだろう。食べ物は海のものも山のものも美味しそうだし風光明媚っぽいし、それに特に雪の降らない東南アジア辺りから見ると、冬季リゾート地としてもロマンティックな印象があるのは、同じように南の方の出身である私の経験からしてもよくわかる。 

 

主人公のレアは札幌に住むフィリピン人女性の観光ガイドだ。日本人男性と婚約していたが、最近は忙しさを理由にあまり会ってなく、しかも浮気の決定的現場を目撃したことから、ショックで目が見えなくなってしまう。落ち込んでいるレアを見かねた同郷のトニョは、何かとレアの家に足を運んでは元気を出させようと励ましたり笑わせようとしたりする。 

 

とまあ、やはり内容はかなりべたな恋愛ものだった。とまれこういうのを見るのも何かの縁だ。アメリカで日本を舞台にしたフィリピン人が主人公の映画を、周りをたぶんほとんどがフィリピン人観客と一緒に見るというのも、またオツな気分。 

 

「キタ・キタ」がアメリカでも公開されているのは、とりもなおさずフィリピン人コミュニティというマーケットがあるからだろう。ニューヨークではスタテン・アイランドに結構フィリピン人が多いし、私の住むジャージー・シティにも、フィリピン系のスーパーマーケットやベイカリーがある一角がある。フィリピン人製作主演なのにわざわざ日本を舞台にしている映画がアメリカのフィリピン系にどこまでアピールするかは疑問だが、少なくとも私にとっては外国映画でありながら郷愁も味わえ、一粒で二度楽しめる作品なのだった。 

 

話としては、恋愛ものとしては、不遇な主人公、それを助ける一見不細工な男、と王道的設定で、後半のそうだったかという捻りも、カンのいい者ならわりと早くから気づけるかもしれない。しかしわかってても楽しめるのが、こういうジャンルものの強みとも言える。ラストは思わずちょっとうるっとしてしまった。 

 

それよりもあっと思ってしまったのがラストでレアが使うバンダナで、実はそのバンダナ、私が持っているのとまったく同じ、ペイズリー模様の赤いバンダナだった。映画を見たその日、出がけにパンツのポケットに入っていたそのバンダナに擦り切れて穴が開いていたのを発見、捨てるしかないなと取り出して、代わりのハンカチを持って出かけた。 

 

そしたらそのバンダナが最後、重要な小道具として使われている。あんな使われ方をしたら、バンダナ、捨てられないじゃないか。いや違う、そうやって捨てることで前に進むのだ、いや、しかし、レアはそうじゃなくバンダナを使って過去に耽溺してたことにならないか。とするとこれはやはり捨てられないのでは、と、穴の開いたバンダナを前に想いは千々に乱れるのだった。 











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フィリピンから来たレア (アレッサンドラ・デ・ロッシ) は、札幌で観光ガイドとして生計を立てている。婚約者の日本人青年がいるが、最近は忙しさを理由にあまり会ってもらえてない。ある夜レアは、ビア・ガーデンで彼が他のフィリピンから来た女性と仲睦まじくしているのを目にする。レアはそのショックから、目が見えなくなってしまう。仕事もできず日々落ち込んでいるレアに、元気になってもらおうとやはり同郷のトニョ (エンポイ・マルケス) が、故郷の食事を作ってきたりするが、レアの心は晴れない。それでも屈せずせっせとレアにちょっかいかけてくるトニョに、レアの心も次第に柔らかくなっていくが‥‥ 


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