Hollow Man

インビジブル  (2000年8月)

つい一と月前にもTVのSci-Fiチャンネルで透明人間を主人公としたSFドラマ「インヴィジブル・マン」が始まったばかりだが、今度はハリウッドが新しい透明人間を造り出した。どうやらアメリカでは今、透明人間が流行りらしい。今回は監督がポール・ヴァーホーヴェン、主演がケヴィン・ベーコンと、ハリウッドの王道から少し外れている (と私が感じている) 二人がメイン。ヴァーホーヴェンなんて「ショーガール」という出演者を脱がすだけの映画を撮って嬉々としている監督である。本人も「女性の裸を見るのが楽しみ」と公言して憚らない。ハリウッドの最先端のCG技術を駆使し、もしかしたらエロティック・サスペンスの佳品ができたかと、期待は膨らむ。


天才科学者セバスチャン・ケイン (ベーコン) は、軍の指揮下、秘密のチームを率いて生物を透明にする実験を続けていた。今のところ動物実験ではうまく行っているが、問題は透明にすることではなく、また元の通りに見えるようにすることにあった。難問に直面するセバスチャンだったが、ある日、天啓を受け、ついにそれを可能にする方法を発見する。次の段階は人体実験である。セバスチャンは軍に内証で、自らを実験台にして透明人間になる。実験は成功したに見えたのも束の間、しかし動物実験では成功した元通りに可視化する方法が、今回はうまく行かない。セバスチャンは透明人間となったまま、次第に暴走を始める‥‥


ベーコンは昔から私の目にはとりたてて顔がいいとも演技力があるとも映らない。「激流」あたりから悪役もやるようになったところなんかは、自分でも正義の味方的主役は向いてないことがわかってのことだと思っていた。皆が誉めた「告発」も、頭悪そうに見える点が役柄とマッチしているところ以外は私にはミスキャストにしか見えなかった。ごく普通のアメリカ人青年を演じた昨年のホラー「スティア・オブ・エコーズ」が、役柄としては最も本人に合っていたと思う。今回だって、彼はどう見ても天才科学者なんかには見えない。まあ、ヴァーホーヴェンはそういうことは充分承知の上でキャスティングしていることはわかる。昔から彼の映画はいつも俳優と演じる役柄が微妙にずれているところが逆に魅力となっていた。それでもなあ。細身のベーコンが後半シュワルツネッガーさながらの怪力を発揮したりして、嘘だろう、透明人間になったら筋肉組織にも影響が出るわけ?と思ってしまった。


しかし、大した役者じゃないと私が思っているベーコンは、女性の目から見るとそうでもないようだ。私の女房は、ベーコンは別に悪いとは思わなかったが、大袈裟な演技で相手役のリンダを演じるエリザベス・シューをどうにかしてくれと思っていたそうだ。私は別にシューは特によかったとも思わないが、とりたてて悪いとも思っていなかったのでびっくりした。男女ではまったく意見が違う。ま、確かにここでのシューは、あのナルちゃんヴァル・キルマーが暴れまくった挙げ句作品をぶち壊した「セイント」みたいな、主人公の恋愛の対象であり、主役というにはすげ替えの利くあまり重要とも言えない役柄で、誰がやってもよかったとは言える。やはりこの種の映画では女性の主人公に怯えてもらい、怯えた顔のいい女優を配してもらいたかったと思うが、女性が男性よりも活躍する最近の映画ではそんな注文は無理か。シューは「リービング・ラスベガス」が例外的によかった他は、ほとんど印象に残らない。脇に回った方が映えるタイプだと思うのだが。


私にとって面白くないことはなかったが、この映画の評がそれほどよくないのもむべなるかなである。特に本題に入るまでの話の端折り方は、そりゃあないよ、と思ってしまう。研究に行き詰まっているはずのベーコンが天啓を受けて新しい分子構造を思いつくシーンのいい加減さは、せめてもうちょっと悩ませて盛り上げられないかと思うし、夜中だというのにそのベーコンから電話を受けたシューは、ベッドで寝てたのを起こされたのにもかかわらず、眠そうでもなく、髪も乱れてなく、その上薄化粧までしているのはいったいどういうわけだ。50年代ハリウッド映画じゃないんだからさ、もうちょっと本当っぽくしてくれよ。こりゃあ女性に甘い、というか、いつも綺麗な女性を撮りたいと思っているヴァーホーヴェンの指示だろう。わかるけどねえ。でもどうせ後半アクション・シーンになったらそんなことも言ってられなくなるんだよ。それともだからこそ前半のうちに綺麗な顔を撮りだめしておきたかったのか。


しかし、話のマクラをほとんど手抜き同然にして、とにかく「透明人間」という本題に入ろうとした話の作り方自体は悪くないと思う。おかげで2時間以内でコンパクトにまとまったし、全然退屈しなかった。ムードたっぷりのジェリー・ゴールドスミスの音楽もよかった。それに透明人間になるベーコンを描写するCGは、本当に目を見張る。ハリウッドのスペシャル・エフェクツは、年々、というよりも、映画1本毎に進化しているようだ。


ところで、基本的に閉じ込められた研究室内部での惨劇を描く密室劇である「インビジブル」は、登場人物はそれほど多くない。主演の二人以外は、シューの恋人マシューを演じるジョッシュ・ブローリンと、その他の研究メンバーがほとんど最初から最後まで出ずっぱりで、後はベーコンのアパートの隣りに住む女性や研究チームを司る軍のお偉方が出るくらいだ。その軍のお偉方に扮するウィリアム・デヴァインを、つい数日前に「スペース・カウボーイズ」でヒューストン基地の司令官として見たばかりだったので、あ、ここにもいる、と印象に残った。デヴァインは10年以上も続いたソープの「ノッツ・ランディング (Knots Landing)」のグレゴリー・サムナー役で知られている。先月FOXファミリー・チャンネルがプレミア放送したSFのTV映画「ザ・マン・フー・ユースト・トゥ・ビー・ミー (The Man Who Used to Be Me」)でも主演しており、最近いきなり見る機会が多い。頑張っているようだ。


楽しんで見た「インビジブル」であるが、しかし、その前に見た「スペース・カウボーイズ」に較べたら、どうしても見劣りがするのは否めない。先週末のボックス・オフィスは、「インビジブル」が2,680万ドルと断トツトップに立っていた。この数字は、昨年同期に「シックス・センス」が打ち立てた8月の興行記録、2,670万ドルを僅かながら更新した新記録だそうだ。やはり夏はホラーだな。しかし、1,760万ドルだった「スペース・カウボーイズ」は多分口コミでいいという評判が広まるだろうからそんなに興行成績は落ちないだろうが、「インビジブル」は急激に下がるのは避けられまい。それに1,700万ドルの興行成績で「スペース・カウボーイズ」のすぐ下にいた「コヨーテ・アグリー」もある。先々週公開の「ナッティ・プロフェッサー2」もまだ頑張っている。今週からの新規公開はキアヌ・リーヴス主演のアメフト映画「リプレイスメンツ」と、キム・ベイシンガー主演のホラー「ブレス・ザ・チャイルド」。両方とも結構人が入りそうだ。さてさて今週のボックス・オフィスの結果が楽しみだ。







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