アメリカにおけるバットマン人気というのは不動だ。バットマン以外にもスーパーマン、スパイダーマン、Xメンというこれまた大きな人気を誇るスーパーヒーローは掃いて捨てるほどいるが、バットマンのようにほぼ隔年で新作映画が公開され続けるほど人気のあるスーパーヒーローは他にない。
一方、スパイダーマンやアベンジャーズはTVでアニメーション・シリーズが放送されていたりしているなど、子供受けはこちらの方がいい。これはスパイダーマンが時にコミカルな要素があること、アベンジャーズの場合は複数のスーパーヒーローが存在するために、幅広くアピールし、話を展開しやすいこと等がその理由として挙げられると思う。
バットマンだって遥か昔の60年代は、実写TV番組として人気があった。しかし今のように最新製作技術の粋を集めて定期的に映画化されるようになると、実写TV化しても見劣りするのが必至だ。その上わざわざTV番組まで作ってバットマン飽和状態にして人々から飽きられる素地を作ることもあるまい、ということで製作者が手をつけなかったんじゃないだろうか。
ただし、確かにこれ以上バットマンに手垢をつける必要はないだろうが、その周りの環境を描く話となると、話は別だ。元々バットマンには、悪役を含め印象的な キャラクターは多い。バットマンを描くのではなく、バットマンを現出せしめた、それらの諸々のキャラクター、特にゴッサム・シティで常に孤立しているバットマンの、唯一の味方、理解者と言えるゴードンに焦点を絞って描けば面白いのができるんじゃないだろうか、とまあたぶんそんなことで製作されたと思われるのが、「ゴッサム」だ。
というわけでもちろん主人公はバットマンことブルース・ウエインではなく、その素性を知っている (ことになってたんだっけ?) ゴードンということで話は進む。孤高のスーパーヒーローはバットマンただ一人かもしれないが、孤高の存在はバットマンだけではない。バットマン同様周りを敵に囲まれながらも孤軍奮闘するゴードンもいる。バットマンはたった一人で戦うスーパーヒーローかもしれないが、味方の振りして実は敵ばかりに囲まれたゴードンの方が、実はもっときつい戦いを一人ぽっちで行っているかもしれない。婚約者のバーバラでさえ、実は敵か味方かよくわからないようなところがある。
主人公ゴードンに扮するのがベンジャミン・マッケンジーで、FOXのプライムタイム・ソープ「ジ・O.C. (The O.C.)」の後、NBCで警官ドラマの「サウスランド (Southland)」に主演したがキャンセルされ、TNTに拾われて5シーズンまで続いたが、結局大きく成功することなくやはり最終的にキャンセルされた。その後すぐ「ゴッサム」主演に抜擢されるところを見ると、力は買われている。
本当は主人公であるが今回は脇的扱いのバットマンことブルース・ウエインの少年時代を演じるのは、これまたFOXの「タッチ (Touch)」で自閉症の天才少年を演じていたデイヴィッド・マズーズ。ジェイダ・ピンケット・スミスがフィッシュ・ムーニーをすごく力を入れて演じているのも印象に残る。
上にも書いたが「バットマン」は、主人公バットマンだけでなく、脇や敵役に印象的なキャラクターが多い。だからこそ今回ゴードンが主人公になったわけだし、ペンギンやジョーカー、キャット・ウーマン等、映画で力のある演出家や俳優が演出したり演じたりしているから印象に残るということは当然あるだろうが、それでも悪役に感情移入させる度合いや回数の多さでは、近年のスーパーヒーローもので「バットマン」の右に出るものはない。正義と悪の概念が曖昧で、スーパーヒーローの主人公がほとんど自虐的というくらい内向的で、お前もうちょっとしゃんとせんかい、と叱咤したくなるくらい時に情けない。
一方、悪役は時に正義の味方より魅力的だったりする。番組第1回では既にペンギンがほぼ全開で自己陶酔と自己利益に徹し、周りに迷惑かけまくる。ゴードンやバットマンはこんな曲者を相手に回し、多くの場合、敵を倒して人から恨まれるのは自分の方だったりする。スーパーヒーローも人間のヒーローも楽じゃない。