ヘヴン・セント   Heaven Sent

放送局: FOX

プレミア放送日: 7/30/2016 (Sat) 20:00-21:00

製作: モンデレス・インターナショナル、アミューズメント・パーク・エンタテインメント

製作総指揮: クリス・タリー

出演: ルーク・エイキンス


内容: LA郊外で、高度25,000ft (約7,600m) からパラシュートを使わずに、地上に張ったネットめがけてダイヴする。


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Heaven Sent


ヘヴン・セント  ★★1/2

命知らずのスタントのTV生中継というと、近年ではハイ・ワイヤー (綱渡り) アーティストのニック・ワレンダが行った数々の試みがすぐ脳裏に浮かぶし、それ以前のデイヴィッド・ブレインの、スタント、というよりも身体の限界に挑戦した耐久記録挑戦も記憶に残っている。


ただ、いかにも大記録に挑戦するという華々しい派手な印象で断トツ記憶に残っているのは、なんといっても4年前 (もう4年になるのか!) にフェリックス・バウムガートナーが行った、高度128,000ft (約39,000m) からフリーフォールした「スペース・ダイヴ (Space Dive)」だ。


ほとんど宇宙から地表にダイヴしたこのスタントは、宇宙服を着て遥か足元の青い地球に向かって点となって落ちて行ったバウムガートナーのイメージがあまりにも鮮烈で、忘れようったって簡単には忘れられない。


バウムガートナーは宇宙服を着て、パラシュートを背負ってダイヴしたわけだが、今回、それと似たようなことをパラシュートなしでやろうとする男が現れた。それがこの、ルーク・エイキンスによる「ヘヴン・セント」だ。


パラシュートなし、むろん宇宙服もなしだから、バウムガートナーのように成層圏からダイヴするというわけにはいかない。バウムガートナーは高度約4万mから飛んだが、エイキンスが飛ぶのは高度8千m弱だ。数字としては、エヴェレストの8合目から地表にダイヴするという感じだ。具体的なイメージが想像できると、これだってすげえと思う。防寒具なしでは寒いだろうし空気も薄いだろう。やっぱり宇宙服のようなものが必要じゃないのか?


実際、この高さでは気温は華氏零度、摂氏-17度程度になるそうで、防護服なしでは数分以上は耐えられまい。また、高度が18,000ft (約5,500m) くらいに下がるまでは、小型の酸素ボンベを利用して酸素を供給するのだそうだ。


またあまりにも高度が高過ぎると、今度は気流の乱れによって目的の着地点から大きく逸れる懸念が出てくる。パラシュートを装着していないわけだから、目標地点に到達できなければ、それはそのまま地面への激突死を意味している。てなわけでたぶんこの辺りが、宇宙服、パラシュートなしで飛べるぎりぎりの高さなんだろう。


着地地点には広さがだいたいサッカー・フィールドくらい、高さ20階建てのビルくらいのネットが建てられている。それに向かってジャンプするわけだ。このくらいあるとただネットといっても巨大で、たぶんこのためだけに製作された特注品だろう。それを支えるのは、高層ビル建築用の、これまた特大のクレーンだ。


人が砲身の中に乗り込み、発射して何十mか先のネット上に着地するというスタントがあるが、このネットをさらに巨大化したものと思えばいいだろう。そのネットに着地した瞬間に支えているポールが倒れたという事故の瞬間も、劇的瞬間を集めたTV番組等で何度も目にしたことがある。今回はもしそういう事故が起こった場合、大事故、というか、まず命を失うのは避けられまい。というか、まずそのネットに無事着地するのが先だ。


とはいえそれを高々度から眺めると、ただの点にしか見えない。というか、ほとんど何も見えない。それで周りをライトで囲み、明滅して位置を教える。


飛行機からジャンプしてしばらくの間は、一緒に飛ぶ随伴者も4人ばかりいる。むろん彼らはちゃんとパラシュートを着用している。初期の段階でエイキンスに何かトラブルが起きた場合に備えているわけだ。途中までは彼らも一緒にフリーフォールする。


高度5,000ft (約1,500m) になると随伴者は離脱、ここから先は泣いても笑ってもエイキンス一人の世界だ。そして無事ネット上空までたどり着き、ネットまで200ft (約60m) というタッチダウン直前に、エイキンスはくるりと身体を反転させ、背中から落ちる。考えたらそのままうつ伏せ状態でネットに突入したら、勢いでエビ反り状態になってしまう。それでは腰を痛めてしまう危険がある。


実はこのスタント、ぎりぎりまで実現するかどうかわからなかったそうだ。というのも、製作に携わるユニオンが、エイキンスにいざという時のためにパラシュート装着を迫ったからだ。とはいってもこのスタントはパラシュートを装着しないことに意義がある。それでは本末転倒だ。


かつてニック・ワレンダが命綱を着用してナイアガラの滝を渡ったことがあったが、結局それがスタントの大部分のサスペンスを殺してしまっていたことを考えると、たとえ最終的にパラシュートや命綱を使うことはなかったとしても、それを準備していることによる本人の気持ちのあり方や、観客の立場から見たスリルの減殺は避けられない。結局エイキンスにパラシュートなしで飛んでもいいという許可が下りたのはスタントの直前だそうだ。スタントする本人の立場からすると、神経を統一したいのにこんなことで直前まで煩わされたくはなかろう。とはいえそのため、最悪の場合を想定して、中継のFOXは、生中継と銘打ってはいるが、実際には10秒遅れの時間差で放送した。もし万一の事態が出来した場合は、そのシーンは直前でカットできる。


さて本番となり、エイキンスは30分くらいをかけて空高く飛行機で上っていく。そして頃合いを見てジャンプ。このくらいの高さだと、飛行機からジャンプしてから着地まで僅か2分くらいしかかからないのだが、それでも、というか、それだからこそ、というか、本人や随伴者のGo Proがとらえた映像は、ほんの一瞬だからこそ印象的で手に汗握る。


結局エイキンスは無事着地に成功、地上で待っている関係者の喝采を浴びた。実はエイキンスが着ネットしたのは見たところ結構端の方で、一瞬どきっとした。ネットもかなり下の方までたわみ、あれ、もうちょっと低く張っていたらかなりやばかったんじゃないかと思った。さて、次のこちらの肝を冷やすようなスタントは、誰が、いつ、何をやってくれるのか。










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