「ハッピー!」は、グラント・モリソンとダリック・ロバートソン作の同名グラフィック・ノヴェルのシリーズ化だ。最近はマーヴェル・コミックスとDCコミックスの映像化が映画、TVを問わずあまりにも多過ぎて食傷気味で、もうあまりコミックス原作のスーパーヒーローものはいいかなと思っていたところに現れたのが、「ハッピー!」だ。
「ハッピー!」は、タイトルだけ聞くと子供向けのディズニー・アニメーションを連想しそうだが、実はまったくそんなことはない大人向けの、血飛沫ヴァイオレンスばりばりの犯罪ドラマだ。ただし一部アニメーションが入る。そのアニメーション・キャラクターが、ハッピーという一見しただけでは空を飛ぶユニコーンだかサイだかトナカイだかよくわからない小型動物 -- 本人自身はウマだと言っている -- なのだ。
実はハッピーは、元刑事の主人公ニックの娘ヘイリーのいわゆるイマジナリー・フレンズ、想像上の友人だ。ニックは今では身を持ち崩している暗殺請け負い人だ。ヘイリーは娘だが、どうやらニックはそれを知らないらしい。ヘイリーは、ある夜、誘拐され、ハッピーをニックの元に飛ばして助けを求める、というのが話の出だしになっている。ということは、ヘイリーはニックが父ということを知っているのかと思うが、どうやらそんな細部はどうでもいいことのようだ。
もちろんハッピーは想像上の友人であるからして、彼を創り出したヘイリー本人以外から見えるわけはない。しかしニックはいつもクスリ飲んでラリってばかりという精神状態のため、逆に普通の人には見えるはずのないものが見えるという設定に、ある種説得力を与えている。
ニックはある夜、殺しの現場で街の裏のボス、スカラムーチの配下の者と撃ち合いになり、瀕死の重傷を負う。救急車の中で瀕死のニックの前に現れたのが、ハッピーだ。むろんハッピーはニック以外には見えないから、ハッピーと会話しているニックは、周りから見ると危ないおっさん以外の何ものでもない。
運ばれた病院には、スカラムーチが差し向けた刺客のスムージーと手下の者たちがやって来る。これがまたどエスで、ニックが耳にしたはずのパスワードを手に入れるためには何事も厭わない。それなのにまたハッピーは現れ、現れたはいいものの、結局イマジナリー・フレンズでしかないハッピーは、口だけは達者でも物理的にニックを助けることはまったくできず、むしろ邪魔でしかない。果たしてニックは窮地を脱出できるのか‥‥
というのがプレミア・エピソードだ。いかにもアニメーションというキャラクターのハッピーとは裏腹に、強烈なのが血飛沫飛びまくるヴァイオレンス描写だ。まず冒頭、ラリっているニックが鏡を見て銃を自分の頭に押し当てると、次の瞬間、頭の上半分を吹き飛ばされたニックの頭蓋からそれこそ滝のように血飛沫が飛びまくる。ラリっているニックの妄想に過ぎないのだが、この出だしからして人を食っている。
その後もこれでもかとばかりに流血ヴァイオレンスが頻出し、一方、見ようによっては愛らしいアニメーションのハッピーとの対比が、効いているというか、なんともアンバランスで印象に残るのは確かだ。ニックを演じているのがクリストファー・メローニ、ハッピーの声を吹き替えているのがパットン・オズワルトだ。
メローニは、人が覚えているのはやはりNBCの「ロウ&オーダー: 性犯罪特捜班 (Law & Order: Special Victims Unit)」だと思う。暴走しがちなパートナーのオリヴィア (マリスカ・ハーギテイ) を抑える理知的な男という印象が定着していたが、その反動か、最近ではキレキレの役が多い。実際切れると怖そうだ。
ハッピーの声を担当しているオズワルトは、先日もNBCの新コメディ「A. P. バイオ (A. P. Bio)」に出ているのを見たし、売れっ子だ。ちょっとWikiをチェックしてみたら、2017年だけで出演しているTV番組が14本もあった。とはいえ彼の出演作で最も印象に残っているのは、ABCの「エージェント・オブ・シールド (Agents of SHIELD)」の、風采の上がらない四つ子役だ。こっちも一見しただけではヴァイオレントなものとはまるで関係なさそうな風貌なんだが。ま、彼はアニメーションでの出演だからそれはいいのか。