放送局: VH1

1/8/2007 (Mon) 21:00-22:30

製作: マインドレス・エンタテインメント、51ピクチュアズ

製作総指揮: マーク・クローニン、クリス・アブレゴ、ベン・サメク、ジェフ・オルデ、ジル・ホームズ、クリステン・ケリー、マイケル・ハーシュホーン

出演/ホスト: ティファニー・ポラード (ニューヨーク)


内容: ニューヨークことティファニー・ポラードの恋人の座獲得を狙う勝ち抜きリアリティ・ショウ。


________________________________________________________________


MTVと姉妹チャンネルのVH1は、元々は音楽専門チャンネルとして始まったケーブル・チャンネルだが、それもいまはいずこ、現在では両チャンネルともほとんどリアリティ・ショウ専門のチャンネルと化している。両チャンネルで多少異なるのは、MTVが放送するのが、基本的に「ラグナ・ビーチ」、「マイ・スーパー・スウィート・シックスティーン」等の素人を起用したティーンエイジャー向けのリアリティ・ショウばかりであることに対し、VH1の場合、昔多少名を知られていたことがあるが、今は落ち目のC級タレントを起用したリアリティ・ショウが並ぶことにある。


VH1は、一時期よく「アイ・ラヴ・エイティース (I Love '80s)」などと題した過去のポップ・カルチャーを懐古する特番を組んでいた。最初の頃は私も懐かしくてなんとなく見てたりしたが、しかしすぐにネタ切れになって、同工異曲の特番を手を変え品を変え何度も何度も繰り返し編成するようになったので、すぐに飽きた。とはいえ、こういう懐メロ特集的な番組はそれなりに視聴者にアピールすることを学んだのだろう、その後VH1が編成するリアリティ・ショウは、一時期人気のあったタレントを起用し、彼らに密着するという限りなくワン・パターンのリアリティ・ショウが並ぶことになった。


因みに現在VH1が編成している人気番組は、元プロレスラーのハルク・ホーガン一家をとらえる「ホーガン・ノウズ・ベスト (Hogan Knows Best)」、俳優トム・サイズモアに密着する「シューティング・サイズモア (Shooting Sizemore)」、勝ち抜きの白人ラッパー養成リアリティ「ザ・ホワイト・ラッパー・ショウ (The White Rapper Show)」、セレブリティ専門ニューズ/ヴァラエティの「ファビュラス・ライフ (Fabulous Life)」、「アイ・キャンディ (Eye Candy)」等で、このほど放送が始まったか放送予定の新番組は、「アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル」豪州版を逆輸入した「オーストラリアズ・ネクスト・トップ・モデル (Australia's Next Top Model)」、モデル・エージェンシーの内幕をとらえる「ジ・エージェンシー (The Agency)」等、やはりなにがしかセレブリティ絡みである。VH1はこれらの番組を「セレブリアリティ (Celebreality)」と自称して力を入れており、当分この種の番組製作が続く模様だ。


VH1というのは元々こういうセレブリティ志向のチャンネルだったのだが、それでも、B級C級セレブリティのリアリティ・ショウ専門に特化した、その方向性を決定した契機というものがある。それが「ザ・サーリアル・ライフ (The Surreal Life)」だ。「サーリアル・ライフ」は、2003年に当時の弱小ネットワークのWBが放送したリアリティ・ショウで、かつてB級今C級の、セレブリティという単語に思わず疑義を挟みたくなるような半似非セレブリティを同じ屋根の下で生活させ、その一部始終をとらえるという、いわば勝ち抜き形式を排した「ビッグ・ブラザー」のようなリアリティ・ショウであった。


実際、その時に番組に出たセレブリティは、ゲイブリエル・カーテリス、コーリー・フェルドマン、MC ハマー、エマニュエル・ルイス、ジェリ・マンセイ、ヴィンス・ニール、ブランデ・ロデリックという、名前くらいは知っていても顔がすぐ思い浮かぶかは疑問の、セレブリティと呼ぶには恥ずかしい、知らない人の方が多いだろうという人選だった。たぶん彼らが通りを歩いていても、誰も気づくまい。結局、「サーリアル・ライフ」はそれなりの注目を集めはしたがそれ以上のものにはならず、WBは2003年と翌2004年に2シーズン分を放送しただけで、番組を姿を消した。


そこへ現れたのがVH1だった。既に旬を過ぎた、セレブリティとは名ばかりのセレブリティを大挙して起用する「サーリアル・ライフ」は、金のかからない似非セレブリティを愛するVH1にぴったりの番組だったのだ。そのため「サーリアル・ライフ」は、2004年秋の第3シーズンから場所をVH1に変え、生まれ変わって放送を開始する。その時の人選が、ライアン・スター、ジョーダン・ナイト、フレイヴァー・フラヴ、デイヴ・クーリエ、チャーロ、そしてブリジット・ニールセンという面々だった。


