マンハッタンのうちのオフィスでは、仕事柄、四六時中2台のTVのスウィッチがつけっぱなしになっている。同じチャンネルにしていても面白くないので、だいたいいつも違うチャンネルにセットしてあるのだが、それでも時にその違うチャンネルでまったく同じ映像を流している時がある。それが何か大きな事故が起こった時であることは言うまでもない。その最近の例が、ハドソン・リヴァーに飛行機が不時着した時だ。


ニューヨーク、クイーンズのラグアディア・エアポートからノース・カロライナのシャーロットに向けて飛び立った155人乗りUSエアウェイズ機1549便は、離陸直後、両エンジンに鳥が混入して作動不能になり、チェスリー・「サリー」・サレンバーガー機長は近くの飛行場のどこにも緊急着陸は間に合わないと判断、マンハッタンとニュー・ジャージーの間を流れるハドソン川への不時着を即座に判断して実行に移す。言うは易く行うは難いその所業のその後の一部始終は、世界中のマスコミで報道された通りだ。


昨夏はマンハッタンの東側のイースト・リヴァーに滝ができる「ウォーターフォールズ」で、今年は西側のハドソン・リヴァーで飛行機漂流か。それにしても本当にニューヨークって世界で最もエキサイティングな街であることだけは間違いないようだ。






























さて、TVではそのハドソン・リヴァーに無事不時着を果たした機体が、川の流れに任せたまま河口に向かってゆるゆると流れていると報道しており、私はふと、仕事を終えてからハドソン・リヴァーまで行けばその、川に浮かぶ機体というシュールな光景が見れるのではと思った。あるいは、現在私はそのハドソン・リヴァーの下を走るパス (PATH) トレインでお隣りの州のニュージャージーから通勤しているのだが、ハドソン・リヴァーをわたるフェリーに乗れば、うまくすればその機体が見れるのではと考えた。


そこでフェリーの運航状況を確認するためにネットでチェックしたのだが、そうすると、現在すべてのフェリーの運航は停止しているという案内が流れていた。考えたらそれも当然か。それでマンハッタンの西側からフェリーに乗るという案は諦める。


この日は、ニューズを見ただけではわからなかったと思うが、寒いニューヨークの冬でも一、二を争う冷え込んだ日で、気温は摂氏で零下10度くらい、華氏20度くらいまで冷え込んだ。そういう日だったからこそこういう不測の事件が起きたのかもしれない。私は持っている中で一番厚いダウン・ジャケットを着込んで通勤していたのだが、それでも外を歩くとかなり寒い。それで寒風の吹き付ける川沿いまでてくてく歩いて、見れるかわからない流れ行く機体を見に行くという気にはさすがにどうしてもなれず、この案も断念する。


しかしPATHのニュージャージー側の終点であるホボケンのステーションはハドソン・リヴァーのすぐそばであり、そこで降りるとすぐハドソン・リヴァーが見渡せる。それでそのくらいならと川岸まで行ってみたのだが、既に陽が落ち、暗くなったハドソン・リヴァーを北から南まで見渡しても目に入るそれらしきものはまったくない。めちゃ寒い中を桟橋に佇む怪しい人影は私以外人っ子一人なく、結局なんの収穫もないまま私は家路に着いたのだった。しかし誰もいない、雪の積もる桟橋の上に佇んで何かを探し求めるという行為は、それはそれでシュールで得難い体験だったとは言える。


結局私が桟橋に立った頃は、既に機体はマンハッタンの南端のバッテリー・パークまで牽引された後だったというのは、冷えきった身体のまま家に帰ってから夜のニューズで知った。それにしても、私は自分の意志でそこに立っていたわけだが、実際に主翼の上で足を凍るような冷たい川の流れに浸しながら黙々と救助の手を待っていた乗客の気持ちは、いかばかりだっただろうか。


無事機体を不時着させ、一人の死傷者も出さなかったサリー機長はその後、英雄としてありとあらゆるTV番組に引っ張りだこで、深夜トークの「レイト・ショウ」にもユニフォーム姿のまま出ていた。ホストのデイヴィッド・レターマンに、もういい加減こういうのも疲れたでしょうという問いに、まったくもううんざりと真顔で答え、観客に受けていた副機長の、本当に疲れ切った顔が印象的だった。皆さん充分休養して下さい。

 







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Hudson River Plane Crash -- A Miracle on Hudson   

ハドソン・リヴァー飛行機不時着 -- ハドソン・リヴァーの奇跡

2009年1月15日

 
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