Gravity   グラヴィティ

放送局: スターズ (Starz)

プレミア放送日: 4/23/2010 (Fri) 22:30-23:00

製作: ファイヴ・ミニッツ・ビフォア・ザ・ミラクル

製作総指揮: ジル・フランクリン、エリック・シェイファー、ダン・パスターナック

製作: ダニエル・ハンク

監督: エリック・シェイファー

クリエイター/脚本: ジル・フランクリン、エリック・シェイファー

撮影: マーク・ブランドリ

美術: アラン・ブルックナー

編集: リサ・ブロムウェル

音楽: マシュウ・パケット

出演: クリステン・リッター (リリィ・シャンペイン)、アイヴァン・セルゲイ (ロバート・コリンズワース)、エリック・シェイファー (クリスチャン・ミラー)、セス・ナムリック (アダム・ローゼンブラム)、レイチェル・ハンター (ショーナ・ロリンズ)、ヴィング・レイムズ (ドッグ・マクフィ)、ロビン・コーエン (カーラ・グリック)、ジェイムズ・マルティネス (ホーゲイ・サンチェス)


物語: ロバートは最愛の妻を亡くしてからというものの、人生に疲れていた。思い余ったロバートは、メルセデスに乗って崖から飛び出す。しかしちょうど崖下にはクルーズ船が航行中で、その甲板のプールに飛び込んだロバートは、九死に一生を得てしまう。リリィはデパートのメイキャップ嬢だが、誰も彼女のことを慮ってくれる者はなく、すべてに絶望していた。ある夜、リリィはケーキと共に大量の薬を飲んで服毒自殺を図るが、通報によって発見され、彼女も生き延びる。そんな二人は、自殺を試みた者たちの自助組織で出会う。そこでは車椅子に乗るドッグと呼ばれる世話人が、定期的にミーティングを開いて皆の交流を図っていた。



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だいたい、アメリカにおける30分のスクリプト番組というと、コメディと相場が決まっている。ドラマは、物語を醸成するのにどうしても1時間はかかるというのが一般的な認識だ。また、歴史的に、観客の笑い声が被さるシットコムは30分番組だ。そのため30分番組というと、ほとんど反射的にこれはコメディだなと思ってしまう。


それが近年、どうもそうではなくなってきた。むろん昔だって、例えば「ワンダー・イヤーズ (The Wonder Years)」のような、30分番組ではあっても、むしろドラマと呼ぶ方が相応しい番組はあった。しかし最近の30分コメディ、というか30分ドラマのように、右を見ても左を見ても30分ドラマばかりという時代はなかった。


この傾向は数年前から始まっているが、基本的に、30分ドラマは金を払わないと見られないペイTVが牽引している。このジャンルの最初のヒット番組が、HBOの「Sex and the City」と断言してしまっていいだろう。一応「Sex and the City」はまだ誰が見てもコメディだと思うが、描写に自主規制がかからないHBOで放送されることによって、裸や規制用語だけでなく、ネットワーク番組ではあまり描けない題材も盛り込めた。


そうやって内容に深みを与えることによって、コメディでありながら、問題提起のできるドラマ的な要素をも併せ持ち、そのことによって人気を得た。HBOはその後も「アントラージュ (Entourage)」、巨大な一物を持つ男を描く「ハング (Hung)」、ジェイソン・シュワーツマン主演の「ボアード・トゥ・デス (Bored to Death)」等の、この系統の30分コメディを編成している。


これに追随したのが同じくペイTVのショウタイムで、マリファナを栽培する家庭の主婦を描く「ウィーズ (Weeds)」、セックス・アディクトの男を描く「カリフォルニケイション (Californication)」、多重人格の家庭の主婦「ユナイテッド・ステイツ・オブ・タラ (United States of Tara)」、ヴェテラン看護婦の日常「ナース・ジャッキー (Nurse Jackie)」と、この手の30分コメディが並ぶ。


さらに最近はペイTVでは新参のスターズも、この潮流に便乗してきた。それでもセレブリティご用達セラピストを描く「ヘッド・ケイス (Head Case)」、パーティ・ケイタリング企業を描く「パーティ・ダウン (Party Down)」まではコメディと呼べたが、今回編成した「グラヴィティ」は、自殺未遂経験者の自助組織を舞台とするコメディだ。


だいたい、自殺未遂経験者を主人公にしてコメディが撮れるか。まあ、やってやれないことはないだろうが、しかし、どう考えても、この題材だとコメディよりドラマの方が作りやすいだろう。ブラックなコメディ路線は狙えるだろうが、なにも無理してコメディにする必要もなかろうにと思ってしまう。


そして実は「グラヴィティ」だけではなく、上述した30分コメディは、多かれ少なかれどれもこれもそうなのだ。これらの番組は、一応すべてコメディと題されてはいるが、素直に笑える番組はほとんどない。というか、はっきり言ってどれもこれもまず笑えない。30分の間で一度くすりとできたらいい方だ。これではコメディとは到底呼べない。歴史的に30分のスクリプト番組はほとんどがコメディだったので、それに倣っただけという感じなのがほとんどだ。


要するに、それらは基本的に30分ドラマと呼んでしまって差し支えないかと思う。描写に制限のないペイTVという舞台と、ドラマほど重々しくなく、短い時間でぴりりとスパイスの利いた番組を作りたいという番組製作者の欲求がマッチして出てきたのが、30分コメディ、あるいは30分ドラマなのだ。作り手は本気で見るものを笑わせようとしているわけではない。そこにはひねった視点は導入されているかもしれないが、哄笑は用意されていない。


そして「グラヴィティ」だ。だいたい、自殺未遂をした者たちの自助組織と書くと、一瞬、過去、自殺に失敗した者たちが、今度は間違いなく完璧に自殺できるよう協力し合うネットワークかとカン違いしそうになる。むろんそんなことはなく、皆で協力してお互いに自殺を考えることなく生きていけるように助け合おうというのが、その趣旨だ。番組はその組織に集う自殺未遂者たちを描く。‥‥うーん、どう考えてもコメディにはなりそうもない気がする。


主人公ペアの一人、ロバートを演じているのがアイヴァン・セルゲイ。ちょこちょこと色んなところで目にするが、やはりいまだに一番記憶に残っているのは、ジョン・ウーの「狼たちの絆 (Once a Thief)」だ。対するリリィに扮するクリスティン・リッターは、最近はAMCの「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」で、アーロン・ポール扮するジェシのドラッグ・アディクトの恋人役を演じていた。シルヴェスタ・スタローンの元妻のレイチェル・ハンターも出演している他、ヴィング・レイムズが、車椅子に乗る自助組織のまとめ役のドッグとして登場する。


やっぱりというか、番組第1回の最後では、集会メンバーの一人が、自殺する。その男はメンバーの中で最も軽口が多く、少なくともこの中では最も自殺から縁遠そうに見えた。なんというか、毎回一人ずつ死んでいって、最後は「そして誰もいなくなった」みたいに終わるミステリーかとすら思えてくる。少なくとも、笑えないとだけは言える。番組では、なぜだかリリィにつきまとう刑事もいて、その辺もミステリというか、事件性を漂わせている。ペイTVの笑えないコメディ路線は、今後もしばらくは続きそうだ。








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グラヴィティ   ★★1/2

 
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