因みにスターはあの「アメリカン・アイドル」第1シーズンのファイナリストの一人で、最も可愛かった子だ。ナイトは、80年代末に圧倒的人気を誇ったアイドル・グループ、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックの一人といえば、思い出す者も多かろう。ミュージシャンといえば、現代に繋がるラップ・シーンの生みの親的存在のパブリック・エネミーの一員だったフラヴもいる。クーリエは「フル・ハウス」に出演していた俳優で、チャーロは元フラメンコ・ギタリスト、ニールセンはアクション女優というより、元シルヴェスタ・スタローンの奥さんだった人といった方が通りがいいのではないか。


とまあ、やはり現在活躍している者がいるわけではないB-C級のタレントを集めて製作された第3シーズン、実はこれが当たった。特にこのシーズンでは、なんとゴージャス系のデカめの白人女優ニールセンと、身体は小さいが派手物光り物好き、きんきら金歯が印象的な黒人ラッパーのフレイヴァー・フラヴがなんとできてしまうという意外性抜群の展開になった。当然怖いもの見たさで視聴者はチャンネルを合わせ、番組は評判となってVH1最大の人気番組となり、その後VH1がこの種のセレブリティ密着リアリティ・ショウに専念するというチャンネル全体の方向性を決定づけた。


さらに番組の第4シーズンでは、WBの「アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル」第1シーズン優勝のエイドリアン・カリーと、1970年代前半に一世を風靡したシットコム「ザ・ブレイディ・バンチ (The Brady Bunch)」で人気を博したクリストファー・ナイトがこちらもいい仲になってしまうという展開になり、これまた話題を提供した。私自身は「トップ・モデル」というか、エイドリアンのファンだったこともあって、第3シーズンはともかくこちらの第4シーズンの方をよく見ていた。


いずれにしても意外性たっぷりのこの二組のカップルは視聴者に大きな話題を提供、VH1は今度は両カップルの私生活に密着するリアリティ・ショウを製作した。それが「ストレンジ・ラヴ (Strange Love)」(ニールセン/フレイヴァー) と、「マイ・フェア・ブレイディ (My Fair Brady)」(エイドリアン/ナイト) だ。後者はさらに関係が進み、ついに結婚ということになって、結婚式を挙げるまでのてんやわんやを追った「ウイアー・ゲッティング・メアリード (We're Getting Married!)」というスピンオフ番組まで製作された。美形で涙もろく、脱ぎたがりのエイドリアンはファンも多かったことだろう。私もその一人だった。二人の今後の仕合わせを祈る。


一方、ニールセンとフレイヴァーの方は、いくらなんでも人種の差を含めた二人のバックグラウンドやものの考え方の違いが大き過ぎたのだろう、最終的に破局を迎えた。しかし、話はここから大きく転換するのだが、そこでVH1はその独特のキャラクターで人気のあったフレイヴァーを再起用し、今度はフレイヴァーの恋人の座を獲得する勝ち抜きリアリティ・ショウを製作した。それこそが昨年最大のスリーパー・ヒットと言っていいだろう「フレイヴァー・オブ・ラヴ (Flavor of Love)」である。これは当たった。当たったなんてもんじゃない、ホームランだった。特に黒人視聴者における番組の人気の高さは驚くべきほどで、感じとしては黒人なら二人に一人は番組を見ていたと思えるくらいの人気を示した。


とはいえ、昨春の時点では、まだ番組は黒人という人種の枠を超えてまで人気があったとは言い難かった。しかし、この人気に気をよくしたVH1は即座に第2シーズンを製作、これが第1シーズンに輪をかけて人気を博した。昨夏のMTVの「MTVムーヴィ・アウォーズ」はホストがジェシカ・アルバだったが、その番組オープニングで、アルバと「ザット70sショー」のトファー・グレイス、それにフレイヴァーの3人で「ミッション・インポッシブル3」のパロディを演じていたところを見ても、その頃にはフレイヴァーの知名度は全国区になっていたことが窺われる。


「フレイヴァー・オブ・ラヴ」の最大の功績というか面白さは、フレイヴァーの恋人の座を争った何人もの女性の中に、フレイヴァーに勝るとも劣らない超強力なキャラクターを持つ黒人女性、ティファニー・ポラードがいたことにある。番組では、フレイヴァーが勝手に女の子たちにニックネイムをつけ、本名ではなくそのニックネイムで女の子たちを呼ぶのだが、ニューヨーク出身のポラードはイージーに「ニューヨーク」と命名され、シーズンを通して様々な話題を提供した。


