High Crimes

ハイ・クライムズ  (2002年4月)

ジョゼフ・フィンダー原作の「バーニング・ツリー」の映像化。ベストセラーとなったサスペンス・スリラーの映像化とうたわれているんだが、実は作者もタイトルも初めて聞いた。本当にベストセラーになってたのか。売らんかなの商戦に騙されているような気もしないではないが、一応モーガン・フリーマンとアシュリー・ジャッド主演だし、ま、いいかと見に行った。フリーマンはともかく、ジャッドは私が興味が持てない恋愛ものや女性ドラマに出てたために最近見てなかったし、二人が共演した「コレクター (Kiss the Girls)」みたいなのをまた見たいような気分だったし。


弁護士のクレア (ジャッド) は、仕事に恵まれ、理解のある夫トム (ジム・カヴィーゼル) との間に念願の子供もみごもることができ、幸せの絶頂にいた。しかしトムが、海軍時代にエル・サルヴァドルで犯したとされる民間人の大量殺戮の罪で身柄を拘束される。自分の知っていた夫の過去がすべて捏造されたものだったことを知り、驚愕するクレアだったが、無実を主張するトムを信じ、元アル中だがやり手と噂される弁護士のチャーリー (フリーマン) を雇い、軍事法廷で検察側と争うことになる。しかし、敵の手はじりじりとクレアとチャーリーの近辺にも伸びてきていた‥‥


軍事法廷というのは、「ア・フュー・グッドメン」、「将軍の娘」や「英雄の条件 (Rules of Engagement)」、あるいはTVシリーズの「JAG: 犯罪捜査官ネイビーファイル」でも見られる通り、通常、民間人は関係しない。いわば治外法権の囲いの中の一般人の手の届かないところで、一般人とは関係のない内輪の犯罪をネタに話が進む。そういう、通常見れないものを見れるという点で、一般的な法廷ものとは一味違う面白さがある。「ハイ・クライムズ」の場合、その、通常は関係しない一般人である民間弁護士が軍事法廷で争うことになるという点が設定の妙になっている‥‥はずだったんだが、結構、ネタばればれだぜ、これ。クレアがトムの弁護のために事務所を辞めて自分で軍事法廷に立つというところくらいまでは面白かったんだが、結局、軍事法廷ものとはいえども基本的に犯罪を裁くという点で他の法廷ものと根本的な違いはあるはずもなく、いざ裁判が始まってしまうと、多少ともミステリ好きなら、ほとんどどういう展開になるか読めてしまうだろう。


それでも飽きずに最後まで見れるのは、一応ポイントは抑えていることと、やはりフリーマンとジャッドが主演しているからということが大きい。特にジャッドは、私にとっては恋愛ものよりもこの手の戦う女、反撃する女の方が断然よく見える。というよりも、反抗して逆に殴られる女というと、最もしっくり来る。実際、これまでジャッドが印象的だった作品は、そのほとんどで彼女は虐げられる女を演じている。「コレクター」で犯人に抵抗して徹底的に殴られる女という役を極めるまでにも、ジャッドは「ヒート」や「評決のとき」で、既に幸薄い女として印象を残している。綺麗な女優なのだが、彼女ほど目の下の殴られた青あざが様になる女優はいない。その特長を活かしながら、見事なプロポーションを惜し気もなくさらした「氷の接吻 (Eye of the Beholder)」は、作品自体のできはともかく、ジャッドの魅力全開という点では彼女の最高傑作だろう。こういうのを見てしまうと、単なる普通のラヴ・ロマンスものにしか見えない「恋する遺伝子 (Someone Like you)」なんて、まったく食指が動かない。


ジャッドは今回も殴られて目の回りに青タン作るわけだが、当然でしょうという気がする。敵に食ってかかって逆に殴られるジャッドでなきゃ見る意味がないし、その辺の彼女の魅力もわからないような監督なら、撮らせる意味がない。ケイト・ブランシェット辺りの綺麗系の女優でも殴られて青タンなんてのはよくあり、それはそれでまたいいが、ジャッドはその青タンを隠そうとサングラスをしても、それからはみ出て見えるほどの強力な青タンを作るという点で、青タン女優として断トツだ。昔はその上に、自分の本当の美しさ、魅力を自覚していない貧乏な女性、というようなところもよかったんだが、最近ではハリウッド・スターの仲間入りを果たしてしまったために、上流臭さが染みついてしまって、私にとっては少し魅力が薄まってしまった。最近では医者だとか弁護士だとかといった役の方が多いが、少し下品で貧乏という辺りの役どころこそが、彼女の魅力が最も発揮されると思う。


フリーマンは相変わらず、超うまいとも言わないが、この人の出る作品は安心して見ることができるという点で、ポイント高い。役ごとに千変万化するといったタイプの俳優ではないのだが、でも、絶対にポイントは外さない。最近ではジェイムズ・パターソン原作の「クロスもの」が当たり役となっているが、たとえ元アル中といえども、今回の役もそう遠い位置にあるものではないと思う。ちょっと屈折した過去のある理解のある中年男みたいな役をやらせたら、当代随一だ。あと10年もしたら、ドン・チードルが今のフリーマンみたいな役をやるようになると思うが、まだ当分フリーマンの時代は続くだろう。


カヴィーゼルは、やっぱりこういう、何か過去のありそうな人物より、正統派の正義の味方的な人物の方が私にはしっくり来る。「ペイ・フォワード」でも、ホームレス役は似合ってないと思った。どこか育ちのよさみたいなものが感じられるため、どっちかっつうと真面目に悩む「シン・レッド・ライン」や「オーロラの彼方に」みたいな、正統ヒーロー路線がぴたりとはまる。「モンテ・クリスト伯」のゴージャスな主人公なんて文句なしだった。他に主要な役どころとしては、ジャッドの妹ジャッキーに、WBのシットコム「ジャック&ジル (Jack & Jill)」に主演していたアマンダ・ピート、海軍弁護士のエンブリィ中尉に「サンフランシスコの空の下 (Party of Five)」のアダム・スコット (実は彼が出てきた時は私は既にこの番組を見なくなっていたが) と、アメリカのTVファンには馴染みの顔が揃っている。実は「青いドレスの女」を見ていないので、監督のカール・フランクリンが演出した作品を見るのはこれが初めてなのだが、こういう、筋の読める作品でも退屈しないで最後まで見せてくれるのは、彼のお手柄によるところも大きいだろう。







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