結局彼女は優勝してフレイヴァーの恋人の座を獲得することはできなかったわけだが、最後の二人までは残り、最後の最後まで話題と笑いと驚きを提供した。既にシーズンの途中では彼女の言動は広く番組の内外を問わず知られるところとなり、さすがにこれは興味がないと言ってもいられないと私も見たわけだが、いや、もう、こう言っちゃなんだが、時々こういうやつ、黒人にいるよな、確かに、と思わせる、徹底して自己中心的な超強力なキャラクターで、なんでこのくらいの容姿でこれだけ自信過剰になれるのか、本当に開いた口が塞がらない。とにかく自我の強い彼女は、基本的に他の参加者全員と敵対関係になり、他の女の子から唾をかけられたことすらあった。むろんそれくらいのキャラクターだからこそ、これだけの話題と嘲笑を集めることに成功したわけだが。


そして、そのニューヨーク人気に目をつけたVH1が、今度はそのニューヨークを主人公としてまたまた製作した恋人獲得勝ち抜きリアリティ・ショウこそが、この「アイ・ラヴ・ニューヨーク」なのであった。いや、今回は本題に入るまでの前置きがひたすら長かったな。いずれにしても、キャラクターとしてはフレイヴァーに勝るとも劣らない強力なものの持ち主であるニューヨークが、今度は自分が選ぶ立場になって、群がる男どもを篩いにかける。


ニューヨークは、まあ、ああいうのがいいという者もいるかもしれないが、客観的に見て美人とは言えないだろう。あれくらいになればあまりにもキャラクターが強烈なので美醜を超越しているという見方もできるかもしれないが、とにかく、私はパスだ。そのニューヨーク、やはり同様に強力なパワーを発揮する母親を助っ人としてそばにおいて、色々とアドヴァイスを求めたりする。むろんニューヨークの母である、アドヴァイスなんか求めても、勝手に私はあの子がいい、この子は嫌だと自分の好みを押しつけるので事態は紛糾するだけなのだが、TV番組としてはこちらの方が面白いのは確かだろう。


番組進行自体はまったく「フレイヴァー・オブ・ラヴ」と一緒で、女王様然として下々の者の前に君臨するニューヨークが、まずは20人の参加者にニックネイムをつける。その場の思いつきで勝手に命名していくわけで、筋肉モリモリだから12パック (腹筋が綺麗に12等分されていること)、センチメンタルな野郎だからロマンス、テニス・コーチだからエース、といった具合だ。なかにはホワイト・ボーイなんてあまりうれしくないニックネイムを頂戴したりする者もいる。ロマンスなんて、いきなり死んだばかりの自分が可愛がっていた犬ちゃんの写真を取り出すと、ニューヨークの目の前でめそめそ泣き出してしまうというやつで、だからこそロマンスなんて名前をつけられたりする。


しかし、ニューヨークもニューヨークだが、彼女の恋人として立候補するこいつらもこいつらだ。まさかこの男どもは、本当にニューヨークの恋人の座に収まろうと考えているわけではないだろうな。単にTVに出たいから、有名になりたいからという理由で番組に参加している方がまだ理由としては頷けるが、これが本気だったら美的感覚を完全に疑ってしまう。しかし、あのきんきらきんの光り物まぶしの入れ歯おっさんフレイヴァーがなぜだか本当に一部の女の子には人気があったようだから、あながち彼らも本気でないとも言えない。たで食う虫も好き好きというのは本当であるわけだし。しかしニューヨークか。私なら追われても逃げるけどな。


実際、男どもの知能指数もどう見ても高そうには思えない者ばかしで、まあ、いくらなんでも普通に恥という概念を持っている者ならこんな番組には出ないだろう。ニューヨークもニューヨークなら男どもも男どもという感じで、つまるところどっちもどっちだ。頼むからレヴェルの低いところで足の引っ張り合いなんかせんでくれと思ってしまう。そして結局でき上がった番組は、知性のかけらもなさそうな奴らが、普通の美意識を持っている者なら誰も気にしないに決まっている威張りんぼの女性を争って凌ぎを削り罵倒し合うという、これ以上ないくらいのトラッシュTVになってしまった。


たぶんこの路線を作り手も考えていただろうから、見事に思うものができてめでたいくらいのもんなんだが、しかし、この番組、出る者だけでなく、見る者も知性を疑われてもしょうがない。とはいえ、何の気なしにたまたま暇な時にチャンネル・サーフをしていて偶然番組を見つけてしまった、なんてシチュエイションでチャンネルを合わせた場合、賭けてもいいが最後まで見てしまうだろう。要するに、これだけくだらないと、確かにある程度の面白さは提供していると言える。とはいっても、やはり毎回自発的にチャンネルを合わせる気にはならんよなあ。






< previous                                    HOME
 

I Love New York


アイ・ラヴ・ニューヨーク   ★★

 
inserted by FC2 system